第9話 青春って炭酸の味

巡り巡って卒業式がやってきた。那月と修弥も無事に大学が決まりそうで、もれなく俺たちの進路はバラバラだ。


「あー、やだなー。明日からもう高校の制服着て歩くこともないんだぜー。」


「まあ、教室でだべったりできないのは少し寂しかったりするかもな。」


「俺と翔也は春休み何回か学校くるよ?部活の後輩の邪魔しに笑。」


「そそ。後輩しばき倒して俺らは去って行く予定。」


「ひでー先輩だな。じゃあさ、その日教えてよ俺と薫も遊びに来たーい。」


「俺も強制かい。」


なんだかんだ楽しかった高校生活も今日で最後かと思うと、寂しい気もする。振り返ると那月の告白大作戦やら修弥と翔也の喧嘩やら結構いろんなことがあった。


俺の進路も、まさか専門学校に行かせてもらえるなんて夢にも思ってなかった。まあ、あれは担任のおかげもあったからそこだけは担任を見直した。


「そういえば那月ー。雨宮先輩とはその後どうなったの?」


そういえば俺らの卒業式の日まで好きだったどうとかなんか話してたな。


「それがさー、先輩留学するらしくて、長距離だし付き合うのは難しいからごめんって言われた。」


「え、フラれたん?これは物語的に付き合う流れちゃうんのん?」


「フラれたねぇ。でもフラれてから2ヶ月はたったから割ともう平気ー。受験に身は入らんかったがな!でも理由が嫌われてるわけじゃなかったからまだ頑張れるまで頑張る!」


以外にも元気そうで何よりだが、まさかフラれてしまったらなんで思ってなかった。

まあ、那月が頑張ると言ってるならいいか。応援しよう。



卒業式が始まって卒業生の挨拶。これが意外にも那月が読むことになっていて、俺たちはちゃんとできるのかそわそわしながら見ていた。


「桜の蕾が膨らみ、花が咲き始める季節の中、僕たち3年生はこの学校を卒業します。

振り返れば思い出だらけの生活で、正直名残惜しい気持ちがいっぱいです。


〜〜〜〜


先生たちにも学業だけでなく進路や生活面でも多くお世話になりました。僕たちは決して真面目な学生ではなかったと思います。それでも根気強く指導してくれて本当に感謝しています。


〜〜〜〜


そして、何より友達諸君。俺と沢山青春してくれてありがとう。高校生だからできる青春ってなんだろうって考えてきたけど、恋したり部活したり、喧嘩したり進路に迷ったり。全部が全部、俺たちの青春だったと思ってます!

お前ら今までありがとう!これからもよろしくな!後輩たちも青春しろよ!


卒業生代表 河田那月」


ーーーー



「いやー、まさか那月の言葉に泣かされるとは思わなかったわ。」


式が終わってから翔也はずっと那月に向かって言っていた。

実際俺も涙腺がやばかったが、途中からくしゃみを抑えるのに必死な修弥の顔が目に入り涙が引っ込んでしまった。


「では、いつもの男気ドリンクじゃんけんいきますか。」


最後のホームルームも終わり、ぞろぞろと帰って行く級友を見送りながら那月が言った。


「そんなに恒例だった気はしないが、喉乾いたからまあ参加してやらんこともない。」


なんだかんだ乗り気な翔也に続いて全員でじゃんけんをした。


結果は那月の負け。全員分の飲み物を買いに行くことになった。



「おまたせ〜。」


少しして那月が教室に戻ってきた。なにやらニヤニヤしているのが不安だが喉が渇いたから蓋を開けた。


のが間違いだった。3人一斉に開けた炭酸ドリンクから泡が吹き出す。ブレザーにもかかってしまい、あたり一面大惨事だ。


「引っかかってやんの!!だっさー!」


1人那月だけが喜んでいたが、こいつのバカなところで、4本全部振っていたらしい。自分の分も開けては泡を吐き出していた。


「おまえは本当にバカなのか?よく大学は入れたな。クッソもう、ないわ〜。」


修弥の口が悪くなる。全員でとりあえず濡らした机やら廊下やらを雑巾で拭き、制服はハンカチで拭いていった。


「なーどうすんだよ!制服からグレープ臭がするんですけど!?これから部活の送別会だよー!」


と翔也。修弥と翔也はグレープのにおいをまとって部活に行くみたいだ。かくいう、俺たちもグレープのにおいをさせながら帰路につくわけだが。


「まあまあ、これも青春青春!俺らだけの楽しい思い出じゃん。多分いつか集まった時の話題になるぜ絶対。」


と犯人。


「まあ、それは絶対そうだよ。んで、そのたんびに那月に奢ってもらおうぜ。」


とグレープに1番怒っている修弥。


「なんだかんだ大人になってもまた集まって高校時代の話をするんだろうけど、きっと匂いとグレープの味まで思い出せる記憶って貴重だぜ?俺たちの青春は炭酸系だね!」


那月がなんだかんだうまいことを言うから、腹がたちながらもみんな言い返せなくなる。


まあ、たしかにこれからバラバラの道を行く4人だけど、いつかどこかで集まっては今日のことを話すんだろう。そう思えば、この炭酸の匂いと味は悪くないのかもしれない。

ただ、いい記憶かどうかはまあ、疑問だが。


そんな俺らの青春は、超炭酸の味だった。








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僕らの青春攻略計画! 李都 @0401rito

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