24thキネシス:終了処理という次回起動時に備えるタスク処理

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 河流登寺の工事も終わりかけた、週末。

 秋の連休に入ろうという直前のことだ。


沙和すなわミリア先生はイギリス、セントアンドリュース大学で文化人類学を専攻する大学院生でもあります。

 日本へはご自身の研究の為のフィールドワークでいらしたそうですが、本教科のチューターも勤めていただくことになりました。

 皆さんご存じの通り、セントアンドリュース付属校は冬休みの短期留学先でもありますね。

 沙和すなわ先生からも、有意義なお話が聞けることでしょう」


 英語科のおばさん先生がニコニコして紹介するのは、タイトスカートなビジネススーツを一部の隙なく完璧に身に付けた、金髪ポニテの新人教師補佐チューターだった。

 陰キャの目が、限りなく胡散臭い存在を見るモノとなっている。

 あの恩師マスターの娘のポニテスレッジが、いったいいかなる超展開を以って影文理人かげふみりひとの学校の教師補佐チューターなどになるというのか。


 唐突な人事のお知らせに、英語科の生徒達はざわめいていた。決して悪い反応ではないが。

 キリッとして凛々しくスタイルの良いメガネをかけた金髪の超美人となれば、それも当然のことではある。

 だが、中身を知っている陰キャとしては、何となく海外で時々見たクラブとかの用心棒を連想せずにはいられなかった。


「で…………ミアさん、あんたここで何やってんの?」


 当然ながら、事情を聞かずにはいられない理人である。

 ところは、学校の屋上。念の為に、誰にも見られないよう光学偽装サイコクローク展開中。

 入り口には鍵もかかっているので、瞬間移動テレポーテーションでなければ入れまい。


 ジトっとウェットな目を陰キャに向けられる金ポニ先生だったが、特に悪びれる様子などなく、ふんぞり返っていらした。


「日本で活動する機会が増えそうだしね。暫くここを拠点にしようかと。カリュート寺やあんたの監視にも都合がいいし」


「そもそも何故オレの監視とか……。オレだって毎日先生マスターと一緒にいるワケじゃないんだけど」


「こっちの都合よ、あんたには関係ない。…………わたしの予想が正しければ、リヒターは最悪の状況で使われる・・・・事になるしね」


「『リヒター』って……それじゃやめてくださいよ? アンダーテイカーやってるのは秘密なんだから」


「じゃ、あんたはわたしに逆らえないわね?」


「ええいチクショウなんてこった」


 ここに来てはじめて弱みを握られストレートに脅迫される事態となり、グウの音も出ない陰キャである。ちょっと安心感さえあるのは何故だろう。

 その為に、ミア先生の言う『最悪の状況』というのが何のことかも聞きそびれた。


「なんにせよ、あの男・・・の思い通りにさせる気はないから。

 リヒターも、超能力マインドスキルやアンダーテイカーとしての活動をヨソに漏らされたくないなら、わたしに協力することね。

 とりあえず、これからは『マスターマインド』のことは逐一わたしに報告すること!」


「そりゃ別に先生マスターだってミアさんに知られる分には構わないと思うけどさぁ…………。

 それはそうと教員なんてどうやったの? チューターなんてできるの? 正味な話、超能力だアンダーワールドだなんて普通の人間は話だけじゃ信じないと思うけど、教員免許も無しに教師のフリする方がリアルに犯罪的でマズいんじゃない??」


