第16話 お似合いの2人 <終>

 翌日―


私が学校から帰宅すると、メイドのアリスが慌ただしく出迎えにやって来た。


「フローラ様・・・た、大変です・・・。」

 


ハアハア息を切らせながらアリスが言う。


「大変ですっ!クリスタ様が・・・!」


「クリスタ様がどうしたの?」


「な、何とお1人でいらしたのですっ!今客室でお待ちです。すぐにいらしていただけますか?」


「わ、分ったわ。」


制服を着替える間もなく、私はアリスの後に続いた。




「クリスタ様。」


客室を開けて中へ入ると、椅子に座っていたクリスタ様が立ち上がって笑顔を向けた。


「フローラ様っ!」


「一体どうされたのですか?お身体の具合は?お1人で来られたのですか?」


つい、立て続けに質問してしまった。するといきなりクリスタ様は頭を下げてきた。


「申し訳ございませんでしたっ!フローラ様っ!」


「え?クリスタ様・・・何故頭を下げるのですか?」


するとクリスタ様は言った。


「私・・私が今までお二人のお手紙を隠していたのです!」


「え・・?な、何故ですか・・?と、取り合えず座って下さい。」


私はクリスタ様を促し、自分も向かい側のソファに座った。


「はい・・私はお二人の恋文を・・妨害してしまったのです・・。どうしても・・お二人の仲を引き裂きたくて・・・。」


ついにクリスタ様は自分の気持ちを告白した。


「大丈夫です。安心してください、私はノエル様に婚約破棄をお願いしましたから。」


私はニッコリ微笑んだ。


「ええ・・・安心しました。これで私は心置きなく告白できます。」


クリスタ様は頬を染めて言う。うん、とても正直で・・・・可愛らしい方だ。きっとノエル様と幸せになれるだろう。


「それは良かったですね。」


「本当にそう、思ってくれますか?」


「ええ、勿論です。」


クリスタ様の言葉に頷くと、ますますクリスタ様は真っ赤になり・・私を見つめると言った。


「フローラ様・・・。好きですっ!私は・・・貴女を愛しておりますっ!」


「え・・えええええっ?!」


衝撃の告白に驚いていると、クリスタ様はソファから立ちあがり、私の隣に座ると両手を取り、握りしめてきた。


「フローラ様、初めて貴女を見た時から、私はずっと貴女をお慕いしておりました。そこでノエルに無理を言って、一緒にこちらへ来ていたのです。そして日ごとに貴女への恋慕が抑えきれず・・お2人のお手紙を隠しておりました。ですが、昨夜ノエルから話を聞きました。フローラ様に婚約破棄をしたいと言われていると。フローラ様、ノエルとは別れるのですよね?つまり私にチャンスがあると言う事ですよね?どうか・・どうか私の愛を受け入れて下さいっ!」


そして強く抱きしめてきた。


「ちょ、ちょっと待って下さいっ!わ、私には女性を愛する趣味は・・・!」


しかし、クリスタ様はギュウギュウにしがみつき、耳元で囁く。


「クリスタ様のその美しい黒髪・・その神秘的な緑色の切れ長の瞳・・そのどれもが私を惹きつけて離しません。お願いです・・・私は貴女を・・・。」


「お、落ち着いてくださいっ!クリスタ様っ!」


最早私は完全にソファの上に押し倒されていた。妖艶な笑みを浮かべたクリスタ様はどんどん唇を近づけて来る。も、もう駄目・・・!


その時・・・・。


「おや?フローラ。そんなところで何をしているんだい?」


ドアの隙間から兄のレナートが顔を覗かせた。


「お兄様っ!」


クリスタ様の下で必死に叫ぶ。


「お兄様・・?」


クリスタ様は兄の方を向き・・・途端に顔が真っ赤に染まる。


「な・・・何て素敵な殿方・・・。」


え・・・?


どうやら・・・クリスタ様は兄に恋をしてしまったようだった―。




それから1月後―


最速のスピードで兄とクリスタ様は婚約発表をした。その夜は盛大なパーティーが行われ、私とノエル様は会場を抜け出して、夜の庭園のベンチに座っていた。


「おめでたいパーティーですね。」


隣に座るノエル様に私は微笑んだ。


「うん、本当にね。でも・・君から婚約破棄を言われた時はどうしようかと思ったよ。だって僕は本当に君が大事なのに、理由も聞かされずいきなりだったからね。」


「申し訳ございませんでした・・・てっきりクリスタ様と恋仲だとばかり思っていて・・。」


「それこそあり得ないよ!僕とクリスタは本当に兄と妹のような関係なんだからさ。でも・・・フローラ。僕に嫌われるために、あんな真似するとは思わなかったよ。」


ノエル様は意味深に笑う。


「あんな真似・・・?」


「そう、ほら。あの高笑いだよ。」


途端に私の顔は真っ赤になる。


「あ・・・あの事は忘れて下さいっ!は・・恥ずかしいです・・。」


しかし、ノエル様は言った。


「どうして・・?あの傲慢そうな微笑み・・・・耳に触るキンキン声の高笑い・・・どれも最高だったよ。あれを聞くたび、僕はずっとゾクゾクしていたんだ・・・。」


ん・・?何だかノエル様の様子がおかしい・・。そしてノエル様は耳元で言った。


「フローラ。今度はもっと過激に僕をののしってくれるかい?あの時の胸の高鳴りが・・・今も忘れられないんだ。」


「・・・・・。」


頬を赤らめるノエル様。どうやら私はノエル様を新たな世界?へ目覚めさせてしまったようだ。


だけど、実は私もあの悪役令嬢を演じていた時に高揚感を感じていた。

だから私はノエル様の頬に手を当て、口づけすると言った。


「ええ、分かりました。ノエル様。フフ・・可愛い方でわね?」


「フローラ・・・様。」


ノエルはうっとりした目で私を見つめる。


きっと、私たちは夫婦になってもうまくいくだろう。


空の上では月が優しく私達を照らしていた―。



<終>



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悪役令嬢は高らかに笑う 結城芙由奈 @fu-minn

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