26thキネシス:パワーゲームというのを脳筋的なアレを想像していた高校生

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 実はお寺で修行したいとか思ってたんですよ。

 そんなことをポロッと零したばかりに、鎌倉は河流登寺かりゅうとうじにて座禅など組んでいる陰キャ高校生の影文理人かげふみりひとである。

 カッパの池、と呼ばれた、今は鉄柵に覆われたお寺の裏の池。

 しかし水の流れは妨げられておらず、耳を澄ますと今も日暮らしの鳴き声に混じりせせらぎの音も聞こえてくる。


 その池を正面に見たお寺の廊下で、陰キャは正座していた。

 お寺体験などで脚を崩して楽な格好でやるモノではない、割とガチ目なヤツである。などと考えていたら肩に警策(お仕置き棒)喰らった。こちらも当てるだけとかじゃない、結構響く。


 超能力マインドスキルを鍛える一環で精神修養してみたい、と言ったのは確かにこの陰キャなのだが、既に泣きそう。

 因縁のある池を前にしながら、というのも、己のやった事をかえりみるべしという意味なのか。

 そんな雑念を抱いていると、またパチンと。

 教えられた通り、礼をして、改めて呼吸を整え、数を数え頭を空っぽにする理人だが、これ心の鍛錬になるかなぁ? という疑念はどうしても消えず、再び肩をパチンとやられた。


                ◇


「どうでしょうなぁ? 自分と向き合い、日常の喧噪の中では気付けない心の声に耳を傾けるのが座禅というモノで、心を鍛える~……とは、少し違う気がしますな」


「ですよねぇ」


 その後、ご住職と差し向かいで、お堂でお茶などごちそうになる陰キャである。

 高校の先輩のお父上、河流登寺の住職は、今日も作務衣姿の小柄なおじさんだった。

 そこで、今回の主旨である心の鍛え方などに付いて相談してみたものの、やはりどこかズレていたらしく、陰キャと住職で笑い話状態だった。

 笑っていてはいけないのだが。


「あの……すいませんお時間取っていただいたのに。無駄なことにお付き合いさせてしまったみたいで」


「いやいやいや……。まぁ超能力を鍛えるお役には立てなかったかも知れませんが、これも決して理人さんの無駄にはなりませんよ。

 心を鍛える、心の強さ。さて、わたしも悟るにはまだまだ若過ぎますが、恐らく誰も効果的なトレーニング方法など知らんでしょうなぁ。

 何を以って心の強さとするか、何を心の拠り所とするかは、万人それぞれでありましょう。

 ならば、ご自身の心を知るというのは、案外近道なのかもしれませんな」


「はい……」


 流石はお寺のご住職、結構聞かせるな、と若干失礼な感心の仕方をする陰キャ。

 とはいえ、手探りなりに何となく心の鍛え方が分かったような気がした理人である。


 心を強くするというのは、筋力のようにはいかない。

 それは多分、物の構造のように強い部分弱い部分を知り、時として使い分けることも重要なのだろうと。


「それで、真昼は何をしているのかね? お客様の前でみっともない」


「そ、それは! 今日は座禅の体験にいらしたのに、邪魔はできないと、思っただけです!!」


 これもまた座禅の一環なのか。

 考え込んでいた陰キャだが、気が付くとお堂の入り口の陰から学校の生徒会長、このお寺の子、河流登真昼かりゅうとうまひるが覗き込んでいたらしい。

 父親のお小言に、学校では隠している素の表情で赤くなる生徒会長。

 このあと陰キャは、河流登真昼と先日行った八丈島の話などをして、お寺を後にした。


 襲われることになったのは、この直後だ。


               ◇


 アンダーテイカーには本名で活動する者も多いが、影文理人は『リヒター』の名で裏の世界アンダーコミュニティでは通していた。

 これは、理人が超能力者であること、師となる人物マスターマインドが評判的に少々問題があること、などの理由が上げられる。

 ちなみに、知り合いである目出し帽の兄貴アランやその恋人のミステリアス美女ナターシャ、恩師の娘さんミアなどは本名で活動しているタイプだ。


 故に、素の状態で襲撃されるとは夢にも思わず、怖い以前にビックリする陰キャである。


 河流登寺を出て、お気に入りの電動キックボードで散歩気分で移動。

 瞬間移動テレポーテーションもできるのだが、万が一誰かに追跡されていたりした場合に移動時間など見られて追及されたらいいわけ出来ないので、可能な限り普通に移動するようにしていた。

