第4話 コシも無くのびきった日々
物語の主人公には共通点がある。むしろ評論家連中は己の信ずる指標でしか物事を判断できないので、その共通点が欠落し逸脱しているものを物語と認めていないのでは、と反抗精神に突き動かされる若人のような疑いも持たない訳ではない。
だが、何かを得難いものを欲求し、それに立ち向かうという脊椎を持たぬ存在は、同じ創造物とせず、奇怪な新種として好奇の目に晒される。
牛が塩分を欲して土を舐めるように、僕たちもまた、事実は現実よりも奇なりなどと気取りつつも、有史以前から二次元などを頼って人間は仮想的現実を取り込み続けた。
この永久機関は宗教も家族もかつての権威を失いつつある現代でもフル稼働で人々を一喜一憂させ、人間をして森羅万象の長と勘違いさせてきた。
「生きてたんだ」
「先輩も」
僕は昨日、一日中映画を観ていた。俗に言えばサボった訳だが、その言葉の由来の通り、僕はこの社会にサボタージュ、すなわち能率を落として、使用者ならびに支配者側に損害を与えて紛争の解決を迫った訳なのだが、悲しいかな、もたらされたのは幾粒かの涙であって、それもまた社会への悔し涙でも悲し涙でもなく、感動による涙でしかなかったのだ。つまり、教授や社会へ、何ら訴えられる材料はない。
僕の精神的教養が向上したのかと言えばそうでもなく、結局は感動ポルノで感動という欲情を掻き立てられた青年Aと片付けられても文句は言えない。
「何かオススメの映画あった?」
「モノクロ映画が一つあったんですけど、なかなか雰囲気がありました」
「サボって一日中映画観てる自分カッケーみたいな?」
「みたいな」
そう、自分を人生の主人公に!と息巻いている者ほど、自身が今、観客席に座って何の影響だか、仰々しくスタンディングオベーションしている事に気づいていない、いや、スポットライトをわざと演出の為に当てずに逸らしているのだ。
だったら中二病や思春期などとあざ笑われても、斜に構えて恋や将来に希望を見出さない方がいいのでは、と思う。我ながらありきたりで消極的考えだが、先輩に「気持ち悪い」と言われるくらいなら寝込みを刺される方がマシだ。
「講義ですか?」
「知らない」
そんなはずはないだろうが、本当に知らないかのように振る舞う先輩を見ていると再びサボタージュへの意志が湧きたってきた。願わくば大学運営に改革がもたらせんことを。
「何か可愛いもの食べようよ」
「料理って基本的に醜くないですか?」
「食材にも劣等感抱いてるの?」
今日の昼食は結局、蕎麦に決まった。強いて言えば、蕎麦は美しく思えたから。
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