第27話 落ちたコインは表か裏か

「いいかい、落ち着いて聞いてほしい。もしそれが無理そうなら、そう伝えてね」

「はい」

 CTR検査と先生の診断結果を待って、予備入院することとなって一日が経った。

 先生と両親は緊張した面持ちで個室に居るけど、当事者のボクの方は、秋君も一日入院した時、こんな感じだったのかな、なんて想像してた。


「あなたは6年間、意識不明の昏睡状態だったのです」


「ろくねん?」

 ていうことは何歳?

 え、26!? もうすぐ三十路!?


「いいかい、落ち着いて………そうです、佳乃さんのように長期にわたって目を醒まさない症例は多々ありますが、このように治療法も目立って変わりないのに、突然目を醒ますケースは非常に稀で、奇跡としか言いようがないです」

 医者が奇跡とか簡単に言うな。匙を投げてたってことじゃん、それ。

 でも、どうしてボク、そんなに長い間起きれなかったんだろう。


「……なるほど、原因に心当たりはありませんか」

「そうなの、佳乃?」

「う、うん。ボクって病気なの?」

「安心してください。昨日の検査結果は、そう示してはいません。ただし、6年という歳月は、確実に佳乃さんの身体機能を低下させています」

「もうすぐオバサン、ですしね」

「いえ、そういう意味ではなく、簡単に言えば、重度の運動不足という事です」

 わざわざ男の看護師さんに車椅子に乗せてもらったのは、やはり自分では乗る事もままならないから、って事なんだね。


 *****


「ホントなんだ…………」

 手鏡に映った自分は、黒髪に戻ってるし、食事じゃなくて点滴とかでの栄養摂取だったからか、結構顔も痩せていて、それが肌の青白さのせいで、より老けているように感じられる。

 ビフォーアフターが悲しい結果だなんて、なんだかなぁだけど、年を受け入れた上で言うと、今更青髪にするのは無理だろうなぁ。

 メイクも年相応になるよう練習しなきゃだし、そもそもリハビリしないとどうにもならないし。


「はじめまして、だね。私は佳乃さんが眠っている間、お世話をしてたです。何でも気にせず言ってくださいね」


「うぅ、何と言っていいか」

「気にしないで。年の近い者同士、仲良くしよ?」

「こちらこそ、お願いします」

 ボクと違って、綺麗な黒髪。ボクの色はあんまり好きじゃない。

 だから青とか紺色に染めて、素の自分を覆い隠してきた。

 でも、気づけばもうそんな年齢でもなければ、ナースさん―赤坂美里さん―のように、自分の腕で生きていかなければ、その時こそ死んでしまう。


「そういえば――――」

 秋君は今、どうしてるんだろう。26,7歳ならナースさんのようにお仕事を頑張ってるのかな。


「…………会いたいよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る