第4章
ひとまず一件落着した一同は、再び会場へと戻る。
先に戻ったリンリーは、もうアナウンスを始めていた。
リンリー「ミナサマ、トラブルもあたけどお待たせしましたアル!いよいよ決勝戦アルよーーー!」
わあああと会場が一段と盛り上がる。
さっきのトラブルで一時は騒然としていたが、観客もすっかり元の調子を取り戻したようだった。
会場でスタンバイしたアルドは、腕を組みひとりつぶやく。
アルド「さて、いよいよ決勝か・・・なんでもずっと負けなしのすごい剣士が出てくるらしいな。一体どんな相手なんだろう?」
シグレ「アルド、必ず勝って、そして共に勝利の宴と行こうではないか!」
やけに元気のいい声に振り向くと、そこにはさっきまで寝込んでいたはずのシグレとシオン、アカネも一緒だった。
アルド「あれ、シグレじゃないか!もう大丈夫なのか?あんなに痛がってたのに・・・。」
シグレ「うむ、シオンが煎じてくれた解毒剤が効いたようだ。さすが我が幼馴染よ!はっはっはっ!」
シオン「・・・見知らぬものの食事など、私は食さぬ。」
ぴしりとシオンに諭されて、シグレはうつむいた。
シグレ「むぅ・・・」
アカネ「自分だったら食べてたと思います!あんなに苦しそうだったのにもう元気になるなんて、さすがシグレ殿です!」
シグレをフォローしようと思ったのかアカネが畳みかけるが、かえって逆効果だった。
シグレ「む、むぅ・・・俺はアカネと同じレベルなのか・・・?」
アルド「ははは・・・まあ元気になってよかったよ・・・。」
リンリー「さー、まずは決勝戦の挑戦者を紹介するアル!」
再びリンリーのアナウンスが響く。
リンリー「おせかいイケメン剣士アルド!卑怯なウシブタまんじゅう売りにも負けず、無事に決勝に残てよかたアル!さすがワタシの旅の仲間アルよ!」
観客「うおおおおせっかい剣士―!!よく戻ったー!!」
観客「無事でよかったわイケメン剣士さんー!!」
アルド「まだ呼んでる・・・。」
リンリー「そして、対する相手は!この大会伝説のスペシャル王者!大会始まって以来負けなしの強者アル!」
サイラス「ううむ・・・ごくり、でござるよ。果たしてそのような猛者とは・・・。」
シグレ、シオン、アカネも神妙な面持ちでアナウンスを聞いていた。
リンリー「あるときは最強の剣士!またある時は・・・!」
会場がシーンと静まりかえる。
シャアアアン!と金色の扉が現れたような音が響いたと同時に、
会場に現れたのは―――――
リンリー「バルオキー村の村長さん!アル!!!」
意外な人物が現れてアルドは心底驚いた。
アルド「な、なんだって?!じ、じっちゃん?!」
村長「ふぉふぉふぉ・・・まさかこんなところでおぬしと相まみえるとはの、アルドよ。」
村長はどうやらアルド達の戦いをどこかで見ていたらしい。
アルドに比べるとさほど驚いてはいないようだった。
アルド「どうしてじっちゃんがこんな所に?」
村長はうむ、とうなずき語り始める。
村長「あれは何十年前の事だったか・・・当時強者を求めてさすらっていたワシは、はてなき旅路の末に、ここナグシャムにたどり着いた。そこで数々の猛者達と戦い、そして!気づけばこの大会のすぺしゃるな、伝説の王者になったのじゃよ。ふぉふぉふぉ!」
以前なら村長の話を信じなかったかもしれないが、アルドには心当たりがあった。
アルド「たしかに前本気で手合わせしてもらったとき、じっちゃんは信じられないくらい強かったもんな・・・」
村長「さてアルドよ。ここまでたどり着いたおぬしの力、ワシが試してやろう!」
村長の赤い闘気が会場を包む。
村長「よいしょぉーーーーーーーーーーーっ!!」
アルド「くっ・・・相変わらずすごい気迫だ・・・!」
リンリー「バルオキー村の村長、早くもすごい気でアルドを圧倒してるアル!ワタシ達にまでその迫力が届いてるアルよ!すごいアルー!」
村長「ふぉふぉ、こんなものは序の口じゃ。さて・・・さらによいしょぉーーーーーーーっ!!!」
今度は村長が分身し始め、なんと3人にになった。
アルド「ええー?!じいちゃんが3人?!?!」
客席から見つめるサイラス、シオン、シグレ、アカネは仰天する。
サイラス「なんと!あの村長殿は分身の術まで使うでござるか?!」
アカネ「わー、自分、何が起こったか全然わかりません!」
シオン「あれは忍びの技・・・あの御仁、私たちとは次元が違いすぎる。」
シグレ「只者ではないと思ったがこれほどとは!アルド、心してかかれよ!」
村長「さあアルドよ、3人のワシとどう戦うのか?!」
村長は分身しながら杖でアルドに迫ってくる。
アルドは防戦一方で、打つ手がないままどんどん会場の隅へと追いやられてしまう。
息つく間もない程の激しい攻撃にがく、とアルドは膝を突いた。
リンリー「アルド選手、このままだと場外になて失格アル!でも村長は強すぎるネ!今回の剣術大会もまた村長が勝つのか~アル~~?!」
アルド「くっ、このまま何もできないのか・・・?!」
絶体絶命のアルド。
その時、アルドの心の中に何者かの声が響いてきた。
???(アルド・・・)
アルド(だ、誰だ?!まさかまたオーガバロン?!)
