第22話 メンヘラよ去らば。何と素晴らしい人を敵に渡すことか
「もちろん、これからも来てくれるのはありがたいことだと思うし、娘も喜ぶだろう。でも、君の人生を損なってまで、見舞いに来る必要はないんだ、どうか分かってほしい」
何を今さらとは思わなかった。
だけど、何だかストーカーのようにかのの両親が思いつつあるのではという自身の憶測には嫌気がさした。
かのが自殺未遂をはかる以前に、少しでも僕の名が家族団らんの場で登場していれば安心して迎え入れてくれたのだろうが、かのは自宅では塞ぎ気味で、両親や親戚とあまりコミュニケーションを取らなかったらしい。
それに僕らが恋人でも婚約者でもないのが気にかかるのだろう。
いざ目を覚ました時に、僕の本性が変質者である事を、かのの両親は否定しきれなかった。
そして最大の理由は、今や僕のしがない援助など大した足しにならない事だろう。
かのの持ってきた原稿、つまり僕らが会うに至ったあの小説を、無断ではあるが、とある小説投稿サイトに掲載したところ、編集者に目が止まったのをきっかけに大々的に書籍化。
ベストセラーとまではいかないが、昨今の出版業界を見る限り、増版もされるなど、なかなかヒットした部類に入り、印税などがかのへ、すなわちかのの両親へ支払われ、かのの両親が出費に困る際には、僕の援助と共に、それらの資金があてがわれた。
かのは自らの意思で活動出来ない現実と相反して、だんだんと僕の存在を必要としなくなったのだった。
普段の黒衣は、患者用の白衣へと様変わりし、入院生活を経てすっかり青染めは抜け、元の黒髪へと戻ったかのの寝顔は、まさに両親の知る『佳乃』であって、僕の知る『かの』でないかのようだった。
ともかくも僕は、最後かもしれないお見舞いをする事にした。
病室にはかのが見ることも出来ないのに、季節の花々がすりガラスの花瓶に生けられ、何とかして無機質感を誤魔化している。
後遺症、と表現するのか医学的に適当なのかは、赤の他人である僕が担当医から聞かせてもらうことは出来なかったので、便宜上、そう解釈しているが、とにかく、かのは自殺未遂によって、寝たきりの生活を強いられている。
それはかのの望んだ結果であり、ある意味においては自殺なのかもしれないが、まだ生きてはいるという事実には、死んでしまったよりも重く僕にはのしかかっていた。
「今日で最後だ。元気でな」
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