会話

武田コウ

第1話 会話

「ねえ、春ってなに?」

 少女の桜色の唇が不可解な疑問を口にする。私は想定外の質問に戸惑いながらも、ベッドに腰掛けた少女に向き合った。

「冬のように寒く無く、夏のように暑くも無い。そして秋のように儚げでもない、そんな季節さ」

「それは素晴らしいものなの?」

 少女の大きな瞳は、好奇心でキラキラと輝いている。

「命の芽吹く季節だ。きっと人はそれを素晴らしいと感じるのだろうね」

「……あなたは春が嫌いなの?」

 少女の問いに私は苦笑いを浮かべた。

「なぜ、そう思うんだい?」

「春を語る時、あなたが少し、元気が無かったから」

 聡い子だ。

 私は心配そうに見つめる少女の頭を優しく撫でた。

「さ、もう寝なさい。明日も早いのだから」

「……はぁい」

 少女はしぶしぶといった様子で、その小さな体をベッドに潜り込ませる。

「おやすみなさい」

「……ああ、おやすみ」

 明かりを消し、私は少女の部屋を後にした。飾り気のない廊下を進み、自分の部屋へと向かう。

 不意に視界が歪み、気が付くと私はしゃがみ込んでいた。口に手を当てて強く咳き込む、ああ、自分と言う存在が酷く儚く感じられた。


―――あなたは春が嫌いなの?


 春は嫌いじゃない、でも……



        私の命は、春まで持たないのだろうな。

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会話 武田コウ @ruku13

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