アルドの問いかけに声の主は何者か名乗らないまま、話し続ける。
???(ふっ・・・ようやく力を貸すときが来たようだ。)
アルド(どういうことだ?!)
???(今のオマエでは、じっちゃんには勝てっこない)
アルド(なっ、じっちゃんだって?!誰なんだお前は?!)
アルドのくり返しの問いにやはり主は答えようとはしなかった。
???(アルド・・・今から祈りを託す)
アルド(祈り・・・?)
???(今までオマエは、世界中の猫たちに会ってきただろう)
アルド(ま、まあたしかにそうだけど・・・)
???(・・・その猫たちの力を借りろ、今こそ)
アルド(な、なんだって?!)
???(世界の幾千の猫たち・・・このアルドに力を・・・!)
場面は変わり、ナグシャムの町中にて。
猫のアップルが昼寝をしていた。
だが突然何かに気づいたように起き上がり、そのまま駆け出す。
猫神神社のイトメ。
港町リンデのドラ。
やはり急にどこかへ走り出していく。
バルオキー。
ひなたぼっこをしていたランジェロがむく、と起き上がり顔を洗うような仕草をし始めた。
ランジェロの隣にいた女の子は驚く。
女の子「あれ、ランジェロったらどうしたのかな?」
そしてランジェロは急に何かに気づいたように、そのままどこかへと走り去っていった。
女の子「え、ランジェロ?!おーいどこ行くのー?!」
場所は戻ってナグシャム剣術大会の会場へ。
会場に地鳴りのような音が響き始めた。
村長やアルドは辺りを見回し始める。
ただ事ではない何かが迫りつつあるのが、会場中の誰しもがわかった。
村長「むっ?!これは一体・・・?!」
リンリー「これはどうしたことでしょうかアル!アルドの周りに猫が次々に集まり始めましたアルー!!!」
どこからかアルドの足元にヴァルヲがにゃあん、とまとわりつく。
他にもアルドの周囲にはランジェロ、イトメ、アップル、ドラといった猫が集まっていた。
サイラス達もこれには驚くばかり。
サイラス「こ、これは一体どうしたでござるか?!」
シオン「・・・・・・猫だ。集会か?」
アカネ「わー、自分こんなに大きな猫の集会初めて見ました!」
シグレ「ほお、これは見事な数の猫だ!さしずめ猫吹雪とでもいったところか。猫じゃらしでも持ってくるべきだったな!」
会場はいつの間にか100匹以上の猫で埋め尽くされていた。
中にはイージアのボンボリや、アトランティカのニャカメ、ガタロのタバショ達までもが集まっていた。
アルド(・・・なんだか、別大陸とか、過去や未来のネコ達もいる気がするんだけど・・・)
村長「なんじゃ、猫たちもワシらの決戦を見に来たんじゃろうか?」
村長も意外な展開に驚いてはいたが、何が起こるかまでは予測できないようだった。
ヴァルヲの目がそこできらりと光った。
(・・・みんな、行くぞ)
ヴァルヲがにゃあん、と鳴いたのを合図に、大量にいる猫達が一斉ににゃあにゃあと鳴き始めた。
いつぞやの猫の冒険の最中、最果ての島にてヴァルヲ達が組んだ猫のバンド。
それがまさにこのナグシャム剣術大会にて、再び日の目を見ようとしていた。
ヴァルヲの言う「猫の祈り」とは、猫達が歌う応援歌のことだった。
だがあの日のバンドは数匹。
今回の100匹以上集まった「応援歌」は、人間にとってただただ凄まじい轟音でしかなく、会場の観客達が次々倒れ始めた。
観客「うおおお・・・なんだ、この、鳴き声は・・・」
観客「イ、イケメンがいても…こればっかりは…ううっ…!!」
観客「ぐ・・・聞くに耐えない・・・リンリーちゃんすまない、俺は逃げる!逃げるぞ!!」
男の子「くっ、せっかく兄ちゃんとおじいちゃんの戦いが見たかったのに・・・これじゃ、とてもここに・・・いられない・・・!」
観客達は次々に逃げ出し始めた。
それはまるで、大きな合戦でも起きたような混乱ぶりだった。
猫の声に大地までもが揺れ始める。
リンリー「こ、これはどうした事アルかー?!?!猫のすごい声で会場が今にも壊滅しそうネ!みんな、落ち着くアル-!!」