「何言ってんのよ、わたしがセントアンドリュースの院で人類学専攻しているのは本当よ。学位持ってるから講師だってやれるんですからね。

 まぁこの学校に捻じ込ませるのに、オフィスから手を回させはしたけど」


「マジか」


 てっきり法律的にアウトな手段で教師に化けたと思っていたので、思いのほか合法的で陰キャもビックリである。

 喧嘩っ早いハンマー姉さんという印象が強いが、考えても見ればあの先生マスターの娘さん。

 頭の良さは疑うべくもなかった。

 なお『沙和すなわ』という苗字は偽名ではなく、母方のモノだとか。


 ついでに、時々凄まじい権力を見せるアンダーテイカーオフィスの力を、ここでも実感する陰キャアンダーテイカーである。

 政府に食い込んでなければできない芸当だろうが、どこまで国家の意思決定に関与できるのかを想像すると、ちょっとばかり怖くなった。


               ◇


 9月も末なのだが、緯度の低い南の島は、今も真夏の盛りという感じだった。

 土地特有の黒い砂浜に、宝石のように濃く青く澄んだ海。

 本土では秋の気配を漂わせる空も、ここ八丈島では積乱雲が低高度から大きくそびえ立っている。

 潮風も、それ自体が燃えてキナ臭くなっているかというほどに暑かった。


「ウェミダー!」

「海だー!」


 だー! と快哉かいさいを上げる、ストレートのロングヘアも軽やかな姉坂透愛あねさかとあと、おしゃれなミドルボブにメガネの姫岸燐火ひめぎしりんか

 カラフルな柄のパレオ付きチラ見せビキニと、やや布地が少ないが下品ではないお尻の切れ込み強調黒ビキニ、勝負水着の美少女ふたりだったが、その辺のことをサラッと忘れて夢中で海へと駆けて行く。


 荷物持ちの陰キャは、いきなり海に入って大丈夫かな、と小心者な心配をしていたが、ふたりの友人のテンションに水を差す気にもなれず、まぁ事故ったら念動力サイコキネシスで救出すればいいか、と若干ダメな考え方をしていた。

 本人にも自覚はあるので、今だけは許してほしい。


「本当に八丈島に来ちゃったんですか? 伊豆とかではなくて? 信じられない……生きてるうちに瞬間移動を経験するなんて」


 強烈な日差しに、手の平でひさしを作り目を細めていたのは、中分けの和風美人、生徒会長の・・・・・河流登真昼かりゅうとうまひるだ。

 今回は、秘密を共有する仲間ということで、女子ふたりが南の島バカンスに誘ったのである。

 本来ならば、羽田空港から1時間かけて来るところ、陰キャ超特急なら準備時間含め1分だ。実は理人がひとりで飛行機乗ったり宿取ったり、移動したという存在証明アリバイを作る小細工などもしているが。


