世界性癖カンファレンス 本日のテーマは『空』

@dekai3

『空の深さは性癖の深さに通じる』 国連事務総長の言葉

「センチペットさん、ありがとうございました。会場の皆様、『空に舞う鮫』という性癖の素晴らしさを紐解いてくださったセンチペットさんに、もう一度盛大な拍手をお願いします」


パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ


 脇にある階段を使って壇上から降りる発表者へ、会場内から多くの賞賛の拍手が舞い上がりました。


 ここは国連総本部の敷地内にある性癖堂の第一会議室。今日は毎月恒例の世界性癖カンファレスの日です。

 今日のカンファレンスは今年最初の一回目という事もあって拝聴者はとても多く、会議室内には座席に座れずに立ち聞きで参加している人が何人か居ます。


「これにて、本日発表の性癖の『空中メガネドッキング』、『青空と向日葵畑と白いボディのガイノイド』、『卵生なのにおっぱいのある鳥人のおっぱい』、『バンジージャンプ』、『天境線』、『ラジオゾンデちゃん』、『夜明け前の紫色の空』、『空に舞う鮫』の全ての性癖が出揃いました。性癖発表者の皆様、お疲れ様でした。会場の皆さん、もう一度性癖発表者の皆様への拍手をお願いいたします」


パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ


 司会の女性の声がけにより、再度会場中から拍手が舞い上がります。

 この性癖カンファレンスの場での拍手は二つの意味を持ち、人前で自分の性癖を騙ると言う勇気ある行動を示した発表者への賞賛と、自身に新しい性癖を植え付けてくれた事に対するお礼になります。

 国連は『性癖は多ければ多いほど生きる楽しみが増える』という格言を謳っていて、この様なそれぞれがテーマに沿った性癖を発表する性癖カンファレンスを始めとし、性癖ディスカッションや性癖ミーティングや性癖サミット等の様々な性癖に関するイベントを毎月開催しているのです。

 性癖カンファレンスは国連が発足した当初からある由緒正しい性癖イベントで、発表者に性癖の自信を付けさせると共に拝聴者が新しい性癖に目覚める為の手助けをするイベントなのです。


「それでは、只今より三十分間の休憩を行います。休憩の後、評議員の方から今回の性癖カンファレスの性癖大賞の発表が行われます。皆様、大賞の発表まで暫くお待ち下さ…」


バァァァン!!!


 本日の性癖カンファレンスの発表が全て終わり、後は休憩後の大賞の発表を待つだけとなった時、会場である会議室の扉が勢いよく開け放たれました。


「ちょぉぉぉっと待ちな!!!」


 そして響き渡る、一人の女性の声。


ドヤドヤガヤガヤナンダナンダー


 そこに居るのはぼろぼろのローブを羽織り、赤い長髪を無造作に垂らした野性的な笑みをする女性。

 外見は二十代前半ぐらいでしょうか。


「今回の性癖カンファレンスの発表に、飛び入り参加をさせて貰うぜ!!!」


 なんと、突然現れた女性は性癖表現者パッショナーの中でも有識者からの推薦を受けねば壇上に立つ事を許されない性癖カンファレンスに飛び入りの参加をすると申し出たのです。


「そ、そう言われましても…」


 突然の出来事に司会の女性は言葉に詰まりますが、乱入した女性はそんな事お構いなしにどしどしと会議室の通路を歩いて性癖カンファレンス評議員の席の前までやってきます。

 余りにも女性が自身満々な表情で歩いているので、会場に居る拝聴者の何割かはこれもカンファレンスのイベントの一つかもしれないと思って女性を止めていい物かどうか決めあぐねていて、残りの拝聴者達は逆に女性の登場に喜んでいる素振りを見せています。

 それもそのはずです。拝聴者と言えども、この会場に居るという事は誰もが性癖表現者パッショナーであり、性癖表現者パッショナーは他の性癖表現者パッショナーの性癖を肯定し、それを吸収してより深い性癖の高みを目指す事を生きがいとしているのです。なので、女性のしている事がルール違反でゲリラ的な物だとしても、それが性癖を表現する為の行動であるのならばまずはその性癖を示してみろという目で見ているのです。


