第4話 自称、神様。
「えっと、、、そんなに見つめてどうしたの?わたし、顔になにかついてる??」
「あっ、、、!こ、これは重ね重ね申し訳ない!」
まだ痛む体を起こして隣に腰掛ける。
「起きれるようになってよかった!こんな所誰かに見られたりしたら迷惑かかっちゃうもんね、、。気を付けて帰ってね!もうケンカなんてしちゃだめだよ?」
某が座るやいなや息つく間もなくその女の子は被っていたフードを目深にかぶりなおし人目を気にするかのようにその場を離れようと立ち上がってしまった。
「あ、待ってください!」
「どうしたの?まだどこか痛む?」
しまった。特に話す内容も無いのだがつい反射的に呼び止めてしまった・・・
「あ、その、、、えっと、、、、ご趣味は?」
ちがーう。もう少し話してみたいとは思ったがこれは絶対にちがーう!気まずいお見合い相手か某は!!
「へ?あっと・・・お花を育てること?」
「そ、そうなんですね・・・」
そして沈黙。コミュニケーションは得意な方だと自負していたがこうも言葉が出てこないとは・・・我ながら自分のふがいなさにはガッカリだ。
「――それでさー!」
「ほんとに!すごいじゃない!」
少しばかりの沈黙を破って聞こえてきた奥様方の声。その声に驚きとなぜか少しばかりの恐怖を混ぜたような表情で声のする方を見つめる彼女。
「じゃ、じゃあわたしはもう行くね!家に帰ったらちゃんと冷やしたりしてね?」
「あ、、、。」
そのまま逃げるように走り去ろうとする彼女を視線が追いかける。
呼び止めた所で話すことも思い浮かばないし、なにより彼女自身がいち早くこの場を離れたがっているように見える。けど、これくらいはちゃんとと伝えておかねば。
「あ、ありがとう!あなたのお名前は!?」
こちらの声に一瞬振り返った彼女は
「・・・シルヴィア。シルヴィア・ルナフォート。」
聞こえるかどうかギリギリの大きさで呟いた後走り去ってしまった。
「シルヴィア・・・」
道端に座り込む某を不思議そうな目で見る奥様がの横でその名前だけを何度も反芻するように握りしめていた。
その後、帰宅してからもシルヴィアの顔が頭から離れることは無かった。
夕食中もシャワーを浴びている時も、布団に入り眠りにつくその瞬間まで頭の中は彼女で一杯だった。
「この1週間で初めて見た顔でしたが・・・」
もちろん街の住人全てと顔見知りになれたわけでは無いが、それでもさほど大きくはない街だ。人口にして600人ほどのこの町ならばニアミスしていてもおかしくは無いだろうに。
「・・・逆に言えばそう大きくない街ですし。またどこかで会えるでしょう。」
それに、あれは間違いなく「小説系イベント」を具現化したような流れであった。
ならば再開しその後も・・・と言うのは必然であるはず!
「願わくば、、、あの子が某のメインヒロインであることを・・・」
そしてついでに夢で逢えたらなら。なんて恋する乙女のような気分で眠りに落ちた。
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「むっ、、、まぶしい、、、。」
目を覚ますと今度は草原だった。
「しかし、これは・・・夢だな。」
昔から夢を見ている時に「あ、これ夢だな」と気づくことが多かった。今回も他聞に漏れず。目覚めた瞬間から夢の中だと実感できた。
まあそもそも、某布団の中で眠っていたわけだし?いきなり草原にほっぽり出されてればそれは気づくというものだと思うが。
「何ともきれいな草原ですね。」
どこまでも続くキレイな草原。プラセルさんの家の周りもこんな感じだがここは地平線の彼方まで一様に青々と茂る草ばかり。
キレイでのどかで――どことなく寂し気な場所だなと言う印象を受けた。
「これはあれですね。主人公にありがちな夢の中でお告げがあるパターン。」
顎に手をやり誰へともなく自信に満ちた笑顔を披露しつつぐるりと視線を回す。
「・・・おっ!そして意味ありげな木を発見。」
自分の丁度真後ろ。とても意味深な一本だけの木を発見しその根元へと向かう。
正確には目指したのはそこへ座りこみなにやら読みふけっている人の元へ。
これだけ地面に草が茂っていながら葉の1枚すら纏っていない不思議な木。これがフリで無くてなんという。
「あなたが某の案内役ですかな?」
「・・・・・・・・・」
「ごほんっ。・・・あなたが某の案内役ですかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・妙だな。これだけ静かな場所で某の声が聞こえて無いはずが無いのだが。
「もしもーし。あなたが―!某の―!案内――」
「あ、聞こえてて無視してるから大丈夫だよ?」
聞こえてて無視をしている状態の何が大丈夫なのだろうか?こちらは何も大丈夫では無いのだが。
仕方なく隣に腰掛けぼんやりと景色を眺めてみる。別にこれと言って面白いものがある訳ではないが、かといってすることも無い。
聞こえてて無視されてちゃこちらとしてもどうしようもないしね。
この女性もまたしてもきれいな女性だった。背丈ほどまでありそうな白銀の髪を一本の三つ編みにし抱きかかえるように自分の体に横たわらせ、なんとも柔らかい表情で読書に勤しんでいる。
とても淡い青のワンピースから見える肌は白く透き通るような印象を与え金色の瞳は今日出会ったシルヴィアによく似ていた。
