【短編】よくある悪役令嬢ものの、逆転生 ~宮廷社会の嫌われ令嬢は日本の地味な高校生に転生する~

LA軍@多数書籍化(呪具師200万部!)

悪役令嬢、日本に転生する────。

「????」Side



 某月某日。


 地球──。

 日本、某所、某高校にて、


 いつもの如く晴れた日の、あるうららかな午後……。




「────舐めてんじゃないわよぉぉお!!」




 教室中……いや、校舎中に響き渡る怒りの声と共に、


 ブワッシィィィイイイン!!


 と、腰の入ったビンタを、「クラス一の陰険女」にブチかましたのは、クラス一地味で典型的ないじめられっこ女子こと──『天童真理』!!


 彼女は、いつもの地味な姿をかなぐり捨てると、椅子を引き寄せると、ダンッ! と足音を立ててふんぞり返った。



 しーーーーーーーーーん



「よ~~~くも、まぁ……。人が黙ってりゃ、今までやりにもやってくれたわねぇぇえ……。────わたくし、ちょーお冠ですのぉ」


「な、て、てめぇ……」



 ブワッチィィッィイイン!!



「『てめぇ??』──誰に口を聞いているか、この下郎ッッ!」


 突如、豹変した天童真理にクラス中が飲み込まれていた。

 いや、ドン引きしていた────。


「「「(……だ、誰?!)」」」


 委員長、

 ギャル女、

 そして、天童を日常的にイジメるクソ女ども……。


 もちろん、男子も全員ドン引きだ。


「て、天童さん?! ぼ、暴力は────」


 びしぃ!!

 すかさず駆け寄ってきた委員長に、ズビシッと指を突き付ける天童。


「下がりなさいッ。ここはわたくしの舞台ですの……。下賤の手を借りるつもりは毛頭ありませんわ」

「げ、下賤……?!」


 ポカンと口を開けた委員長を放置し、天童は優雅に一礼。

 そして、再び視線を戻すと、


「ふぅ……。鬱陶しい髪留めですわ」


 頭の後ろでお団子にまとめておいた髪を───ヘアバンドを引きちぎるようにして外すと手を優雅に差しいれてフワリと舞わせる……。


 シュルシュルシュルシュルシュル……!


 そこにあったのは、見事な縦ロール。

 まさにドリルの如き、縦ロールをした『天童真理』がそこにいた──いや、現れた。


 ……先ほどまでの地味で陰気な天童とは見違えたような姿。

「これも邪魔」

 カシャン……!

 芋臭い黒縁眼鏡を床に放り捨てると、


「さぁっ~て……。下郎」

 ズーーーーン!! と、腕を組んでクソ女を見下ろして言った。


「……一度だけチャンスをあげる」

「な、なにを……! こ、このぉッッ」


 起き上がろうとした『クソ女』にバシンッッ! とビニール傘を差し向けると、


 ──おーーーほっほっほっほ!!


「……泣いて伏して、許しを乞え───さすれば、我が名において慈悲をあげましょう」



「「「はぁ?!」」」



 そのセリフに、クラス中が口をポカーーーンと……。


 だが、天童真理は動じない。


「さぁ、膝づけ────そして、許しを請いなさい」


 そういうと、雨も降っていない屋内だというのに、ビニール傘を開けると肩に当ててクルクルと回す。



 その姿はまさに…………れ、令嬢??


 クラス中が何か幻でも見たかのように目をしパ叩かせる。

 なぜか、生徒たちの目には彼女が背景に花園を纏っている姿まで幻視する始末────。


 だ、だだだ──。

「「「「「誰ッ?!」」」」


 それが、クラス一の地味ッ子、イジメられ少女、天童真理の変わり果てた姿であった。



※ ※ ※


 同日「?????」side


「やーーーーーめーーーーーーてーーーーーー!!」

 クラスで大暴れする天童真理を地団太を踏んで見ている「もう一人の天童真理」。


 それは彼女の心の声で、クラスにいる天童にも聞こえているはずなのだが、どうしたわけかガン無視されている。


「もう! 止めてっていってるでしょ!! そ、そんなことしたらクラスにいられなくなる──」


『結・構・よ』


 は?!