 理人は現代社会と科学の力を侮ってはいない。


 晩ご飯はカルビ牛丼とアスパラレタスのマスタードソースサラダが食べたいな。

 そんなことを思いながら宵の口の街を走り抜け、踏み切りを抜け少し暗い人通りの無い道に出たところで、目の前に黒い大型車ミニバンが割り込んできた。

 陰キャも道交法を守り路肩を走っていたが、方向指示器ウィンカーけずに停車かこの野郎、と。

 そのようないきどおりを覚える陰キャライダーだったが、勢い込んで降車したかと思えば自分の方へ突っ走ってくる黒服たちの姿に、それどころではなくなった。

 え? 誰? 何事?? と思考が追い付かずポカンとしていたところを、両側から腕を取られて持ち上げられるようにして強引にサイドドアから車内へと連れ込まれる。

 すぐにミニバンは走り出し、目を白黒させながら混乱する陰キャに、黒服のひとりが、


「動くな! 大人しくしていろ!!」


 と恫喝を仕掛けていた。


 おかげで理人も、(あ、これ拉致だわ)と遅まきながら状況を認識することが出来た。


「ごはァアアアア!?」


 そうと分かれば、特に遠慮する必要も無い。

 まず、自分を後部座席にうつ伏せにさせ背中を押し付けていた相手を、後ろ足で蹴っ飛ばす。

 超能力者が『念動力サイコキネシス』を乗せたキックだ。

 蹴っ飛ばされた相手は壁、天井とぶつかり、凄まじい力にライトバンも大きく揺れ、中央車線をはみ出し大きく蛇行していた。


「うわぁああなんだ!?」

「何してるんだ! 大人しくさせろ!!」

「いいからスタンガンを使え!」


 身体の前後を入れ替える陰キャの拉致被害者は、前席から飛び掛ってくる黒服のパンチをかわしてカウンターで掌底アッパー。胸に打撃を喰らった相手は、カタパルトに乗せられたように天井まで跳ね、跳ね返って床に墜落した。

 突き出されるスタンガンは、相手の腕を取り強引に別の男の方へと誘導。横っ面にバチバチいう端子が突き刺さり、裏返った悲鳴を上げ気絶する。

 スタンガンの男は、蹴っ飛ばしたらフロントガラスを突き破り、クルマの前まで飛んでいった。


 唯一残った運転手が、大慌てで急ブレーキをかける。

 間一髪き潰されなかった、スタンガン男。

 後部席は、3人の男が苦痛にうめいている。


 そして、薄闇の中で幽霊のように陰気な男が、運転席のすぐ後ろに潜んでいるのがバックミラーから見えた。


「……素直にどういうことか説明する? それとも、コイツの威力を試す??」


 陰キャの手の中には、フロントガラスを突き破った男の持っていたスタンガンが。

 本人も気付いていなかったが、齢16になろうかという若さでアンダーワールドの戦いを経験している理人の殺気は、一般人には猛獣から睨まれるに等しかった。

 運転手も完全に固まってしまい、生まれてこの方経験したことがないほど震えている。


「待って……待って、くれ……! お、おまえを連れて来るように言われただけなんだよ……!!」


「誰に? なんで??」


「い、言えない許してくれ! おぉ大物なんだよ! お、俺たちがダメでもどうせ次が来る! おまえも素直に付いて来た方がいいぞ実際のところ!!」


「…………スタンガンのバッテリーが尽きたらさ、次はこのクルマのバッテリー使おうか。

 足を水に浸してクルマのバッテリーの電極使う方法、前に軍隊にいた知り合いから教えてもらったんだ」


 感情を感じさせない陰キャのセリフに、運転手は早々にオチた。

 コイツなら本気でヤる、と感じて仕方がなかった為だ。


 ところが、事の仔細を聞き出したものの、今度は理人の方が悩まされることになる。


「……け、警察、でいいのかな?」


「どうだろうなぁ……。ウチの先生は公安委員長が学閥の後輩だし、高い金払って弁護団も抱えているみたいだしなぁ……。

 俺が言うことじゃないけど先生は関与を否定するだろうし、難しいんじゃないか?」


 何となく、運転手の黒服のおっさんに相談してしまう陰キャであった。

 これがアンダーテイカーの『リヒター』として襲われたのなら今頃屋敷を『発火能力パイロキネシス』でフッ飛ばしてやるところだが、『影文理人』としては世間体無視で大量破壊に走るワケにもいかない。


