第8話 真っ赤な夜に悪魔は笑う
これで死ねば元の世界戻るのだろうか?それともただただ死ぬのか?というかもはやこの世界が死後の世界だったのでは?
階段から落ちたあの時、某はすでに死んでいて。もしくは、実は昏睡状態で今はただ自分が思い描く妄想の中で夢落ちで終わるパターン。とかいろいろな想像が頭をめぐっていく
人間死に直面すると脳がフル稼働して体感時間が伸びるそうだが今ここまでいろいろなことを考えているのは別にその現象のせいでは無い。
―ブンっ。・・ゴトッ。
単純に剣が首元へと落ちてこないのだ。何やら物を落とした音と素振りの音は聞こえるのだが?なのでこうやって物事を考える時間と余裕がある。
「・・・・・・?」
にしても遅い。死にたいわけではないがするなら一思いにスパッといってほしいものだ。
でなければ混乱で呑み込めていなかったこの状況への恐怖がぶり返してしまう
・・・
―ぐちゃっ。
ぐちゃ?いったい何をしていればそんな音が鳴る要素があるのやら。時間をおいてくれたおかげで予想通り怖くなってきた。正直今にも泣き叫びたい。というかもう泣いてしま――
「
「ぬぉっ??!」
突如響いたシルヴィアさんの声に合わせ吹き抜けた突風に押され後方へと2回転半ほどでんぐり返し。後転などいつぶりだろうか?大人になって体が硬くなったからか節々が痛い、、、!それになんかびしゃびしゃになったぞ、、、??
「立って!逃げなきゃ!」
「は?いやいやさすがにこの状況で逃げるのは無理では、、、?」
取り囲んでいた街の男たちは少なく見積もっても10人ほど。その中心から逃げ出せるのならもっと早く逃げ出していましたとも。
見上げた視界。映る一面の赤色。そして建物の壁にめり込みながらも怒り狂ったような表情でこちらを睨む人。・・・人?
「人・・・なのですか、、、。あれは、、、。」
「話はあとで!走って!!」
言われるまでも無い。聞き終えるが早いかスタートが早いか。情けなくも女性よりも先にこの身が駆け出していた。見た目は人間だった。けれど、その醸し出す雰囲気が・・・「あれはダメだ」と平和な日常で怠けていた本能でもわかる程度には異質な何かだった。
「
後ろからは声と同時に風を感じる。要するにあれはそういう魔法なのだろう。風だか何だか知らないが相手にぶつけるてきな!
建物が吹き飛びそこかしこにぶつかる音が聞こえる。
「はぁっはぁっ、、、!あれなら、、、。」
「ダメ!止まらないで!あれくらいじゃあの人は死なないの!」
冗談でしょう!!音から想像したのはトラックの交通事故。それほどの衝撃音を繰り出す破壊力を受けて生きているなんてありえないでしょう!
と言いたかったがいかんせん某は物書きの端くれ。時間さえあれば紙に向かい筆を走らせる勤勉な生活態度がここへきて仇になった。虚弱体質ここに極まれり。
まだ500mと走っていないのに足が重い。口の中血の味。ていうかこれ本当に血が出てるんじゃないでしょうね!?
頬をつたう汗をぬぐい自分の手が視界に入った。
「・・・え?」
真っ赤だった。じゃあ今まで汗だと思ってぬぐっていたのは・・・
「これ、、、どっちにしても死ぬんじゃ・・・」
「ううん。大丈夫。それは・・・あなたのじゃないから、、。」
「じゃあいったい誰の、、、?」
あたり一面真っ赤な地面。いつの間にやら姿を消した街の男たち。そして・・・謎の人間もどき。
「おぇ”、、、。お”ぇ”ぇ”ぇぇぇっ、、」
もちろん先ほど同様に胃は空っぽ。パンのひとかけどころか水すら入っていない。だと言うのに嗚咽が止まらない。
「・・・ごめんね、、、。わたしのせいで、、、」
背中をさすりながら何度も何度もシルヴィアさんは某に謝り続ける。
「はぁっ、、、。何度もお見苦しいものを・・・今言うのもおかしいかもしれませんが・・・ありがとうございます。」
「あり、、、がとう??」
「??ええ。あの街の男達を、、、その、、、殺した「人間もどき」から某を、守ってくれたのでしょう?」
つい数分前に混乱しあれだけ罵倒しておいてなんとも虫の良い言い草だとは自分でも思うが・・・今は素直に感謝しか浮かばなかった。
「どうして??わたしが怖くないの?」
「何がです?助けてもらったから「ありがとう」と。それの何が不思議で?」
「だって・・・みんな死んじゃったんだよ?そこに先にいたのはわたしとあなたなんだよ?」
「???はい。そうでしたね?まあ非常に不謹慎な物言いですが・・・あの化け物が男たちを殺してしまったせいで某たちは生きて――」
・・・ああ。ようやく彼女の言葉の真意がわかった。
要するに彼女は今まで”あの状況ならお前が悪いんだ。”と言われて生き続けてきたのだろう。だって・・・「凶兆の子」だから。
それが何なのか知らないし、シルヴィアさんを村八分にするにはこの異世界では十分な理由なんだろう。でも。いくら何でも、それは無いだろう、、、。
命を助けた結果が・・・「お前のせいだ」なんて。
「・・・そうです。たとえあなたの抱えるものがなんであろうと、あなたが一体何者であろうと。助けてもらったから「ありがとう」なのです。それ以外には無いのですよ?」
キョトンした表情でこちらを見るシルヴィアさんに笑顔で応える。少し嬉しそうに和らいだ彼女の瞳からは涙が零れ落ちる。
「わたし、、、わたしっ、、、。」
「あ、えっ!?なぜ泣くのです!??」
ぬぅ。なんとも女心は難しい・・・そもそもがそこまで女性と親しく覚えない某にはヘビーすぎる案件ではなかろうか?