観戦していたサイラス、シグレ、シオンやアカネもその凄まじい鳴き声で立っていることができなくなっていた。
サイラス「ぬおお・・・拙者、これしきの音耐えられんとは、まだまだ修行不足・・・!」
シグレ「ぐう・・・いくら猫好きの俺でも、これはさすがに耐えしのげんぞ・・・!」
アカネ「うわー、自分の耳今おかしくなってます!どうしましょうか兄上?!」
シオン「くっ・・・・いったん、逃げる…ぞ!」
さすがのサイラス達もたまらず会場を後にする。
観客は会場から皆いなくなっていた。
残ったのは猫達とアルド、村長、リンリーのみ。
だがついに村長までも、がく、とひざをつく。
アルド「じっちゃん?!」
村長は膝をついたままブルブルと震え始めた。
村長「こ、これは・・・これはああああ・・・こ、腰に・・・ワシの腰に、ひび、く・・・!!」
ばたん、と村長は倒れてそのまま動かなくなった。
アルド「じっちゃーーーーーん!!!!!!」
目の前の惨事に慌てて村長に駆け寄ろうとするが、アルドもまたその応援歌のダメージは絶大であった。
アルド「お、俺ももう限界、だ・・・。」
アルドもついに倒れる。
後に残ったのは、何かをやりとげた気持ちでいっぱいの、誇らしげな猫達だけだった。
リンリー「ああーと、突如乱入した猫たちの鳴き声がひどくて、決勝で相まみえていた二人が同時に倒れたアルー!!!」
二人はそのままぴくりとも動かなくなった。
倒れたアルドと村長は、そのまま猫にずるずると引っ張られ会場を後にした。
リンリー「運営から何か来たアル・・・えーとなになに・・・“この戦闘はコンティニューできません。強制的に以下の地に戻ります・・・バルオキー”?なんだかどこかで見たことアル気がする文章ネ。」
リンリー「でも今はそんな事より・・・このままだと剣術大会の優勝者がいなくなてしまうアル。これは困たヨ。うーん・・・・・・」
リンリーはしばらく何かを考え、そしてひらめいた。
リンリー「わかた、この場合の優勝は・・・!」
もう誰もいない会場でリンリーは高らかに宣言した。
リンリー「ヴァルヲアル~~!!!バルオキー村のさすらいの黒猫が、剣術大会の新たな歴史を刻んだアル!会場のミナサマ盛大な拍手を~~!!」
ヴァルヲの目がきらりと光る。
リンリーの言葉を彼なりに理解したようだった。
本来なら力を貸したはずのご主人達が倒れていったことをまったく意に介さず、ヴァルヲはにゃあん、と得意げに鳴いた。
それを合図に、集まった猫達も同じように鳴いてみせた。
もう銅鑼の音も聞こえなくなった会場だが、代わりに猫の鳴き声が大会の終わりを知らせる合図となった。
ヴァルヲ(アルド、またいつでも頼れ・・・)
まだテレパシーが続いているのかいないのか、ヴァルヲはそうつぶやいた。
一仕事終えた猫達は順々に家へと戻っていく。
猫達にとって、時空を超えて遠路はるばるナグシャムにやってきた事も、たいした問題ではないようだった。
彼らにとってはそれもまた日常の一つに過ぎず、皆あくまで世界のどこかにいるごく普通の猫だった。
ヴァルヲを除く猫全員が帰り、やがて会場にはヴァルヲ一匹だけになる。
そして、猫達を呼び寄せたヴァルヲもまた、静かに家路へつこうとする。
そこに、誰かが現れた。
さきほどの大合唱に耐えきれず脱出したはずのシオンだった。
シオンはしゃがみこみ、ヴァルヲに何かを差し出す。
シオン「・・・食べるか?」
それはシオンのとっておきの煮干しだった。
だがお決まりの通り、ヴァルヲはつん、とそっぽを向いて走り去ってしまった。
後に残ったのはシオンのみ。
シオン「・・・やはり、駄目か。」
こうしてナグシャム剣術大会は、その幕を下ろすのだった。
終わり
嵐と猫を呼ぶ!ナグシャム剣術大会!! @hisagiame
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