兄弟?いや、親子?そう思うほど似ているがなにぶんここは某の夢の中。シルヴィアの顔を思い浮かべるあまり彼女の顔に某の性癖ドストライクの服装や髪型が混ざった可能性も否めない。
「はい。おしまい。」
「あなた、マイペースだと言われませんか?」
「だったら何か問題があるのかな?」
やはり、この女性は某の意識が作用しているのだろう。でなければ「マイペース」と言う言葉が通じるはずも無い。この言葉がこちらで伝わらないことはすでに検証済みなのだ。
「さてさて、久々のお客様だ。なにも無いところで申し訳ないね?それで、君は誰だい?何しにここへ?」
「・・・それをあなたが聞きますか。」
「はっはっは。冗談だよ少年。君のことは君より知っているし、ここへ呼んだのはもちろん私なんだから。」
「某の事を自身より知っている?それはまた面白いことを・・・」
「なあ~に。大したことではないさ。私は”神様”なのだから。」
得意げに胸を張りふふんっ。と笑う自称神様を眺める。何ともまあ、威厳の無い神もいたもので。
「・・・そう呆れた顔をしないでおくれ。なにせ人と話すのなんて数百年ぶりでね。少しばかり高揚しているのさ!あ、何か飲むかい?」
「その割には最初ガン無視決め込んでませんでしたか?!」
とても楽しそうに快活に笑う女性。これが某の深層心理を加味しての物ならば結構めんどくさい奴なのでは?某って。
「まあまあ、そう怒らないでくれ。ちょうど読みかけだったものでね。読んでしまいたかったのさ。」
「はぁ、、、。それはそんなに面白い本なのですか?」
「ああ、おもしろいとも。1,000回以上読み返すほどには胸が躍るさ。」
「そんなに読んでいるのならば一旦横に置いておいても良かったのでは?」
何ともペースの掴めない女性だ。某も変人だなんだと言われてきたが・・・この人に比べればずいぶんとかわいいものだろう。
「結末を知ってはいても・・・それでも、少しの希望を込めて読み返してみたくなる気持ち、君にはわからなかい?」
「??まあ、好きな小説などで「結末はこうだったらよかったのにな」などと思うことはありますが。」
「そうだろうそうだろう!やはり君とは話が合いそうだ!」
とても上機嫌に話した後指を鳴らす女性。それを合図にどこからともなく現れた小さな風呂敷とコーヒーセット。ふむ。夢とはいえ便利だな。これが出来れば自分の世界へ帰ってももやし地獄に遭わずに済むのだが。
「先ほどの話ですが。そんなことを思いながら物語を読み返しても寂しいだけでは?」
「ん?まあ、たしかにそうかもしれないね。」
「ではなぜそんなことを?」
「なぜ?と言われると難しいが・・・納得ができないものとは、得てしてそんなものでは無いかな?」
言いたいことが分からなくは無い。
ラブコメで推しの登場人物がメインヒロインでは無い段階で報われることが無いことはわかり切っているが、それでもどこか諦めきれない自分がいるのは事実である。
でもそれは、あくまで過程での話。結末が分かり切っているのに読み返したところで――
「無駄だ。とでも言いたげな表情だね?」
「・・・正直なところは。」
「ふふっ。その通りさ。だが、読み返してみれば意外と気づかない伏線が隠れていたりするものだろう?そしてそれに気づいたとき「もしかしたらあそこでこうしていれば」なんて僅かな救いが生まれたりする。」
「ですが、それでも・・・結末は変わらない。」
「そうかもしれないね。けれども意外とそんな小さな気づき一つで悲劇の物語は喜劇に見方が変わったりもするものだと。私はそう思っているのさ。」
それは確かに物書きの端くれで、小説好きを自負する自分としては面白い見解だ。
そんなことを思いながら彼女の方を見返す。彼女もこちらを見つめていた。
優しいがどことなく寂し気で何かを期待するような過去を懐かしむような。とにかく情報量の多いうるさくもまとまりの無い視線だった。
「面白い考え方ではありますが。そんな事よりも聞きたいことがあるのです。」
「なんだい?わたしは寛大な神様だからね!いくらでも答えてあげようじゃないか。」
「ではそんな自称神様に質問です。」
「えらく意味深な言い方をするね?まあそこは不問にしてあげようか。」
少しばかり不服そうな彼女を無視。特に深い意味など無くそのままの意味なのですし。
「某の無敵能力とはこれいかに?」
「そんなものは無いよ?」
「・・・・え?」
聞き間違いかな。何かとても信じたくない答えが聞こえたような気がしたが。
「えっと、ごほんっ。気を取り直して。某の――」
「無いよそんなものは。」
にっこりと微笑みそう言った神様。その優しそうな笑みも今は悪魔の微笑みのように見えた。
「な、い?そ、それでは某を中心としたハーレムは!!??」
「無いね。少なくとも私は用意していない。」
「そ、、そんな、、、、。」
それではこれまで描いていた夢のような未来は全てかき消えてしまうではないですか・・・
「そ、それでも神様なのですかあなたは!ここまで呼び出したのですから何かおまけの一つくらい、、、!」
「おまけ感覚で無敵チートやハーレムを欲しがるなんて君もなかなかだねえ。おまけつき玩具感覚かい?」
「確かに最近のああいったお菓子はもはやお菓子こそおまけになっている節がありますが・・・。」
茶化すように笑っている神様だがこちらは笑い事では無い。なにせ何の力も無いただの一般人以下の状態で異世界に放り出されているのだ。
これでは今後の生活が・・・異世界人生プランが、、、!