「ごめんなさい、、、。なんで泣いてるんだろうね?わかんないや、、、!」
涙を流しながらもとても嬉しそうに微笑むシルヴィアさん。なにがそこまで嬉しかったのかは量り兼ねるが。その表情にまたも見惚れてしまった。
――ああ。なんて。なんてきれいに笑うんだろうか。この子は。
「っと!和んでいる場合ではないのでは??」
「そうだった!街の出入り口まではすぐそこだから急がないと!もう走れそう?」
「ふふふっ。某の虚弱体質をなめないでいただきたい。膝はガクガク、頭はクラクラしていますとも。しかして某はメロスのように諦めませんとも!」
「えっと、、、。めろす??」
「お気になさらず!とにかく走るという事です!!」
体力的にきついのは本当のことではあるが。走らなければ死ぬと言うのなら走りますとも。落ちる日よりも早く。某の帰りを待つ友人はおらずとも。今は走ってみせますとも。
満面の
「そう言えば、その親指に何か意味はあるの??」
「これはいいね!と思った時などに繰り出す某の国の伝統の所作です!」
「へぇ~。なんだかかわいいね?」
クスりと笑った後シルヴィアさんも立ち上がり何やら目を閉じる。
「
「今のは何を?また何かしらの魔法ですか?」
「今のは辺りを確認する簡単な魔法だよ?」
「ほう。」
魔法とはやはり便利そうだ。これが落ち着いたら何とかして某も習得せねば。出なければこの異世界ライフを楽しむこともできなさそうですし。
少しは知ってはシルヴィアさんが魔法を使い周りを確認。その繰り返しで人気のない道を通り続け順調に街の出入り口へと近づいている。
「これなら無事に逃げ切れそうですよ!」
「・・・うん。」
だと言うのに彼女の表情は何とも重い。
「どうかしましたか?」
「えっ!?な、なんでもないの!あっ!ほら!見えたよ!」
誰が見ても分かる取り繕ったような笑顔。空元気と言うやつか。やはり彼女の抱えているものはそれほどに重いのだろうな・・・これから先何とかして腫らせればと思うが一体どうしたものやら。
「はぁっはぁっ、、、。これ、、これをくぐれば外ですね、、!」
「大丈夫??」
「はははっ、、!なに、少しばかり久々の運動に心臓が小躍りしているだけですので。」
「心臓が・・・踊るの??」
やっぱりちょっと抜けている?もしくは某の言い回しはこの国ではあまり通じ無いのだろうか?そんなに素で返されると恥ずかしくなってくる。
「ふぅっ。少し休んだら回復しましたよ!」
「よかった!えっと、本当は地図とかがあればよかったんだけどね」
「他の街への道が分からないのですか??」
「ううん!わたしはわかってるの!けどうまく説明できるかなって。」
「説明?」
「うん。ここからはあなた一人で逃げてもらわないといけないから・・・」
「・・・え?」
いや。よくよく考えれば至極当然のことだろう。最初から彼女は言っていた。
「みんな逃げて!」と。
彼女が某を助けてくれたのはたまたま近くにいた助けられる人間が自分だけだったから。彼女は元より全員助けるつもりだったのだ。
「で、でも某は道とか分かりませんし、、、。」
「えっとね。壁の外に出たらまずは日が出るまで隠れててほしいの。追いつけそうだったら追いつくから!それでね――」
「あなたは、、どうするのです?」
「わたしは・・・戻らなきゃ。まだ助けられる人がいるかもしれないし。」
「あの中へ??誰もあなたの話に耳を傾けもしなかったのに!?まだあの
言いかけて口をつぐんだ。今某は、最低な事を言おうとした。・・・それは今に始まったことでは無いか。
「そう。できていればこんなことにはならなかったかもしれないの。あなたの言う化け物がここに来てしまったのだって、きっと・・・わたしのせい。」
「そんなことは無いでしょう!それに街の人々だって、、、その、、自業自得じゃないですか!!」
「ううん。こうなるまでわたしから距離を縮める努力をしていなかったもの・・・だから、わたしが悪いの。」
なんで?あなたはこんなになってまで1人であなたを蔑んだ人々を助けようと駆け回っているのに。一度は心無い言葉で拒絶した某を・・・それでも助けてくれたじゃないか。
「死ぬかも・・・しれないんでよす?」
「うん。そうかも。でもわたしは、これ以上”私”を嫌いになりたくないの。だから、ごめんね?早く逃げてね!」
「まっ、、、!」
そう言って彼女は笑顔のまま来た道を1人で戻っていく。何度目だろう。結局某は力になるどころか後を追うこともできずにその場に立ち尽くす。
とぼとぼと。一人トンネルの暗闇を歩きながら考える。
本当は、もっと前から考えていた。どうしたらこうならずに済んだんだろうか、と。
異世界に来て浮かれまくって、きっと特別ななにかがあるんだろうと一人ではしゃいで。結果は今までと同じ。な~んにもできやしない。
できることと言えば見知った難しい言葉を並べ立て、さも小説家のような体裁を取り繕うことだけ。
「は、、はは、、、。ほんと、何しに来たんでしょうねぇ・・・」
「何か悩んでるのかしら?お話くらい聞いてあげましょうか?」
独り言を呟きながらトンネルを抜けた先。聞こえるはずの無い声が聞こえた。
「・・・へ?」
「あら?まるでお化けでも見たような顔ね?」
「どう、、して、、?」
「悪魔がいるという事は・・・トンネルを抜けるとそこは――地獄だった、か。」
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