 そんな便利能力に唖然としている生徒会長の格好は、上にパーカーを羽織った、清楚な白いワンピース型の水着だった。

 と思わせて、実はメガネのヤツにハメられ、角度がエグめなハイレグ仕様である。

 真面目そうな先輩が、やや恥ずかしそうに下腹部の辺りに手を彷徨わせていた。


「ほらお嬢さんたちー! 日焼け止め忘れて後から変な焼け方して学校で恥ずかしい思いしても知らないわよー。

 リヒター、シート広げてパラソルも立てちゃって。ビーチチェアもね。

 あー、ビールの飲みたーい」


「いいけど……ミアさん外じゃ『リヒター』はやめてくださいとお願いしたでしょう。どこで結び付けられるか分からないし。

 あとビールこっちのクーラーボックス」


 金髪ポニーテールにサングラスのお姉さんが、今日はハンマーではなくビーチパラソルを担いでいる。

 渋メン英国紳士の先生マスターの娘、ミリア・ドレイヴンもこの旅行に同行していた。

 その素性に関しては、姉坂透愛と姫岸燐火にもざっくり説明してある。

 当事者である生徒会長からも補足してもらったので、話を理解してもらうのも早かった。


 全校的アイドルとメガネ美人の先輩は、早々にミア先生・・・・なついたようだ。

 ポニテ先生の方も淡白ながら生徒の相手を良くするので、まんざら嫌なワケでもなさそうである。

 そして水着は、エロカッコいいワインレッドの競泳水着だった。ハイレグの角度も挑戦的な品なのだが、本人は堂々と魅せ付けていた。


「理人くーん! 浮き輪ー! 浮き輪投げてー! で引っ張ってー!!」


「高速高速!!」


 海に飛び込み全力ではしゃぐ女子ふたりが、浜にいる陰キャに笑顔で手を振っている。

 なんか今確実にリア充っぽい事をしているな自分、と軽い感動を覚えながら、理人はリクエスト通り浮き輪を放り投げていた。

 言うまでもなくコントロールも問題ないので、スポっと美少女ふたりにハマる浮き輪。

 そのまま念動力サイコキネシスで、浜に沿って右から左へと浮き輪ごとふたりを動かした。

 他の観光客もいなくはないのだが、見られたところで不自然と思われるほどでもない、ギリギリのラインである。


「超能力を完全にオモチャにしてる…………。いいのですか理人さん? わたしも瞬間移動で送ってもらった身ではありますが」


「まぁいいんじゃないでしょうか……。オレの先生マスターが言うには、そんな出し惜しみするようなモノでもないということなので。

 こういう使い方が出来るうちはまだいいですし……。あと同じ超能力マインドスキルの使い手は、割と日常的に私的に使っているそうですよ?」


「はぁ…………」


 社会的な目もあり、超能力は隠して奥の手のようにした方がいい、とは理人も思っていたのだが、むしろ積極的に使った方が隠匿も上手くなるとは先生の言。

 超能力マインドスキルを持っていて使わないとか出来っこないのだから、常にバレないように使う意識を養った方がいいのだとか。

 ただでさえ陰キャの超能力は、コントロールに繊細さを欠く部分があった。

 美少女ごと浮き輪をくくらいなら問題ないが。


 よって、これも制御の練習という体で、今回だけは遊びに使うのを許してほしい理人である。

 だって友達と海来るのメチャクチャ楽しい。

 今までの人生で友達と海に遊びに来るとかいう経験皆無だったが、今の状況とのギャップ激し過ぎて油断するとハメを外しそうである。あの辛かった日々を思い出せ。


 謎の葛藤の最中さなかにある陰キャの言い訳くさいセリフだったが、一方で生徒会長には素直に感心されていた。理人に罪悪感の追加ダメージ。

 横で話を聞いていたミア先生は、我関せずとビーチチェアに寝そべりながら、中サイズのビール瓶を傾けていた。絵になるヒトである。


「そういえば話は変りますが……会長選に出ていた宗田そうださん、あの騒ぎで・・・・・停学になってしまったそうですね。

 立候補資格も無くして……なにかわたしが繰り上げ当選のようになってしまいましたが」


「まぁガス爆発した上にタバコ吸ってたのまでバレちゃ仕方ないんじゃないですか? 家庭科準備室を喫煙室にしていたのも、大分前から公然の秘密みたいになっていたそうですし……。そりゃそうだ調理部のヒト追い出しているんなら。