 うーん、と考え込む陰キャと、よろめきながら立ち上がるブッ飛ばされていた黒服ども。

 誘拐の主犯は、理人も間接的に知っている大物権力者。警察など社会的正義はあてに出来ないっぽい。

 多分マスコミもダメ。権力に逆らって事実を暴くような記者はフィクションの中だけの存在となって久しい。

 こうやって見ると危うい社会だなぁ、と。


 世の無常を肌で感じざるを得ない理人は、悩んだ末に首謀者へ会いに行く事とした。

 今回で話が纏まらないようなら、次回は『リヒター』としてお邪魔しようと思う。

 そこで改めて案内を頼んだなら、それなら最初から大人しく捕まっていればよかったのに、などという旨の愚痴をこぼしやがったので、スタンガンをバチバチ言わせて沈黙させた。


               ◇


 東京都内、閑静な高級住宅地の外れ。

 高い外壁に囲まれ立派な門を構えた内側に、そのモダンな豪邸は佇んでいた。

 フロントガラスの無い黒いライトバンは、裏口に当たる通用門から静かに敷地内へ入っていく。

 出入り口や屋敷の庭先といった場所には、似たような黒服が警備している姿が見える。多数ある監視カメラも配置に隙が無い。

 今となっては無役の一議員に過ぎないはずだが、以前に総理職にあった頃と変らない警備体制を敷かれている、とネットニュースに取り上げられていた。


 浜奈甚太郎はまなじんたろう

 自任党の国会議員にして、三代前の総理大臣。

 理人の通う高校の生徒、浜奈菊千代はまなきくちよの祖父でもある。


「こっちへ……」


 ライトバンを運転していた黒服、ちょっと背が低いが工事現場でも働けそうなガタイのいいおっさんが陰キャを呼ぶ。

 勝手口、と言えども一般家庭の玄関よりも立派な扉と作りだったが、そこから理人は中へ通された。

 しかし、一歩中へ入り1分も経たないうちに、奥から別の男がやって来る。

 中年に入りかけ、という事しか理人には分からないが、黒ではないグレーのスーツを着ていた。


「ご苦労様です。後は私が案内を……。影文様、こちらへどうぞ」


 形だけは丁寧に促されたが、口調は酷く無味乾燥で厄介物を相手にするようだった。

 実際、理人をここまで連れて来た黒服ドライバーが平身低頭しており、本来の予定とは違う形の招待だったのは間違いないのだが。

 オレだってこんなところ来たくないわバカ野郎、と理人は思ったが口に出すような勇気はなかった。


 意図的に照明を抑えているのだろう落ち着いた雰囲気の廊下を曲ると、そこで不意に誰かの気配を感じた気がした。

 何せ敵地なので遠慮なく『遠隔視リモートサイト』で確認すると、それは学校でも見たチャラ男だった。

 どうやら通りすがりに理人を偶然目撃したらしい。

 まぁ自宅だからな、と特に問題とも思わず、陰キャ超能力者も放っておく。


(なんであのザコがウチにいるんだよぉ!?)