「オレに今回のテーマの性癖を騙らせてくれないか? 」


 評議員の席の前まで来た女性は、今回の三人の評議員の代表の女性の目の前で自信満々の顔で自分に発表させろと言います。

 代表はじっと女性を見つめ、何かを思案している様子です。


「あ、あの、とりあえず貴女が誰なのか教えて貰えないかなと…」


 自信満々な女性とそれを見て黙っている代表を交互に見ながら、評議員の一人の若い男性が恐る恐る尋ねます。


「『人は性癖の元に平等』だろ?性癖の発表にそいつが何処の誰でどんな奴かなんてのは必要な事か?」

「そ、それは…」


 しかし、女性はそれに偉人の言葉を使って返しました。

 これは過去に存在した偉大なる性癖表現者パッショナーの言葉であり、性癖に上下関係や優劣は無く、又、王様だろうが奴隷だろうが誰がどんな性癖を持っていても良いという意味の言葉です。

 この考えは国連も支持している物ではあるのですが、性癖カンファレンスは各国の政治も絡む物であるので実はこの考えから真逆の位置に存在する物になってしまっています。

 その為、若い評議員はこの言葉に対してこれ以上女性に何も言う事が出来ず困った顔で代表の顔と女性の顔を交互に見つめます。


「聞いたことがある。最近各地の性癖に関するイベントに乱入してはで性癖を広め、真っ向ではない性癖表現者パッショナーを増やして回っている者が居ると」


 女性の問いに応えたのはもう一人の評議員の男性でした。


「ふんっ、流石にこれだけやっていれば知られているか」

「勝手に耳に入って来るんでね」


 評議員の男性の応えに罰の悪そうな顔をした女性は、ローブから右腕を出して長い髪を揺らしながら後頭部を掻き毟りました。

 問いに応えた評議員の男性はこの女性に迂闊に発表をさせない方がいいだろうと考え、先程から判断に困ったまま女性を取り囲んでいる警備スタッフに女性を連れ出して貰おうと指示を出そうとするのですが…


「………巨乳」

「へっ?」


 ぽつりと、評議員の代表が言葉を漏らしました。


「巨乳。やっぱり巨乳じゃないですか。ローブで隠れていたけれど立派な巨乳だ。鍛えられている周りの筋肉が支えになっていてしっかりと自立をしている一人前の巨乳。こんな巨乳の持ち主なんだから性癖も真っ直ぐで正直な物に違いない。よろしい。聞きましょう。会場の全員が反対しても僕が貴女の性癖を聞きます。さあ、そのローブを脱いで正々堂々と壇上に上がって。そして出来れば腕を組んで胸元を強調させながら発表して。さあ、ほら早く。どうせ三十分の休憩なんかしてもしなくても一緒なんだし、その分巨乳の…いや、貴女の発表を聞く時間にしましょう。ほらほら、早く階段上って、そう、リズミカルに。いい、いいよ。グッドバイブレーション!」


 評議員の代表は女性が巨乳な事が判明するや否や女性の主張を認めるばかりか、直接手を引いて女性を壇上へ上げました。

 それを見た若い評議員の男性はおろおろとし、もう一人の評議員は眉間にしわを寄せて頭に手を当てています。

 そして、会場の拝聴者達は流石は『巨乳好き』の代表だと思いながら、代表が許可したのだからと乱入者である女性の発表を聞く体制に入りました。

 当の本人は想定と違った状況での発表に戸惑いを感じているのか、本当にいいのかという感じで代表の顔を何度か振り返って確認しますが、代表はその度に揺れる巨乳を満足げに見つめているだけで止めようとはしません。


