彼女の瞳には
月曜日、瑠衣は学校には来なかった。
太田たちには、何かあったのかと問い詰められはしたが、何も知らなかったので答えようがなかった。結局出かけたのか出かけてないのかという問いにも出来る範囲で説明したものの僕の説明では信じてもらえなかった。HRの際に坂田が日比野は体調が悪いから今日は休んでいる。とだけ言っていた。その日は久しぶりに僕がゆっくりできた日だった。隣にいる彼女に振り回されることなく、一人でゆっくりと本を読んでいられる自分だけの時間。その感覚がなんだか懐かしくて、ずっとその余韻に浸っていたかった。だけど、なぜか心に穴が開いたような気分になった。ずっと心に埋まらない溝があるような感覚で一日を過ごした。
坂田が帰り際に瑠衣の家にプリントを届けてほしい。と声をかけてきた。
瑠衣と僕が一緒にいたことを知っていたようで僕に声をかけてきたのだという。
「僕よりもっといい人いるんじゃないんですか?」
「お前しかいないから頼んでるんだよ。」
そう言われてプリントで頭を軽くたたかれた。
「日比野のこと頼んだぞ。」
その一言だけ言って僕にプリントを押し付けて坂田は歩いて行った。
プリントにはしっかり住所を書いた紙が挟んであった。
あの教師全部僕に押し付ける気だったな・・・
そう思いながら僕は瑠衣の家に向かった。
瑠衣の家は白を基調とした綺麗な家だった。インターホンを押すとはい。と小さく返事が返ってきた。
「日比野さんと同じクラスの西野です。先生に言われて日比野さんにプリントを届けに来ました。」
そう言うと家の中でドタバタと音がして玄関のドアが開いた。
「もしかして、あなたが西野くん?瑠衣から話は聞いていたけど…」
「はじめまして。西野といいます。えっと日比野さんは僕のことをなんと言っていましたか?」
「あの子は、瑠衣は自分の目のことを知っている友達ができたとだけ教えてくれました。毎日学校から帰ってくるとすごくうれしそうに話してくれるからもしかしたらって思ったの。今、あの子出かけているんです。心配しないでと言っていたんですが学校に行ってなかったなんて…」
どうやら瑠衣は制服でどこかに行ったようだった。
「日比野さんはどこに行くとか言ってませんでしたか?行きそうなところに心当たりとか。」
「そういえばあの子、日比野君が来たらこれを渡してって」
そういわれて渡されたのは瑠衣のスマホだった。
「日比野さんは携帯持たずにいったんですか!?」
「止めたんだけど遅くて・・・」
瑠衣のお母さんは足を怪我しているようだった。足に包帯が巻いてあるのがわずかに見える。受け取った携帯を見るとロックがかかっていなかった。
ロックを外すと数あるアプリの中にボイスレコーダーのアプリが見えた。
「あの…このアプリは…?」
「そのアプリはあの子が目が病気になってからずっと記録しているものなんです。私には聞かせてくれたことはないんですけど…でも西野君なら大丈夫だとおもうわ。」
「俺がいいかどうかは別として確かに行く場所のヒントのなりそうなものとか記録されてるかもしれませんね。わかりました。この携帯しばらくお借りしてもいいですか?」
「はい。あの子のことよろしくお願いします。」
「わかりました。」
僕は瑠衣の家を出て携帯を開いた。
そして失礼と思いながらもボイスレコーダーを聴いた。。
そこには病気になった瑠衣の声が記録されていた。
『私は全部が灰色になってし世界は色一つでこんなにも簡単に変わってしまうことに驚いた。私はこれから先どうやって生きていけばいいんだろう。』
こんなにも暗いまるで希望のない声で喋る瑠衣の声は初めて聴いた。
あの瑠衣がこんなにも重い声で悲しそうにしている姿が僕には想像ができなかった。
次の記録は瑠衣が学校に転校してきたときのものだった。
『今日、私の灰色の世界に光が差しました。この灰色の世界の中にしっかりと色がついている人に今日、出会いました!これは運命だと私は確信しました!名前は西野君っていうんだって!これから仲良くなれるといいなぁ!』
期待に胸を弾ませたようなその声は紛れもなくいつも見る瑠衣の声でだった。
え…?瑠衣がやたらと僕の周りにいたのはこれが理由だったのか。
確かに同じ状況だったら同じようなことを言うかもしれない。
もしかしたら彼氏役をと言っていたのもこのためだったのか。
そう思っていると遊園地の日の記録が流れてきた。
「今日は透くんとデートをしてきました!相変わらず冷めてたけど最後にほっぺにしたのは手ごたえがあったと思います!すっごく楽しくて忘れられない思い出になりました!もう一回いけたらいいな…』
何か引っかかる言い方が気になった。
この内容から察するにもしかすると遊園地にいるかもしれない。
そう思って僕は遊園地へと足を向けて走った。
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