第28話 欠けたモノを求めればこそ

「あともう少し!がんばれ!!」

「う”う”~」

 のんびりとした入院生活がホントの意味で幕を開けるかと思いきや、待っていたのはそこらのジムよりもキツイ、リハビリの日々。

 まさか歩くことだけでもこれほどとは。小鹿どころか、枯れ枝二本で++㎏を支えている感じ。やせ細っていてこのレベルだから、もともとの☆☆㎏なら絶対に折れちゃうね。よわよわだよボク。


 赤坂さんってもしかしてだけど、気合と根性が最良の薬とか思ってないよね?そうだとするとマジで担当ナースさん変えてー


 そんな、とってもとっても大変な時間が、1日の大半であるからこそ、ボクはふとした時に秋君の面影を探していた。

 どうしてお見舞いに来てくれないの?

 確かに、何年も来つづけるのは難しいかもだけど……


 そっか、目を覚ましたことを知らないからだ!

 じゃあ、はやく連絡しなきゃだよね。そうだよ、ボクは今、リハビリ中なんだよ。

 だから、もう―――


「病まなくていいんだよね」


 *****


「あ、あの、電話かけたいんですけど……」

「は~い、じゃあ、車椅子に乗せるからちょっと待ってね」

「お願いします………」

 仕方がないことだけど、やっぱりだっこしてもらってから、車椅子に乗せてもらうのは何だか恥ずかしい。それも実際は26歳。やっぱり++㎏は重いよねぇ。

「5分くらい一人にしておくから、無理して自分で帰ろうとしなくて大丈夫ですよ」

 赤坂さんはやっぱり大人の女性だ。

 ボクもああなれるといいのだろうけど、それはリハビリどころかアスリートコースだよ。


 片手で数えるほどしか使ったことの無い公衆電話への期待感より、やっぱり秋君の声が聞きたいっていう欲求の方が強い。ホントなら退院したその足でおうちに行きたいところだけど、ボクはここから離れることも抜け出すことも当分は無理そう。

 だから、文明の利器?の電話でお話するんだ。


「出ない………なんでやねん」

 ボクからの電話なんて出る必要ないってこと?だからお見舞いにも来てくれないのかな………?


「あれ、佳乃さん、もういいの?」

「はい、リハビリします!」


 *****


「疲れた。頑張り過ぎて逆に倒れそう」

 消灯時間だってのに何だか眠れない。そりゃそうだ、何年間も眠り続けたんだから。

 喉も乾いてきちゃったし。


 てなわけで、必死の思いで車椅子に乗って、そして今はゆっくりと忍び足(忍び車?)で自販機に向かってる。

「!!??」

 ナースさんにいきなり見つかったかと思ったら、まさかの長髪の女。おばけ、ではないよね………?


 ん、もしかして、赤坂さんかな。ポニーテールじゃないから合ってるか分かんないけど、たぶんそう。


「もしもし、今から帰りまーす。今夜は遅くなったから昨日の残り物で作るけど、福があるから楽しみにしててね、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る