 そのチャラ男、菊千代きくちよという名前負けした男は、階段の上から信じ難いモノを見て思わず階上に身を潜めてしまった。


 陰キャの通された先は、屋敷の中でも奥まった場所にあるだろうと思われる書斎だった。

 とはいえ理人も、このような部屋に入るのは初めてだ。窓に向かった分厚い木製の机、壁際の革張りソファとガラス戸付きの本棚、壁掛けの大画面テレビ、すりガラステーブルの上の灰皿に微かな残り香と、どことなくプライベートなよそおいを感じる。

 何となく、やはり応接を想定してはいないな、と陰キャは思った。これだけ大きな家なら、客間やそれ専用の部屋くらいあるだろう。政治家なんだし。


 中庭に向いた窓の前にいたのは、スマートな男だった。

 綺麗に撫で付けた白髪、170センチ以上ありそうな高身長、真っ直ぐと姿勢が良いが、振り返って陰キャを見下ろす表情には為政者らしい傲慢さが垣間見える。

 しかし、70代という老齢にして渋い二枚目であるのも分かった。俳優のようでもある。毛糸のベストにベージュのズボンと、シンプルだが身形も良い。

 政治に興味が無い陰キャ高校生は知らなかったが、政治が騒がしくなる度にその意思決定に顔を覗かせる大物政治家の顔がそこにあった。


「……影文理人、君。乱暴な招待になってしまったようで申し訳ない。不出来な孫がお世話になっているようだ」


「はぁ……」


 そこはまず名乗って孫のやらかした事の謝罪じゃないのかよ、とファーストコンタクトから理人は相手への評価をどん底まで落とした。よくこんなのが日本で総理大臣やってたなと思う。

 返事も呆れ気味。かしこまる気も起きない。

 そもそも誘拐を指示した主犯なので、礼を尽くす義理も無かろうが。


 パタン、と扉が閉まる音がすると、ここまで理人を案内して来たグレーのスーツの男も室内に入ってきた。

 ソファに座るよう勧められる。この状況で落ち着いて座るとか無理、と思う陰キャだったが、全員立ったままとかいうのもそれはそれで落ち着かないので、秤にかけた末に座る事とした。


 理人がソファに座ると、対面にグレーのスーツの男が座る。元総理は立ったままだ。おまえは座らないのかよ、と思ったが、やはり口には出せない。


わたくし、浜奈の秘書をしております江田と申します。本日は影文様と今後の条件面についてご相談させていただきたく思います」


「『条件』って、なんの……?」


「決して影文様にとって悪い話ではございません」


 何のことやら分からないが、まず言わないといけない事があるんじゃないのか。どうしてまるで何事もなかったかのように話をはじめるのか。

 そんな疑問で頭がいっぱいの陰キャだったが、グレースーツの秘書は構わず話を進めていた。


「影文様と浜奈の孫、菊千代きくちよ君の間で不幸な行き違い・・・・・・・があった事は理解しております。

 こちらといたしましては、公式な謝罪以外に影文様に具体的な誠意を示す用意もございます」


「……何のことですか?」


「平たく申し上げて、浜奈への協力金、とご理解いただきたく存じます。

 影文様に浜奈個人の活動にご協力いただければ、月々取り決めた金額をお支払いいたします。

 政治家『浜奈甚太郎はまなじんたろう』ではなく、飽くまでもプライベートの手伝いをするアルバイトとでもご承知ください。

 とはいえ、特に何かしていただく必要はありません。

 何もしないだけで・・・・・・・・、月々10万、影文様にお支払いさせていただきます。

 いかがでしょうか? 意味はお分かりになりますよね?」


 理人の疑問はそんな事ではなかったのだが、秘書には通じなかったようだ。

 逆に陰キャの方は相手の言っている意味は分かるのだが、分かりたくない。腹立たしい。

 要するに、元総理の不利になるようなことは何も言うな、という事だろう。


 話は終わったようなので理人は帰ることにした。


「それじゃあ……すいません失礼します」


「影文様……? まだ返事をいただいておりませんが?」


「どうしてオレがあなた方の言う通りにしなければならないんですか? しかも誘拐みたいな……いや完全に誘拐だったけど、そんなやり方で無理やり連れて来ようとして。

 もうちょっと頭がまともな話が聞けると思ってました」


 席を立つ陰キャに、弁護士は意図を質す。

 最初こそ大分腰が引けていた理人であるが、今となっては不愉快なだけであった。

 疲れたように言いながら書斎の扉を開くと、そこに立ち塞がるのはドアより背の高い黒スーツのスポーツ刈り。


 弁護士は澄ました声で「もう少しお話を」などと当たり前のように言うが、ムカッと来たので理人はサイコキネシスで正面から張り倒した。


 第三者からは少し押した程度にしか見えなかったが、押された方は巨人にでも突き飛ばされたかのように壁にめり込むハメに。

 屋敷を揺るがすほどの衝撃に他の男も左右から集って来るが、その中にいた理人をここまで連れてきたおっさんは、青い顔になっていた。


 小柄な少年という見た目からは想像も出来ない暴力に、淡々と事を進めていた弁護士は思わず腰を浮かし、ここまで他人事な態度だった政治家本人も向き直り目を見張ってしまう。


