第23話 エミリ救出同盟
「監視下に置かれていることや、家族を人質に取られていることもあり、私一人ではエミリを助けることが出来ない。誰かの協力が必要なんだ」
ロジクルさんは切実に語り、頭を下げた。俺たちは互いに顔を見合わせた。エレンもメアも、俺を見て迷いなく頷く。
俺は「はい」と、ハッキリと返事をした。
「もちろんです。っていうか、そもそも初めからエミリを助けたいって言ってここに来たんですから。当然ですよ」
「はは、そうだね。陽翔は初めから答えがわかっていたようなものだが、君たち二人も手伝ってくれるということでいいのかな」
「今の話を聞いたら放っておけません。元々陽翔のことは手伝うつもりでしたし」
「陽翔一人で行かせるなんて、そんな危ない真似させられるわけないでしょ」
「それは頼もしい。まさか、三人も仲間が増えるとは思っていなかったよ」
ロジクルさんは嬉しそうに笑うと、もう一度俺たちを見回した。
「それでは、今から私達は目的を同じにした仲間だ。敬語なんて堅苦しいのはなしでいいよ。気楽に行こう」
「えっ、そんな国内トップの大魔法使い様にそんなことは……」
「お兄は頭が固いのよ。せっかくロジクルさんがこうやって言ってくれたのに」
慌てたように手を振るエレンを、メアがぎろっと睨んだ。妹に睨まれたエレンは、おとなしく手を下ろす。
「アタシはメア。エミリを助けるためにアタシも頑張るわ」
「ありがとう、メア。ともに頑張ろう」
「僕はエレンで……す。だめだ、まだ慣れない! もう少し待ってください……」
笑顔であいさつしたメアとは対照的に、エレンが頭を抱える。なかなか愉快な光景だ。にしてもメアがこんなににこやかに話すなんて、相当ロジクルさんはすごい人なんだろうな。ゴンゴさんとの対応の差が歴然だ。
「まあ無理にタメ口にしなくても大丈夫だろ。改めまして、一ノ瀬陽翔です。早速ロジクルさんに聞きたいことが二つあるんだけど、いいかな?」
「うん。何だろう」
俺が手を上げると、ロジクルさんはすぐに俺を見た。
「一つめ。今の俺は魔法で記憶を書き換えられた状態だと考えてるんだけど、実際はどうなんだろう。一応そこのところをハッキリ聞いておきたくて」
じゃないと、モヤモヤしたものが少し残ったままになってしまう。
ロジクルさんは「そうだね」と小さく頷いた。
「それで合っているよ。エミリは魔法が使えないから、魔法をかけたリボンを常に付けさせていたみたいだ。『エミリを人間だと認識させる魔法』で、その魔法をかけられた相手は、エミリのことを昔からいた存在だと認識するし、記憶も都合の良いように書き換えられる。君がエミリを幼馴染だと言っていたのも、その魔法の効果だろう」
「詳しいことまで知ってるのね」
「その魔法には私も携わったからね。それなりには知っているさ」
ロジクルさんは自嘲を含んだ笑みを浮かべる。孫を利用する計画に携わったことを悔しく思っているのだろう。
俺は、もう一つと指を一本立てた。
「二つめ。ロジクルさん、エミリに星送りの歌みたいなの教えてない? その歌を教えてほしいんだ」
俺の質問に、ロジクルさんは少し考え込んだ。それから、「あれか」と懐かしそうに目を細めた。
「いいよ。歌おうか」
星の輝きが曇るとき 光をもたらすものは愛
すべて正しきに導く者と すべて受け入れる広き者
世界を超えしその愛は 希望の元に巡り逢わん
どうか我らをお守りください 我らの世界に光あれ
ロジクルさんは、ゆっくりとしたテンポで歌った。その声に、記憶の中のエミリの歌声が重なる。間違いない。エミリはこの歌を歌っていた。懐かしさと寂しさで、胸が痛い。
「これで合っているかな」
「……うん。エミリもこれを歌ってた。ありがとう、ロジクルさん」
とにかく、これで答え合わせも終わった。エミリは俺の幼馴染じゃない。それなりに……いや、結構ショックだけど、今更落ち込んでる場合じゃないよな。
俺が少し沈んでいると、ロジクルさんは何か思い出したように手を打った。
「そうだ。陽翔に見せなければならないものがあるんだ」
確か棚に仕舞ったような、と立ち上がり、棚の方へ歩いていく。そしてすぐに、俺の前にボロボロになった紙を置いた。