『いい加減う~んざり』

「ちょ! り、リーン様?!」


『お黙りッ! 今のワタクシは侯爵家が長女リーン・スターではなくってよ』

 そう。

『今のワタクシは、』

 ──平凡で、地味で陰気な日本人女子高生に転生した悪役令嬢の「リーン・スター」の日本での姿!

『天童真理よッ!』

「……いや、それ私の名前!!」


 頭の中で「元」天童真理が抗議するも、

『お黙りッ! アナタは今、帝国の侯爵家が長女リーン・スターなのよ!』


「い、いや……。そ、そうなんだけど────」

 ゴニョゴニョ。


~◇~◇~◇~◇~◇~◇~


 陰湿なイジメを受け、駅のホームから突き落とされて意識を失って以来──。

 なぜか、乙女ゲームの世界で目を覚ました天童真理。

 しかし、よくある「異世界の悪役令嬢転生のごとく」


 彼女は天童真理ではなく、乙女ゲームの世界の悪役令嬢として転生してしまっていたのだ!!!


 …………というのが、ひと月前。

 ようやく天童真理がリーン・スターとして馴染み、ゲーム内での知識をいかし破滅を回避しようと右往左往していた時。


 それは起きた。


 夜、寝たその瞬間になぜか、意識だけが日本人「天童真理」に戻ってきていた。

 だが、困ったことに、病院で意識不明で眠っていた天童の中にはすでに「天童真理」の中には別人格がおいたのだ。


 それが………………。


 なんと、あの悪役令嬢として乙女ゲームで大暴れをしてくる侯爵家長女が「リーン・スター」だったのだ!!


 なんてこった。

 なんてこった!!


 パチリと目を覚ます病院の天童。

 そして、意識下でフワフワと浮いて、自分を見下ろしている天童と、病院で寝ている天童の目と目が合う────。


 そして、


 い、

 い、

 い────。


「『入れ替わってるぅぅぅぅううううう!?』」


 あろうことか、

 転生したはいいものの、悪役令嬢の中身がそのまま──…………天童真理と入れ替わっているというクソオブクソ仕様として!!


~◇~◇~◇~◇~◇~◇~


 クラスにいるというのに、脳内で会話する二人。

 異世界に転生した天童の声は、日本に転生した「リーン」にしか聞こえていない。


「そ、そうなんだけどね……」

『ならば結構。これまではアンタが大人しくしていてというから、この豚箱のような学び舎で黙っておりましたが……もう、うんざり!』


「え? え? いや……」


『なーーーーーんで、このアタシが、大人しく教科書を隠されなきゃならないのかしら? さらには上履きに画びょうを入れられても黙ってる──、』


 でね?


『アナタが言うから数日我慢したわ──』


 黙って、弁当を捨てられました。

 黙って、机に落書きをされました。

 黙って、掃除を押し付けられました。

 黙って、虫を引き出しに入れられました。

 黙って、トイレに連行され便器を舐めました。


  黙って、

   黙って、

    黙って、

     黙って…………。


 だから、もう──。

『……アンタが黙ってみていなさい──』


 ちょ?! な、なにする気?!


 そう、(頭の中で)言い切ると──。

 入れ替わった悪役令嬢こと「天童真理」は、貴族令嬢よろしく、スカートをフワリと靡かせながらツカツカと、イジメをしてきたクソ女に歩み寄る。


「聞け。下郎────」

「てめぇえ! 誰に手を出したかわかってんだろうな!?」


 スッ……。


 リーンは制服のポケットから、手帳を取り出す。


「……出席番号12番。田中敏子────16歳」

「あ゛?!」


 ニコッ


「〇月〇日、19時、駅前で男と援助交際」

「は?」

「〇月◇日、21時、外国人から購入した麻薬を吸引」

「な?!」

「〇月△日、22時、ホームレスを襲撃、重傷を負わす」

「ちょ?!」


「〇月……」

「〇月……

   ……

   ……

   以上よ────まだ聞きたい?」


 ニコぉ。


「て、てめぇ!! 何でそれを──あ、いや!」

 慌てる田中さん。

「そ、そんなの証拠が────」

「スマホ──便利ね。これ、向こう・・・に帰ったら、ワタクシも欲しいわー」


 スマートフォンの画面には確かに……現場の写真ががががががが!!


