いちご狩り


2月の中頃、品川に到着した新幹線ひかりに乗車したのは、イトウ家の四人家族。父母に息子娘が一人ずつ、犬を一匹飼っていて、息子は14歳、娘は12歳。今日は四人で家族旅行に行くようだ。一行はやがて静岡の駅で降りた。


果物好きな長女の要望で、最初の観光はいちご狩りに決定した。バスでいちご農園へ向かう。

海辺のバス停を降りると、風が強い。広がる太平洋が少し荒ぶっていた。逆を見れば石垣に連なって、ビニールハウスが立ち並んでいる。


「ここいらにはいちご農家が多いんだね」


「しかし凄い風だなあ」


などと雑談しながら道に沿って歩く。暫く歩いていると、小さなテントが見えた。テントの前には左に矢印のついた看板が書いてあって、塚田農園と書いてある。


「観光案内所で聞いたところだ、あそこだね」


「でも、左に矢印が書いてあるよ?あっちは海なのに」


「あそこで受付をしているんだろう。それを指しているんだ」


砂利道をあるいて、テントにいるお婆さんに挨拶する。


「いちご狩りですか?」


「はい。十時に予約していたものです。少し遅れてしまいましたが......」


「かまわんよ」


料金を支払うと、説明が始まった。


「ポータルが開いたら、入ってください。農園へついたら、スタッフがいますので、そこでまた話をきいてください。それでは言ってらっしゃいませ」


ブワッと空間の揺るぐ音がして、次元の穴が開いた。


「うわ、なんだこりゃ」


「ほんとにこっちに農園があるなんて」


「じゃああっちのビニールハウスはなんなの?」


「こっちは海だけじゃなかったね」


そんな楽しい思い出ができたのだった。

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西瓜の巻 春朝西瓜 @sheep1

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