第6話

 ロナルドの仕置きから一変して、セレンティアは王宮のいたるところに出没していた。


 ラインハルトの執務室?の空中をふわふわと漂っているセレンティアに声を掛けると


 「ねえ、セレンティア。前から聞きたかったんだけど、君、兄上に全く興味がなかったよね。どうしてそんなに報復したいんだい?」


 ラインハルトは不思議に思っていた。彼女は特別兄である第二王子ユリウスに全く興味がなさそうなのに、政略的な婚約とはいえ、何故、今更報復を自分の手でしたがるのか分からなかった。


 《それはね、な・い・し・ょなの。私には壮大な計画があるのよ》


 意味不明な言葉を浮かべて、次のターゲットをどう仕留めるか思案している様子。


 ラインハルトは、人の感情のオーラも見える為、セレンティアが兄を慕っていない事も解っている。


 「まあ、いいけど。そもそも何故、兄上と婚約したんだい?」


 その問いを聞いた途端、セレンティアの頬はプクリと膨れ上がり、


 《騙されたのよ。父に…》


 物凄く、この世の終わりの様な表情を浮かべながら、次に彼女の発する言葉を待っていると、


 《美味しいお菓子がたくさんあると言うので、両親に連れられて王妃様のお茶会に出席したのよ。そ…そしたら、完全に無視して、お構いなく状態の私をあの顔だけ×××野郎が勝手に見初めて、私の知らない所で王命で婚約させられたのよ。それを聞いて私、エントランスホールで盛大に寝転がって、両手両足をバタバタさせながら抵抗したのに、数日後には王子妃教育が始まったの。なのにあの野郎、私が猫被っているのをいいことに毎度毎度浮気した挙句、婚約を解消するといったら、又戻ってくるのよ。何度『二度と戻ってくんなーこの顔だけ×××野郎』って心の中で叫んだか分からない程だったんだから》


 傍で、聞いていたアレンの顔色が悪くなった。きっと世の貴族令嬢のイメージが彼の中で崩れ落ちたんだろう。


 「アレン、いいかい。世の令嬢はもっとおしとやかで、淑女の教育を受けているよ。間違ってもエントランスホールで寝転がって我が儘いう女性は僕も知らないし、こんな下品な言葉は使わないから、安心して」


 霊感体質のアレンにも姿は見えているし、声も聞こえている。


 彼の中のイメージ破壊を成し遂げたセレンティアが


 《ひどーい。私がおかしな令嬢みたいに言わないでください。殿下》


 「いや、おかしな令嬢ではなくて珍獣令嬢だよ君」


 《もっと、酷い》


 ますますふくれっ面を見せながら、空中をぐるぐる回りながら、アレンの傍で留まった。


 《ねえ、アレン君。そのお菓子おいしそうだね。食べたいから身体を貸して欲しいんだけど。ダメ?》


 「えっ、でもこれ甘いんじゃあ……」


 甘いものが苦手なアレンにとってそれは拷問なんだが。知っててやってるのだろうか?


 アレンははっきり言ってセレンティアの容姿はドストライクで、王宮でこっそり見ていたのを知っている。


 でも、こうやって知り合って普通に話す様になって、もっと好きになったのに違いない。


 何せ彼は獣人だ。この国では嫌われている。なのに、彼女は気にせず普通に話している。これで好意を持つなという方がおかしいだろう。


 結局、彼女に負けて体を貸したアレンは、その後、口直しに辛い物を食べて腹を壊した。


 セレンティア、まさか君、嗜虐趣味はないだろうな。僕の大切な従僕を揶揄うのは程ほどにして欲しいものだ。

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死んでお詫び致します 春野オカリナ @tubakihime

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