「て、てめぇ、いつの間に!!」


『ほ。ほんと、いつの間に撮ったの?!』

 頭の中で天童が話しかけるがリーンは止まらない。


「ばっかねー。このワタクシが如何ほどの権謀術数の中で生きてきたと? 生き馬の目を抜く──宮廷社会を潜り抜けてきたワタクシがこぉんな豚箱で黙ってやられているわけないでしょうが」


 そう言うと、スー……と、スマートフォンのダイヤルを操作し、「110番」を押そうと見せる。


「──そして、この国は素晴らしい社会システムがあるのよ? 使わない手はないわぁ……。賄賂もなく、無料で素早く動いてくれる公的機関があるなんて──なぁんて素晴らしい世界!!」


「ちょ! おま……本気か?! け、警察はちょっと……」

 くそ女こと田中さんが慌て始める。

 どうやら、スマートフォンに取られていた写真は相当マズいらしい。


「お前? ちょっと……。おーほっほっほ。………………口にきき方がなっていないようね!」


 バーーーーン!


「ひ、ひぃ! す、すみません!!」


 思いっきり踏み出した一歩が立てる足音に田中がビビって悲鳴を上げる。

 いつもは暴力で女子を支配し、学校カーストの上位にいる女が、一瞬にしてカースト最下位のいじめられっ子にひれ伏した。


わたくし────リーン。こほん、天童真理が告ぐわ、」

「は、はい……」



 ……泣いて伏して、許しを乞え───。

 さすれば、我が名において慈悲をあげましょう!



「す、す、すみません!! すみません!! ごめんなさい、天童様ぁぁああ!!」


 田中さんの絶叫が教室にこだました……。


 それは、転生した悪役令嬢がイジメられていた少女の日本の高校生活をぶち壊すその瞬間。


「おーーーーーほっほっほっほっほ!! 許す──許すわぁ……特別に許してあげるわぁぁあ」


  おーーーーーほっほっほっほっほ!!

   おーーーーーほっほっほっほっほ!!


 高笑い

 高笑い!!


 あの天童真理が高笑いぃぃぃいいい?!

 そして、イジメを真正面からぶち破ったぁぁああ?!


「うそ、天童さん、すごい」

「て、天童ってあんなキャラだったっけ?」

「か、かっこいー……!」


 賞賛とも、驚愕ともつかぬ声。

 遠巻きにイジメを見ているしかなかったクラスメイトは今この瞬間、クラス内のカーストが入れ替わったのを感じた。


 そう。

 ……そのあり得ない光景をクラスが目にしたのだ。


 力でも劣り、

 人数でも勝てない無力な女子が、陰鬱な学校生活を打ち破ったとき────転生悪役令嬢の日本生活が始まる!!



『リーン様ぁぁああああ! あんまりやりすぎないでぇぇっぇえええ!』

 一方異世界に転生してしまった本物の「天童真理」も、まぁ、なんとか乙女ゲームの世界でうまくやっていくだろう。

 夜な夜な、意識だけが日本に戻ってきてしまい、大暴れする「リーン」を見て気が気ではないだろうけど、ね。


 だけど、安心してもいい。

 悪役令嬢「リーン・スター」は、乙女ゲームのライバルキャラ。

 主人公をのぞけば、普通に凄い女の子なのだ



 侯爵家令嬢として英才教育を受け、

 社交

 礼儀作法

 裁縫

 会計

 ダンス

 細剣術

 乗馬

 帝王学



 そして、

 伏魔殿がごとき宮廷を生き抜く才覚ッッ!



 その、スーパーレディが、日本の地味な女の子に転生したからって…………大人しくイジメを受ける??


  「はっ、そんなわけねー」


 ───それは、よくある悪役令嬢転生物語。


 ある日、地味でクラスの連中から絶えずイジメ受けていた天童真理は、イジメに耐えかねて命をおと────したはずだった。


 だが、彼女は生まれ変わった!


 最恐最悪の悪役令嬢「リーン・スター」として!!





「おーーーーほっほっほっほっほ! ぬるい、ぬるいわぁ、高校生活」




 入れ替わりで転生した悪役令嬢……日本に降臨す!!

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