 それに、誰かに・・・邪魔されなければ、最初からストレートに先輩が生徒会長になっていましたよ」


 横目で探るような視線の中分け和風美人の先輩に、気が抜けた笑顔で応えトボける陰キャ。

 なんのことかと言えば、元ボクシング部のエースにして生徒会長候補だった・・・エセスポーツマン、宗田亮そうだりょうが喫煙のとがで無期限の停学処分を喰らった件である。

 これにより、『品行方正な生徒の規範』であるのが立候補の条件であるとされる、生徒会長候補としての資格も失っていた。


 これに関して、生徒会長は理人が何かやったと思っているし、事実陰キャは超能力マインドスキルを使い小細工を働いている。


               ◇


 河流登寺に押し入ってまで生徒会長を襲っていた暴漢のひとり、紫ジャージ。

 この男の家に、その後間もなく理人はお邪魔していた。

 夜の夜中に、悪夢のような黒いフード付きコートの怪物が、よりにもよって自分の家に現れたのだ。

 恐怖でまた漏らした紫ジャージは、理人の質問にも全て素直に答えていた。


 河流登真昼を襲ったのは、非組織系の暴力的犯罪者集団、いわゆる『半グレ』の男たちだ。

 そこに話を持ち込んだのは、理人や真昼の通う高校を退学となった、元生徒。

 はした金で、集団暴行しろ、という依頼をある人物から受けて来たのだという。

 もっとも、魅力的な少女と性行為に及べる理由さえあれば、紫ジャージ達としても金は重要ではなかったそうだが。


 その元生徒も同じ半グレ集団に属しているということで、特定するのは難しくなかった。

 黒コートにフードで顔を隠した怪人が超能力マインドスキルで尋問すると、すぐに依頼主の情報を吐いた。

 今度は、理人の学校にいる現役の生徒である。

 とはいえ、ここまでは念の為の確認作業のようなモノだ。

 河流登真昼が学校でも襲われていたことを考えれば、誰が何の目的でそのようなことをしているか、誰だって想像はできるだろう。


 ついでではあるが、横浜にある秋掛け町という風俗街に近い一画を拠点にしていた半グレ集団には、


『次に誰かへ暴力振るったら追い込みかけて殺すぞ』


 と念話テレパシーで脅しをかけておいた理人リヒターである。


 メチャクチャになった雑居ビルから、火が付いた子供のように悲鳴を上げて逃げ出す人相の悪い男たちに、元生徒。

 正直、そういう集団をひとつ潰したところでまた似たようなのが湧いて出るだろうなぁ、とは理人も思ったのだが、かと言って今回の件のような事を繰り返されるのも看過できないので潰しておいた。

 なお、アンダーワールドに関わる者たちの社会、アンダーコミュニティーには清掃業者などもあり、依頼したら雑居ビル内も綺麗に痕跡ひとつ残さず掃除・・してくれた。

 報酬は金貨コインではなくオフィス経由の現金振込みである。


 退学になった元生徒に依頼をしたという問題の生徒を学校で発見し、少し後を追うと、案の定クラスメイトのエセ優等生、花札星也はなふだせいや関係者とりまきであるのが確認できた。