「落ち着きたまえよ。私は特に何も与えていないというだけで無いと決まったわけじゃないさ・・・それに、君という存在そのものがある意味チートみたいなものだ。がんばればハーレムだって夢じゃないかもしれないぞ!」
「そ、それは一体どういう、、、?」
「あまったれるなぁ!」
「なぜにっ!?」
突如のビンタ。それも結構な勢いでの一発。何の脈絡もなくなぜ今、、、。
「あっはっは。一度言ってみたかったんだよねえ。・・・ま、何かを為すためには代償が必要という事さ。」
「それでよく寛大な神様などと・・・」
「それに、神様がなんでもできるからって全てを思い通りにはできないという事だね。安心したまえ。私が何をせずとも――君はちゃんと無敵とやらになれるさ。」
結局何の為にここへ呼ばれたのか・・・言ってることの意味もわからぬままにただただビンタされて。もうやだ、某おうち帰りたい。
「さあさあ君の聞きたいことには答えただろう?今度は君が聞かせておくれ?」
「聞かせるとはいったい何を?」
「何でも構わないさ!君の経験したこと経験していないこと。夢でも妄想でも現実でも!なんでもさ!」
「はぁ・・・ではとりあえず自己紹介でも。某は――」
そこからは何とも言えない不思議な時間だった。
本当に他愛無い話から、自分の小説の話。はては描いた夢の話や黒歴史に至るまで。
神様がこんなことを聞いていて楽しいのか??と思うようなことをとめどなく。
その度に頷き相槌を打ち、時に共感し、時に嫌な顔し・・・終始楽しそうな顔で目の前の神様はこちらの話に聞き入っていた。
「はははっ。いやあこんなに笑ったのはいつぶりだろうか!」
「お気に召したようで何よりですが・・・一体何がしたかったのです?」
「これがしたかったのさ。こういう、普通のお喋りを君としてみたかった。」
満足そうに頷いた後、噛み締めるように神様は呟いた。
こんななんでもない事を味わい深く噛み締めるように。
「そろそろ時間かな?」
「結局のところ、某の聞きたいことはほとんど聞けていないのですが?」
「そうカリカリするもんじゃない。こんなにかわいい神様とお喋りできたんだぞ?それで良しとするもんじゃないのかい?」
「よくもまあぬけぬけと・・・」
憎まれ口を叩いてはみるものの本心ではそこまで嫌なわけでも無かった。なんというか、楽しい時間だった。たまには、こういう夢も悪く無いのかもしれないな。
「じゃあ不満そうな君に1つだけアドバイスだ。残念と捉えるかどうかは君次第だが、君の物語はこの先苦難に満ちている。」
「それを聞いて残念意外にどう捉えろと!?」
「だが、その分君の望むモノにもつながっている。だから迷わず歩きたまえよ。その道行の先に、君が見るものが光であることを心から願っている。」
「神様が願うとは何とも本末転倒な気が・・・」
「あっはっは!たしかにね!これは一本取られた!じゃあね少年!また会うだろうからそれまで元気でな。」
ふわりと浮かぶようなそれでいてストンと落ちるような。なんとも不思議な感覚に襲われ目が覚めるんだなと感じた。
「そしてできることなら―――てくれ。」
最後の最後。快活で歯に衣着せぬ神様らしくない呟きは聞き取り切れず。
―ドスンっ。
「――いだぁっ!」
ベッドから落ちた衝撃で現実へと引き戻された。
「落ちたような感覚はまさかこれですかね、、、??それにしても・・・」
知りたいことはほとんどわからず、何やら不吉なお告げだけを聞き挙句に平手打ち。本当に何のための夢だったのか・・・寝ていたはずなのに疲れがどっと溜まった気分。
「たまには悪くないとは言いましたが・・・しばらくは勘弁ですね。」
もう一度布団に潜り込み朝食までのしばしの二度寝へと戻ったのだった。
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