「ま、お待ちください影文様……! これはこちら側とあなたの双方に利益のある提案です。

 状況が落ち着くまで10年と考え、最低限これだけの期間協力金の支払いをお約束しますし、少なくともお金を受け取っていただけている間は影文様に協力の意志有りと看做みなすすことが出来ます。

 そうでなければ、こちら側としても影文様を警戒しないワケには参りません。

 実際にこちらから何かする事がなくとも、『浜奈甚太郎はまなじんたろう』に敵対的な人物、という評価だけで今後の人生で就職や他人との付き合いの都度、様々な人間の忖度そんたくを受けることにもなるでしょう。

 影文様の今後の人生に大きな影を落とすことになりますよ?

 影文様も、もう高校生でいらっしゃる。社会とはこういうモノだとご理解いただけるでしょう」


 よくここまで口が回るモノだ、流石弁護士。と、理人は無意識に鼻で笑ってしまった。

 アナタの為だから、とお為ごかし並べているが、要するに自分たちが安心したいだけだろう。

 理人が、イジメ問題にカビが生えて問題視されなくなる10年後まで、政治家先生の評判に傷を付けるような、余計な事をしないように。

 さもなくば陰キャの人生に不利益になるなどと、加害者側の分際でよくも上から目線で当たり障り無い言葉を繰り卑怯な言い回しができたものである。


「フフッ……まるで本当の社会の姿を知ってるようなことを言いますね。何も知らないで、見えている世界が全てだと思い込んでいる平和な偉いヒト達……。小さな子供みたいだわ。

 茶番劇、ってこういうのを言うんですか。さっき言った『謝罪』とかいうのもそうでしたけど、本人にではなく客席に向かって頭を下げているの、お芝居っぽいですよ。

 何でもすればいいんじゃないですか? どうせたかが茶番の中の権力、脚本のセリフみたいなもって回った・・・・・・脅し、そんなのが通じるのは舞台の上だけですよ。

 …………オレには全く関係ない」


 こんな事がまかり通る社会ならいらない・・・・、と。理人は本気でいきどおっていた。

 なんなら、言外に権力をチラつかせる政治家も、勝手に偉いヒトに気を使い理人を攻撃するという連中も、手段を選ばず叩き潰してやる。


 陰キャ超能力者は、表世界に裏の世界、そこに横たわるアンダーコミュニティーや調整機関のオフィスという本物の社会の姿を知っていた。

 それは、力と事実、利益と契約、本物の権力と信義信条の世界だ。

 都合よく法を利用し、言葉をもてあそび、上っ面だけの理屈で事を済ませようとするエリートの有様は、薄っぺらい張りぼてを纏う無意味な仮装にしか見えなかった。


 腐っても弁護士としてヒトを見る目のある江田は、影文理人という高校生の少年が本気で自分を見下しているのを察し、頭に血を上らせる。

 お前の方こそ社会も現実も知らない世間知らずの子供だろうが、と怒鳴り返してやりたくなるが、法曹と政治の世界では一度でも取り乱した姿を見せたら取り返しの付かない黒星となるのを知っていた。

 伊達に政治家の顧問弁護士をやっていないのだ。

 グレースーツの弁護士は、ソファに沈み込み呆れと諦めのような溜息をいて見せ、クソガキにプレッシャーをかけつつ今度は法的に追い詰めようと考えていた。



「まさか……キミはアンダーテイカーなのか?」



 ところがここで、全て弁護士に任せるはずだった沈黙の政治家が、不意に口を開いてしまう。

 まさかセリフに、思わずビクッと硬直する陰キャアンダーテイカー。

 そのリアクションは、政界に身を置く者に対しては致命的だった。




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