いちゃらぶ! 白銀の狼!

骨折さん

冬ごもり

 人狼の里に雪が降り積もる。

 それをレティリエとグレイルは丘の上から見下ろしていた。


「ふぅ、よく降るな」

「そうね。早く帰って暖まりましょ」


 グレイルは里から仕入れた野菜を、レティリエは焼きたてのパンを。それぞれ片手に持って雪道を歩く。

 片手は遊ばせておく。手を繋ぐためだ。

 

 ―――ギュッ


「うわ、レティの手、冷たいぞ」

「ふふ、ならグレイルが暖めてね」


 いつものように手を繋いで歩く。

 今日の仕事の話や今晩何を作るかなど二人の話は尽きない。

 

 二人は里から少し離れた場所に居を構えている。

 レティリエは孤児院での仕事を、そしてグレイルは狩りを終える。

 互いの仕事を終え、家路につくのであった。


 その道中グレイルがレティリエに話しかけようとしていた。

 チラチラとレティリエを見ながら、そして口ごもるように。


「どうしたの?」


 しかし先に口を開いたのはレティリエだった。

 夫婦になって一年、グレイルの細かい癖すらもレティリエは理解している。

 これは何か言いたくても言えない時のサインだった。


「あ、あのさ……。ローウェンとレベッカなんだが、その……。こ、子供が出来たんだってさ」

「本当!? すごい! もう、何で早く言ってくれなかったの?」


 レティリエは夫の悪い癖を嗜める。

 恋人だった時はこういう悪い癖も素敵にみえのだが。

 しかしそれすらも可愛く見えてしまうのが不思議だ。これが夫婦になるということなのだろう。

 レティリエは夫がさらに言葉を続けようとしているのが分かった。

 何となく理解はしている。冬、それは子作りの季節なのだ。

 人狼族は獣の特性を継いでいるのでこの時期になると性欲が高まってしまう。

 二人も月の障りがある時以外はお互いを求める夜が続いた……のだが、今の経済状況を考え、子作りを前提とした行為は避けていた。

 

 しかし子供好きなレティリエだ。

 愛するグレイルとの子はどんなに可愛いかを常に想ってきた。

 なので頭では理解してはいたが、少し寂しい想いをも感じていた。


 夫の言葉にレティリエは喜ぶ。

 しかし何故今になって心変わりをしたのだろう?


「あのさ、狩りの他に村長から仕事を頼まれてさ。村長が留守にしてる時は代理をしてくれって……」


 それはつまり次期村長候補に選ばれたというのとを意味する。

 事実上の出世だ。そして一時金として冬を快適に過ごすことが出来るだけの金貨と食糧ももらったと。

 二週間の休暇も与えられた。


「すごいわグレイル!」

「あ、あぁ。でもまだ村長になれる訳じゃないけど先の目処はついた。だからそろそろいいかなって思ってさ。それと孤児院にも話を付けておいたよ」


「え? いつの間に……。でもマザーは何も言ってなかったわ」


 とレティリエは言ったが思い当たる節があった。

 別れ際、とても良い笑顔で二人を見送ってくれたのだ。

 マザーは二人がこれから二週間の甘い冬ごもりをすることを知っていたのだ。

 そう思うとレティリエは恥ずかしくなる。

 思わず道端の雪を掴みグレイルの顔に投げてしまった。


「もう! 恥ずかしいじゃない!」

「うわっぷ! ごめんって!」


 そう言いながらもレティリエは喜んでいた。

 

 二人はじゃれあいながら、ようやく丘の上にある自宅に着く。

 そしていつものように二人で夕食を作る。

 今日の食事は一段と美味しかった。

 

