第19話 メンヘラ奪回作戦

 かのと入れ替わるようにして、あの男は再び姿を現した。しかしこれによって僕にはある疑念が解消される思いでもあった訳だが。やはりコイツは実在しない。


「その通り、僕は君であり、君は僕だ」

 このセリフ口調は、残念ながら僕自身の中から発露したものらしい。思春期に中二病を発症しなくてよかったと心底思った。


「僕は君の<批判者>だ」


 批判者を名乗る別人格もとい幻覚存在だが、僕はてっきり、このキザさから<理想>とでも言うのかと思っていた。

 そんなことより、僕はコイツと談話している暇があるなら、一刻も早く病院へ行くべきではないだろうか。

「そうかもね」

 いきなり批判者らしからぬ仰せだが、これは老若男女、共通認識であるということであり、精神的危機をも示してる気がする。


「で、お前は何を批判するんだ」

「僕という存在は、君が抱いている現状への不満だよ」

「と言うと?」

「一番ホットでタイムリーな話題を挙げるとすれば、ついさっき君はかのちゃんを泣かせてしまった。しかし、君自身はその原因となる理由が分かっていない。故に君は現状への不満を募らせ、僕という存在を召喚、いや生成するに至ったという訳さ」

 理解できなくはない。こうしてハッキリと姿かたちが見えている不思議は依然として残りつつも、公園のベンチ、病室と違って、僕の部屋へ他人が入り込むなど不可能だからだ。これからは鍵だけでなく結界も張るべきかもしれないが、この男の言い分に一つも嘘が無いのなら、どれほど神聖な領域であっても、コイツは姿を見せ、悪魔か天使かも分からぬ表情で語り掛け続けるだろう。


 そうだ、一回目のベンチの時は、知らぬ間に先輩を返してしまった『不甲斐ない自分』という主観的客観性があり、二度目の病室だって、かのとのやり取りのせいか否か先輩との焼肉ディナーをすっぽかしてしまった結果、『寿司に行った』と予言めいた批判をしてきた。

 そして今、コイツの言ったように、かのを泣かせてしまった罪を、この男が執行人、いや裁定者として現れたのである。奇々怪々であるなどと言うよりも、むしろこの謎の批判者を利用して、現状の安定化を図る、というのが現実的かつ建設的帰結であると僕は確信した。


「じゃあ、僕を批判でも非難でも批評でも好きにしてくれ」

 被告人としてはこの態度は情状酌量の余地なしと断罪されかねないが、相手は結局、僕を批判するにしても、目指すは僕の精神かもしくは私生活の向上なのである。


「君は友達を必要とせず、また自身では『言葉にできないような関係』を欲しながら、かけがえのないものをそこかしこで求めている。これは矛盾だよ」

 批判のみを文字通り生きがいとするだけあって、やはり遠慮が無いな。

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