 酷く遠回りした気になりながら、かつてのイジメ首謀者を遠隔視リモートサイトで観察する陰キャ男子生徒。

 そして、その日の内に核心には辿り着けた。

 花札星也が家庭科準備室などに入ったかと思うと、そこで校則違反のブツを吹かす生徒会長候補と会っていたのである。


 隣の家庭科実習室で聞き耳を立てれば、答え合わせはすぐに終わった。

 苛立ちを抑えながら、『河流登真昼』の処理・・について相手を追及する、元ボクシング部の会長候補。

 それを、知ったようなセリフを吐きながらなだめる仮面優等生。

 具体的に、誰に、何を、どうする、という動かぬ証拠となる発言こそ得られなかったが、状況証拠的には真っ黒だった。

 同時に、たとえ誰も聞いていないと分かっていても、そういった決定的な発言をしない用心深さや狡猾さ、陰湿さには、心底呆れる陰キャのイジメられっ子である。


 こうして事件の背景をほぼ把握した理人は、校外からポイ捨てされたタバコの吸殻を拾ってきて、家庭科準備室の換気扇の下、校舎の脇に設置。

 そして、不良ボクサー、宗田亮そうだりょうがタバコに火を付けたタイミングで、発火能力パイロキネシスで家庭科準備室の天井を炎でいっぱいにした。

 爆発で換気扇のプロペラが内側から吹っ飛び、火災警報器が鳴り響き、消火装置から水が撒き散らされる。

 当然ながら、学校中が大騒ぎに。

 すぐさま逃げ出そうとするゲスボクサーと仮面優等生だったが、爆発で歪んだのか扉が開かない。理人が念動力サイコキネシスで抑えていたのだが。


 このような経緯で、宗田亮そうだりょうは喫煙の現行犯として、家庭科準備室に急行した教師により御用と相成った。


               ◇


 中分け美人の生徒会長が知っているのは、その結論部分だけだ。

 詳細なところもいずれ話さないとダメだろうなぁ、と理人は思っていたのだが、その前にこの連休が来たので、一旦保留にしている。

 気丈そうな先輩だが、自分に対してここまで大げさで卑劣で下劣なたくらみがはかられていたと知るのは、ショックも大きかろうなぁと。

 そうでなくとも実家の裏手に先祖代々の爆弾が埋まっていたのが発覚した直後なのに。


 この旅行でワンクッション置きダメージが緩和できれば、と陰キャは心から願っていた。


「……本当に、ありがとうございます、理人さん。ずいぶんお世話になってしまったようですね。どうお礼をしたものでしょう?」


 などと思っていたら、優しげな笑みで理人に言う真昼先輩である。

 どうやら、いつの間にか真剣な顔で見つめていた後輩の男の子の様子から、色々察してしまったらしい。


『気を付けたまえリヒター……。女性の男の心を読む能力は、超能力マインドスキルの比ではないぞ』


 フと、以前にダンディ先生マスターが苦渋に満ちた顔でそんな忠告をしてくれたのを思い出した。

 絶対モテるからなあの先生。ミアの母親とか確実に美人だ。そっち方面の苦労も多いんだろう。もし必要になったら教えてもらおうと思う。

 などという回想はまた脇に置くとして。


「礼なんて必要ありませんよ……。河流……真昼先輩が無事な方がオレも安心しますし。

 超能力マインドスキルだってそういう事にこそ使わないと価値ないでしょうしね」


 未だに女子と目を合わせるの苦手だし照れくさいし、そもそも水着姿とか真夏の太陽より眩しいので直視できない! で海の方を向いたまま応える陰キャ。

 メガネのヒトが「テイクオフ!」とかオーダーしているのが見えるが無茶言うなや。

 その横顔をほんのり赤い顔で見つめていた美少女生徒会長だったが、少し目線を彷徨さまよわせると、やがてフンスッ! と気合を入れていた。


「あの……理人さん? 男の人は、サンオイルなどを女子のカラダで塗って差し上げると、大変ご褒美になると聞いたのですが……?」


「それ誰に聞いたんです? 信じちゃダメ――――いや多分ウソはいてないんだろうけどそういうの男女の付き合いに慣れた上級者向けのサービスだと思いますよ??」


 一体誰がこの真面目な生徒会長にこんな事を吹き込んだのか。真面目だからやる気になっちゃってるじゃないか。おまえかメガネぇ! 今すぐ念動力サイコキネシスで強制連行して問い詰めてぇ。

 こちとらカノジョなんてできた事のない15年陰キャ童貞だぞレベル高過ぎて素直に喜べねぇよ。

 

 想像を絶するチャレンジャー生徒会長の申し出に、内なる人格が豹変するほどの衝撃を受ける陰キャの若人。

 浮き輪ライドも止まっており、重要参考人たるメガネの先輩も全校的アイドルと一緒に浜へ上がっていた。


「お!? 真昼ちゃんオイルプレイ決行しちゃう!? ぐへへへへそれじゃわたしも一緒に理人くんをコレで・・・サンドイッチにしちゃおうかなー」


「え? オレ食われる? てか燐火先輩、真昼先輩になにをインストールしてるの??」


「ひゃー……理人くんってそういうの好きなんだ……。じ、じゃああたしもがんばっちゃおうかなー、なんて?」


「いや透愛さんさっきも真昼先輩に言うたけど15年カノジョ無しの陰キャには素直に楽しめるイベントじゃないからね普通に恥ずかしいんだよ」


 エロオヤジのような下品な笑みで自分も乗っかろうとするメガネの教唆犯。だというのに自分だって顔真っ赤で恥じらいを隠せていない。無理して寄せて上げたりしなければいいのに。サイズ的にはムリ無いが。

 アイドル系美少女も赤い顔でチラチラ理人と自分のカラダを交互に見ており、既に挑戦するのが既定路線になってしまっていた。陰キャのセリフなんて聞いちゃいない。


 何か肉食獣のヨダレのように、手の平から零れ砂浜にしたたり落ちるサンオイル。

 そして、やはり飢えた動物か何かのようにハアハア言いながら迫るお姉さん達に、理人は一目散に逃げ出した。


「あ!? そんな……!!」

「こら待てー! 超能力禁止ー!!」

「やだー!!」


 フード付きパーカーに黒い半ズボン水着の陰キャが、世界新に迫るスプリンタースタイルで少女たちの声を置き去りにする。

 即追いかけ、かと思えば三方に散り挟撃しようという連携を見せる肉食系女子ども。

 そんな様子をサングラスの下から見ていたポニテの金髪美女は、ビールの瓶から王冠をむしり取り、寝そべったまま豪快にあおっていた。




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