 次だ。暖炉の前でお互いの体を拭き合う。

 マダムに捕まっていた時は風呂に入ったこともあるが、今住んでいる小屋にはそんな贅沢なものはない。

 だがこうして好きな人に体を綺麗にしてもらう行為は風呂以上に心地よい。


「もう、胸ばかり拭かないで」

「す、すまん……」


 とグレイルは顔を赤くする。

 次はレティリエの番だ。グレイルの背を拭き始める。


 大きな背中……。

 グレイルは特別大きい人狼ではない。

 しかしそれでもしっかりと筋肉がついており、たくましく、そして美しい。

 レティリエはグレイルの背中が大好きだった。


 ―――チュッ


 思わず背中にキスをしてしまう。

 よくやるイタズラの一つだ。妻の特権でもある。


「あはは。くすぐったいよ」

「ふふ、動かないで」


 レティリエは裸のまま、グレイルを背中から抱きしめる。

 そしてそっとグレイル自身に手を添わせた。

 大きくなってる。レティリエは夫の準備が整っていることを悟る。

 レティリエも下腹が熱くなる。

 早く夫を迎えいれてあげたい。

 いや、彼女自身が夫を求めていた。


 思わずグレイル自身を握る手を動かしてしまう。

 その都度聞こえるグレイルの荒い息遣い。


「レティ……。ベッドに行かないか?」

「…………」


 黙って頷く。

 グレイルはレティリエをベッドに寝かせ情熱的な口付けを交わす。

 人狼族は長い牙がある故、口付けをする時に相手を傷付けることがある。

 よくレベッカはレティリエに夫のキスが下手だとぼやいていたのを聞かされていた。


 しかしグレイルは一度もレティリエを傷つけたことなどない。 

 優しく、レティリエの口の中を溶かすような口付け。

 そして香るグレイルの甘い吐息。

 この匂いを嗅ぎながらキスをするだけでレティリエは一度目の果てを迎えてしまった。


「…………!?」


 口付けをしたまま、レティリエは体を弓なりに硬直させる。

 グレイルはレティリエを離さないとばかりに強く抱きしめた。


 お互いもう我慢の限界だ。


「グレイル、来て……」

「レティ、愛してる……」


 そして二人は一つになる。

 いつもは子を成さないために遠慮しがちであった。

 しかし今回はたがが外れたようにお互いを求めあう。

 そして突如胎内で感じるグレイルの熱。


 熱い。満たされている。

 

 レティリエは多幸感に包まれた。

 グレイルは果てを迎えたにも関わらず、そのままレティリエを求め続けた。


 一回、二回。

 三回、四回。


 次からはもう数えなかった。

 その代わり朝日が窓から差し込む頃、ようやく限界がくる。

 二人は繋がったまま眠りについた。


 目が覚めるとグレイルの寝顔が見える。


「レティ……」


 寝言で妻の名を囁く。

 ふふ、可愛い人。

 レティリエはそう思って、グレイルの鼻の頭にキスをする。

 

 二人の甘い冬ごもりは始まったばかりだ。



◇◆◇



 ―――パタン


 

 うぅ、書いてしまいました。

 レティとグレイルが愛し合う場面を。

 

 この物語は【白銀の狼】といって、コアニ王国で一番読まれている小説です。

 メイド仲間に借りて読んだことがあるのですが、残念ながらマルカでは最終巻が手に入らずヤキモキしていました。

 だから私は自分で続きを書くことにしました。

 で、でもとてもエッチな内容になってしまいました。

 もしも誰かに見られたら……。


 ―――ガチャッ


「おーい、リリー? いるのか?」


 あばばばっ!? ガクト様が部屋に入ってきました!

 私は咄嗟に本をしまいます!


「ど、どうしたんですか!?」

「何焦ってんの……。お茶のストックが無くなっちゃってさ。どこにあるか知らない?」


「は、はい。今行きますね」


 私は立ち上がり、部屋を出ようとしましたが……。


 ―――パサッ

 

 ほ、本を落としてしまいました。


「あれ? これは?」

「ちょまっ!? 駄目ー!」


 ガクト様から本を奪いとります!

 これは死んでも見せられません!


「なんだよー。見せろよー」

「いやー!」


 その後もガクト様は私の本を奪おうとしてきますが、必死で応戦しました。

 

 何とかガクト様の背後に周り、先日教えて頂いたオクトパスホールドなる技でガクト様を撃退します。


「リ、リリさん、ふくらはぎが頸動脈に入ってるから……」

「も、もう見ないって約束してくれますか?」


「分かった……。約束する……」


 ふぅ、ようやく危機は去ったようですね。

 ガクト様は部屋を出ていきました。

 そして私は書きあがった本を読み直します。


 や、やっぱりすごくエッチです。

 でも……。

 見てもらいたい。誰かに読んで欲しい。

 そんな欲求も産まれてしまいました。


 ふふ、それはまた今度ですね。

 私は本を机にしまいます。


 いつかガクト様と……。

 レティとグレイルのように愛しあえるなら、どんなに素晴らしいことでしょう。

 いえ、そうなるように努力しないといけませんね。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いちゃらぶ! 白銀の狼! 骨折さん @ashiitai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