第二話 月のような瞳

やはり、早く来すぎたか、、、校内には人影はほとんどなく、シーンとした時が流れていた。

俺にとっちゃ好都合だが、なんだか寂しい感じもするなぁ。とりあえず教科書取りに行くか...

ここ、『世馬せじま大学』では生徒一人一人にロッカーがあり、そこに教科書、参考書、ノートなど他にもなければ様々な物を収納できるのである。生徒にも評判であるが、学校から貸し出している物のため、海外のようにロッカーの中にステッカーなどを貼るのは禁止されている。

202...202......あったあった。さてと、今日の授業の教科書取っておかないと。

ポケットから”学年バッチ”を取り出し、自分のロッカーの取っ手に近づける。

ピッと音が鳴り、ロッカーを開けた瞬間。

ギィッ........バサバサバサッ!!!


「お、、、おぅ。」


いきなりの事に、呆気を取られてしまった。

一昨日、確か教科書持って帰るのめんどくさくなって、ロッカーぎゅうぎゅうに詰め込んで帰ったけか?

恨むぞ、一昨日の俺、、、、

その場にしゃがみ込み、俺は床に散乱した教科書やノートをかき寄せ始めた。途端、前からじんわりと足音が聞こえてくる。一体誰だ?というか、さっきの見られてた!?うっわ滅茶苦茶恥ずかしいんだけど、、、どんな表情で顔上げればいいんだよっ!!

足音は俺の目の前で止まり、そしてしゃがんだ。


「えっ?」


顔を上げると、そこには見知らぬ女性が俺の教科書を寄せ集め、トントンッと床に音を鳴らし、こちらに差し伸べていた。

手も足も白く綺麗で、そして月のように明るいその瞳に、俺は見惚れてしまった。


「あ、あの、、、」


彼女は少し困ったような顔でこちらを見つめている。

さっきまで見惚れていた為、俺の脳は硬直状態だったが、とっさに声は出ていた。

「んあっ!はい!」


彼女は集めた教科書をグイっと押し寄せてきた。

「これ、、、」

「ああっ、ごめん、、、ありがとう、、、あれっ?」

「どうかしましたか?」


俺は彼女を見て疑問に思った。なぜなら、彼女の学年バッチには”2”と書いてあるからだ。

世馬では、学年によってロッカー場所が分かれており、一年から二年が一階、三年から四年までが二階、それ以上は全て三階となっていて、学年バッチによるロック、ロック解除によって持ち物整理ができる。いわば鍵のようなものだ。

そもそもバッチ自体がつけててダサいから、あんまつけてる人少ないけど、、、

話を戻すと、俺は三年でこの子は二年、つまりこの子のロッカーがあるのは一階であって、ここには用もないはずなのだ。


「なんでここにいるの?」

「はい?なんでってここはロッカールームですよ?」

威圧的に言ってくる彼女に少しビビりながらも俺は勇気を振り絞って言った。

「いや、ここ二階だし、二年は一階だし、、、」

「えっ?」


彼女はしばらくきょっとんとした顔をし、階段のほうを向いた、そして俺の方に向き直し、顔を真っ赤にした。


「...違えて...ってきちゃて......ました.......」

「え?」

「間違えて登ってきちゃってたんですぅ!!」

「そんな間違いある!?」


一旦、彼女を落ち着かせて、俺はロッカーに要らない教科書を詰め込んだ。

しばらくして彼女が立ち上がり、俺の方を向いて深く頭を下げた。


「さっきはすいませんでしたっ!」

こんな子に頭を下げさせてるところ見られたら大変だ、すぐさまこっちも返答する。

「えぇ!?だっ大丈夫だからっ頭上げて!!」


顔を上げた彼女は、申し訳なさそうな顔をしていた。

「だって、、、その、、間違えちゃってたみたいですし、、、」

「いやぁ、間違いなんて誰にでもあるよ。」

(こんな間違いはほとんど無いと思うけど...)

「とにかくっすいませんでした!」

彼女はもう一度、深く頭を下げた。

「だからぁっ!頭下げないで!!」

焦りと驚きによる叫びが校内全体に響き渡った。

さっきからうるさく聞こえていた蝉の声が、なんだか小さくなったような気がした。

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WEEK! 早坂楼 @Lor9031

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