「じゃ、じゃあ発表させてもらうぞ」


 そして、戸惑いながらも女性は壇上のマイクを手に持ち、自らの『空』に関する性癖を騙り始めるのでした。


「まず前提としてだが、『空』という言葉について、お前らは大きな勘違いをしている」


 発表を始めるなり、女性は突然会場の全員にダメ出しをします。

 この言葉には拝聴者だけでなく、他の発表者達も眉を顰めました。


「『空』は何も頭の上に広がっている場所を意味するだけじゃない。空っぽという言葉がある通り、『空』と言うのは空間を意味する言葉でもあり、それはつまり『その部分に何も無い場所』というのを指す言葉である」


 女性は自信満々にそう言うと、マイクを持っていない方の手を大きく仰ぎ、ぐるりと一回転させるようにして何も無い宙を示します。

 その話し方は言葉だけで伝えようとするのではなく、全身を使って意見を伝えると言う技法を使っており、伊達に各地の発表会に乱入してはいません。


「という事はだ、つまり『空』というのは『特定の場所を指す言葉ではない』という事になると思うんだが、お前らはどう思う?」


 女性はそこで一旦マイクを口元から離し、拝聴者へ向けます。右側の席へ、左側の席へ、奥の席へ、手前の席へ。

 マイクを向けられた周辺の席の拝聴者は急に自分達に意見を向けられてどきりとした表情をし、マイクが他の席へ向けられるのを見るとほっと安心した表情をします。


「オレの言っている事はおかしな事じゃない。『空』は頭の上にある場所ってだけじゃなくて、『その辺の空間』とか、『この辺りの空間』とか、どこでもいい場所の事だって言ってるだけだ。そもそも、『空』が『頭の上』しか指さないとしたら、空を飛んでいる時の自分の足から下の空間はなんなんだって話になるしな。まさか地面ってわけじゃないだろう?」


 拝聴者達の反応を見て快くしたのか、女性の語りは段々と熱を帯びてきました。

 元からただ喋るだけでなく身振り手振りを介して喋っていたのですが、今度はマイクをスタンドから外して壇上を右へ左へ歩きながら会場中の人と目を合わせ、直接語り掛ける様に発表をしているのです。


「だとしたら、この『空』というテーマに込められた本当の意味が見えてくる」


 そして、今度はマイクを持ったまま壇上を降り、性癖発表者達の待機席の前までやってきて、


「お前も、『空』だ」


 発表者の一人の前で、そう言いました。


「お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、全員、『空』だ」


 発表者の前だけではありません。女性はそのまま拝聴者達の席の前まで行き、一人一人の顔を見ながら続けます。


「お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、みんなだ。みんなみんな全員、『空』だ」


 先程まではまだ論理的に話をしているように見えていた女性が、急に理解に苦しむ事を言い出した事で、会場に不穏な空気が流れ始めました。


「分かるか? 『空』だ。『空』が『特定の場所を指す言葉ではない』というのならば、逆説的に『空』は『この世界全ての場所を指す言葉』として定義が出来る。それなら、目の前にある何も無い空間だって『空』だし、このマイクだって、この会場だって、オレ自身だって、お前らだって、全部『空』だ。この世界全ての物が『空』になり、『空』とは世界全てを意味する事になる。ならば、『空』がテーマの性癖とは一体なんだ?」


 女性はそこまで言うと、一旦喋るのを止め、ゆっくりと壇上へと戻ります。

 会場中には女性が話した内容の意味は分かりませんが、なんだかすごい事を言っているのではないかと言う雰囲気が漂っており、女性が次に言う言葉を聞き逃すまいと真剣な表情をした拝聴者達が固唾をのんで見守っています。


「簡単だ。『空』というのが全てを意味しているのな…」

「スカイダイビング!!!!」


 女性の言葉を遮る様に、唐突に若い評議員が叫びました。


「お、おい、発表中の遮りはルールいは…」

「スカイダイビングは全身で空を感じるし、高速で移動すると風がおっぱいの感触になるんですよ!!!! つまり!!!! スカイダイビングは全身で空というおっぱいに包まれる最高に空を感じる行為!!!!!!!」

「優勝!!!!!!!!!!」


イェーーーーーーーーーーイイイイイイ!!!!!!!!


 全身でおっぱいを感じると言う言葉に反応した代表が勝利宣言を出しました。

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