「これは君の物かな? 日本語で書かれているから、そうかと思ったのだが」
千切られたノートのページが、封筒の形に折られている。そしてその表には、確かに漢字で「一ノ瀬陽翔へ」と書かれていた。まさかこっちの世界で自分の名前を見るとは思っていなくて、少し驚く。
「たしかに俺宛てみたいだな。これはどこで?」
「この前家の前を掃除していた時、森の中に落ちていたのを見つけたのだよ」
「陽翔、僕にも見せて」
エレンが俺の手元を覗き込む。雨で濡れたりしたのか、紙はボロボロになっている。破らないよう、慎重に紙を開いた。
『ハル、元気か? お前が行方不明になってから、もう二週間経った。警察が出動してもまったく見つからないし、お前の家族も悲しんでる。ほとんどのヤツらが、一ノ瀬陽翔は恋人のエミリを追って自殺したと考えてる。
でも、俺はそうじゃないって信じてる。だってお前エミリの恋人じゃないもんな。後輩から聞いたよ。お前がエミリを探しに行くって言い残したことと、多分お前とエミリは屋上の同じところから飛び降りて消えたんだろうってこと。どうしてエミリは死んだことがわかってて、お前は行方不明なのかはわからないけど、多分いろいろあるんだろう。そして、この考えが正しいのであれば、俺の手紙はハルの元に届くはずだ。
ハル。お前はエミリにもう一度会うために、どっかに消えたんだよな?
それなら文句ねえよ。お前の母ちゃんと父ちゃんのことなら俺が何とか励ますから、お前は思う存分エミリに会って来い。それで、無事に帰ってきてラーメンおごれよ。絶対だからな。
またな、ハル。教室で待ってるぜ。
小松拓哉』
汚い字で書きなぐられた長文。遥か遠くの友人から届けられた言葉を頭に刻み込むように、読みづらい文章を何度も何度も読み返す。
「学校の友達からの手紙だ。なんか、そいつもこの世界の存在に気が付いたらしい。それでこの手紙を届けたって」
「すごい。頭がいいな」
「いつも赤点ギリギリのくせして、こういうときだけ頭働くのずるいよな。ちょっとカッケーじゃん」
エミリが死んだって言われてたから俺も死んだことになってると思ってたけど、どうやら違うらしい。あー、早く帰らないとな。早く家族のところに帰って、タクにも感謝と謝罪しないと。わざわざ異世界にまで手紙を届けてくれる友人は大切にしないといけない。
世界を超えたエールを貰ったんだから、エミリが幼馴染じゃないからって落ち込んでいるわけにはいかないよな。
「他に何か書いてないの?」
「帰ってきたらラーメンおごれよ、だってさ。結構安上がりだよな」
俺は笑うと、丁寧に紙を折りたたんだ。胸ポケットにしまって、ロジクルさんを見る。
「ロジクルさん、これからの作戦とか計画ってもう練ってあったりする?」
「いや……正直なところ、あの水晶玉を作ることで精いっぱいだった。具体的なことは何も考えていない。それに、水晶玉があっても流石にこの小屋を長期間離れれば、向こうにバレてしまうだろう」
「それじゃ、ロジクルさんは一緒に行動できないってことね」
「そういうことだ。お願いしておいて申し訳ない」
ロジクルさんが頭を下げる。「代わりにと言ってはなんだが」とポケットから何かを取り出した。
「これを預けよう。魔道具で、魔素を流し込めば私といつでも会話することが出来る」
渡されたのは、小さな石がついたペンダントだった。石は水晶玉と同じ色をしている。
「いきなりロジクルさんが動けば、間違いなく大事になるだろう。まずは僕たちが動いて、最後にロジクルさんに出てきてもらうのが一番良い。ロジクルさんには一緒に計画を考えてもらって、わからないことも教えてもらうことにしよう。城のことについては、ロジクルさんがこの場で一番よくわかっていらっしゃるはずだから」
「うん。私が知っている限りのことは、何でも話そう」
エレンが「ありがとうございます」と笑う。俺は立ち上がると、こぶしを天に向かって突き上げた。
「それじゃ、エミリ救出作戦の始まりだ!」
おー、と三人の声が重なった。
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