第15話 真っ赤なドレスと高笑い

「とにかく、この屋敷に今後も来たいのであれば、どうぞご自由にいらして下さい。幸い、クリスタ様もここをお気に入りの様ですからデート場所にでも利用して頂いても結構ですが、私にはもう構わないで下さいませ。後、クリスタ様の具合が良くなられましたら早々にお引き取り下さい。早く邸宅に連れ帰られて、大切なクリスタ様の看病をなさって下さいませ。」


私は、ノエル様に一言も喋らせないように一気に話すと、そのままクルリと背を向けて歩き始めた。

一瞬、少しでもノエル様が引きとめてくれる事を願ったのだが・・・それは空しい願いだった。何故なら私が背を向けて歩き始めた直後にクリスタ様の寝かされている部屋のドアがカチャリと開けられた音がしたからだ。きっとノエル様がクリスタ様の様子を見に部屋に戻ったのだろう・・・。


これで私はノエル様に愛想を尽かされ、婚約は破棄されるだろう・・・私はそう思ったのだが・・・。




翌日―


「フローラ様。またノエル様がクリスタ様を連れて庭園にいらしてますよ?」


昼食後、紅茶を飲みながら大好きな読書をしていた私に専属メイドのアリスが声を掛けてきた。


「え?!」


思わずカチャンとティーカップを乱暴に置いてしまった私は慌ててテーブルに飛び散った紅茶をペーパーで拭きとりながらエルを見た。


「ま、又来ているの・・・?昨日の今日で・・・?」


「ええ、そうです。でも・・今日も休日で学校はお休みですけど・・。ですが、本日は顔合わせのご予定はありませんし・・。」


アリスは首を傾げながら、外の様子を伺っている。


「え、ええ。確かにそうね・・・。」


言いながら、私は内心焦っていた。一体ノエル様は何を考えているのだろう?昨日、あれ程私には構わないでとお願いしたのに、今日もクリスタ様を連れて・・・。

それとも、クリスタ様は本当に我が家の庭を気に入って、それでここを2人のデート場所に指定しているのだろうか?

庭を気に入って貰えるのは嬉しいけれども、出来れば元婚約者の家でデートをするのは勘弁して欲しい。しかし昨日、やけになって自分からデート場所にでも利用して頂いても構いませんと言った手前・・・出て行って下さいと追い返すわけにもいかないし・・・。こうなれば私の顔を見るのが嫌になるくらい、徹底的に2人に嫌われようにしなければ・・・。


「う~ん・・・どうすればあの2人に徹底的に嫌って貰う事が出来るのかしら・・。」


私は腕組みをしながら考え・・・『悪役令嬢は高らかに笑う』のある一節を思い出した。そうだ・・・あの小説の話と同じことをしてみよう・・。


「ねえ、アリス。以前お父様からプレゼントされた、あの真っ赤なドレスを出して貰えるかしら?」


するとアリスは目を見開いた。


「まあ、フローラ様。あのドレスは派手すぎてノエル様の趣味に合わないから、もう着ないとおっしゃっていたではありませんか?」


「ええ。だからこそ着るのよ。あと、アリス。あの2人の為に紅茶と焼き菓子を出して来てくれる?」


「え?ええ・・それは構いませんが・・・でもよろしいのですか?フローラ様。」


アリスは心配そうに私を見る。


「ええ、いいのよ。お願いね。」


私はウィンクをした。



そして、話しは冒頭部分に戻る―。



「オーホッホッホッ!御機嫌よう!ノエル様、クリスタ様!本日はとても良いお日柄ですわねっ!」


高笑いをしながら、私は2人の前に現れると言った。


「お2人と御一緒に、お茶でも頂こうかと思っていたのですけど・・・どうやら一足遅かったようですわね?」


当然、ノエル様とクリスタ様はこれは誤解だとか、偶然用意されたものだと言ってくるが・・・そんなのは百も承知。だってこれは全て私が仕組んだことで、ノエル様に完全に嫌われるための策を練ったのだから。


最後の仕上げに私は2人にとどめの言葉を投げつけた。


「まーあ、お2人供!そのようなお話、この私が信じると思いましてっ?!偶然出会って、偶然ここでお話をしていたら、これまた偶然にメイドがお茶のセットを持って現れるなんて・・。でも、もう結構ですわ!どうぞお2人で仲良くお茶でも飲みながらお話して下さいませっ!邪魔者の私はこれで退散させて頂きますわ。オーホッホッホッ!」



この台詞を聞かされた2人は顔面蒼白になった。その顔を見て私は確信した。


よし、きっとこれで私は完全にノエル様に嫌われ・・ノエル様とクリスタ様の仲は急速に近づき、2人はきっと結ばれる事になるだろう・・・。


そして、私は必死で呼びかける2人の言葉を無視して庭園を歩き去って行った―。

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