これまでとこれから
遊園地について園内に入って必死になって瑠衣を探す。
先ほどキャストさんに閉園時間はもうすぐといわれながらも急いで駆け込んだのでもう閉園のチャイムが耳に聞こえている。
ずっと走っているから体が熱い。
走っている僕の頭の中をよぎったのはなんで僕が。という気持ちよりも
瑠衣に会って話を聞きたい。その一心だった。あって少ししか経っていないかもしれない。僕の愛想が悪くて嫌われてしまったかもしれない。
でも。
それでも。
僕は彼女に伝えないといけないことが、伝えたいことがある。
その想いが疲れ切っている身体に鞭を打つように身体を前へと押してくれている。
瑠衣への想いが今すぐにでも声となって口からあふれそうだった。
この想いを彼女に瑠衣に伝えたい。そう思って走っていると
「透くん?」
後ろからベンチに座って驚いた顔をしながらこっちを見ている彼女がいた。
「瑠衣…」
いざ言葉に出そうとすると口が開かない。
言いたいことはたくさんあるのに本人を目の前にすると言葉が詰まって出てこない。
「とりあえずここ座ったら?」
ポンポンとあいている自分のベンチの隣を彼女は手でたたく。
僕は瑠衣の隣に座った。
「なんで今日学校に来なかったの?家出ていったのもお母さん心配してたよ?」
最初に口から出たのはこんなあたりさわりのない言葉だった。
もっと聞きたいことがあるのに、彼女に嫌われると思うと怖くて言葉が出てこない。
「また急にここに来たくなっちゃって。ほら、なんかあるじゃん?急に来たくなっちゃうこと。」
その言葉を言った声はすごく震えていた。必死に自分を隠しているように僕には聞こえた。
「あるけど、だからってこんないきなり…」
「透くん。」
瑠衣が体の向きを変えてこちらを正面に座った。
「私は透くんにずっと噓をついていたことがあります。」
「私が透くんに言っていた世界が灰色に見えているって言っていたの噓なの。
私は透くんだけの色がはっきりと見えるの。」
さっきボイスレコーダーで聴いていたとはいえ真正面から言われるのは心に響いた。
「私は透くんと出会うまでは、他人と違う自分の見えてる世界がすごく怖かったの。だからこのことを誰かに言ったらいじめられたり馬鹿にされるんじゃないかってずっとそう思ってた。でも、透くんに出会って、透くんの色が見えて、この人にならって思えたの。」
瑠衣が言っていることはもっともだ。誰かに言えば馬鹿にされたりするかもしれない。それが怖いのは当然だ。
「だから、透くんが見えたときがうれしくて、いろいろなところに行きたい、この人と一緒にいられたら幸せなんだろうなって思ったの。今までのはそれで全部だよ。無理やりつき合わせちゃってごめんね?」
そう言って瑠衣はベンチから立って帰ろっかといった。
このままじゃ瑠衣に何も伝えないまま終わってしまう。
彼女が必死に自分の思いを伝えてくれたのに何も言わないで終わるなんて考えられなかった。
「待って。まだ言ってないことがあるから。」
こんな形でこんな時に言う言葉ではないのかもしれない。
「あ、もしかして怒った?大丈夫だよ近づくなって言われたらもう近づかな」
「違う!」
僕にしては珍しく大きな声を出した。
「え、怒ってないならどうしたの?どっか体調でも悪い?」
「確かに僕は最初、瑠衣に振り回されたときはびっくりした。なんで僕なんだろうって。他の人でもいいだろって。でも目のことを聞いたときこんな何もない僕でもこの子の力になれたらって思ったんだ。」
瑠衣は呆気にとられたような顔をしていた。
「遊園地に行った時、ジェットコースターに並んでる最中にする何気ない会話がすごく楽しかったし、写真の時もびっくりしたけど嬉しかった。それに」
こんなに人に正直に気持ちをまっすぐ伝えるのはいつぶりだろうか。
自分でもこんなに言えることに驚いた。
「それに…なに?」
ずっとあのボイスレコーダーを聴いてから言いたかった言葉。
行ったら関係が壊れてしまうかもしれない。それでも僕は君に
「僕は瑠衣のことが好きだから。遊園地なら僕がいくらでも連れていく。行きたいところがあれば一緒に行こう。悩みがあるならいくらでも聞くから。だから、
もう一回いけたらいいなじゃなくてさ、もう一回行こうよ今度はふりとかじゃなくて本当に恋人として。」
言い終えた瞬間自分が何を言っているのかわからなくなった。
そして恥ずかしさで死にたくなった。
瑠衣を見ると目を見開いて数秒間固まっていた。
「え、えっとつまり透くんは私のことが好きで、こ、これからも一緒にいたいってことですか!?」
瑠衣も相当動揺しているようで早口になっていた。
「そ、そうだけどこんなこと言っといてあれだけど返事とかないわけ?」
「そ、そうだよね返事…こんな私で良ければこちらこそよろしくお願いします。ずっと透くんのこと好きでした。」
彼女はいつもみたいにまっすぐな瞳でそう言ってくれた。
「それ言うなら順番逆でしょ。」
「あ!そっか!」
このやり取りをしていて気づかなかったがもう人は園内に僕たちになっていた。
「やば!閉園時間過ぎそう!早くいこ!」
そう言って彼女は僕の方に手を差し出した。
「うん。早くしないと怒られちゃうしね。」
そして僕はその危なっかしくも華奢な恋人の手を今度は離さないという思いで握った。
遊園地から出るともうすっかり暗くなっていて、あたりには駅に向かって帰る人しかいなかった。
「そういえば、さっきのいきたかったってやつなんで知ってるの?」
「それはこれ聴いたからだよ、プリント届けたらお母さんがこれをって」
僕は瑠衣の携帯を出した。
「え!?お母さんが!?なんでそんな恥ずかしいことしちゃうのー!」
確かに本人からしたら想定外のこと過ぎて驚くのも無理はない。
「ってことはもしかして…見た?」
「申し訳ないです…!」
謝ると瑠衣は顔を真っ赤にしながら背中をバシバシたたいてきた。
「痛いって!謝ったじゃん!」
「乙女の秘密を盗み聞きしておいて謝ってすむと思わないでよねー!」
そういいながら瑠衣は楽しそうに横に並んで歩いている。
これから先もこうやってずっと隣を歩いて瑠衣のことを守っていきたい。
彼女の瞳に移っているのは他でもない僕であり、
僕の瞳の中に移っている人も彼女だけなのだから。
灰色の君の世界の見え方 真白 @hiruro0122
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