質問

豊田議長

本間英二委員


本間委員

はい。議長、ありがとうございます。私からはですね、お時間にも限りがありますとのことで、要点を絞って清掃事業運営費19億2千万余に関して質問させていただきます。ウイルスの感染リスクに晒されながらも、こうして日々市民生活を支え続けていただいている清掃業務従事者、そして市の職員には、心から感謝申し上げたいと思っております。一方でですね、一般的に清掃事業運営費と言いますと、これは私のような市井の人間の感覚ですと、駅前の掃除だとか、あるいはゴミ処理とかですね、そうしたことに使われる名目の費用であると考えております。しかし本年度補正予算ではですね、これ、2億円の増額補正。それも中身を細かく追っていきますと、コンテンツ開発、ゲーマーの人材育成やゲーム開発みたいなものにまで充てるとされておるわけです。コンテンツ開発が悪いと言ってるわけではないですよ、予算として清掃事業運営費につけるのが正しいのかという点でですね、大いに疑問があるわけです。市は、この状況をどのようにお考えでしょう。この2億円、詳細お聞かせ願えますか。


清掃環境局課長

まずはじめにですが、本間委員のお声がけ、職員一同大変有り難く頂戴いたします。これからも一丸となって市内の美化活動に励んでまいりたいと思います。その上でですね、本年度補正予算での清掃事業運営費の2億円増額につきましてですが、正確に申し上げますと、件のゲーマー育成またそれらの雇用につきましては9807万円余、ゲーム開発については2812万円余の増額補正を見込んでおります。こちら全て、能座通り繁華街周辺の鳥害対策にかかる予算でございます。所謂広報活動ではございません。「街を綺麗にしましょう」だとか「ポイ捨てをやめよう」といった標語作成ですとか、啓蒙のためのマスコットキャラデザインといったご想像のものではなく、それ自体が実際に行われる清掃作業の一環でありますもので、こちら広報費等からは外し清掃事業運営費に計上させていただきました。


本間委員

ありがとうございます。計上誤りではなく予定通り計上された予算である旨、よく分かりました。ただ、昨今の市財政を鑑みるにですね、清掃環境局も苦しい立場にあることは重々承知しておりますが、ゲーマーの育成やらゲーム開発がそのまま鳥害対策になるというのは、これ、肌感覚として理解しづらく。市民の皆様の理解も得られ難いのではないかと思いますが。能座通り繁華街周辺と言いますと、これはカラスの被害、ということで良かったでしょうか。飲食店に集っているカラスですか?


清掃環境局課長

左様でございます。今更説明の必要もないかとは思いますが、能座通り繁華街周辺は日本でも有数の歓楽街でございまして。以前からゴミを漁るカラスの被害が非常に多い場所でもありまして、毎年清掃事業運営費に鳥害対策費用を500万円程見込んでおりました。ただ、その被害が、今年に入ってから既に1914件。現時点で前年比の742%増と、異常増加しておるわけでございます。ハト、スズメ等もおりますが、やはり酷いのはカラスで。今年に関しましては例年とは明確に違い、これはもう餌場になるような物が近くに一切無くても被害を受けるようになった。飲食店の屋根を突くであったり、暖簾を引き裂くであったり。例年同様の防鳥ネットの張り替えやノイズ発生機では如何ともしがたいということになり、増額補正を致した次第です。


本間委員

ありがとうございます。カラス被害が酷いとは伺っておりましたが、まさかそこまでとは思わなかった。被害が増えるということについては市では予測が立っていたんですかね? それともこれは最近よくある野生動物の異常発生でしょうか?


清掃環境局課長

これについては専門機関、専門機関と言いますのは国の鳥類保護タスクチームの調査結果ということになりますが、被害増加の理由はハッキリしておりまして、これはナノマシンを摂取したカラスによる被害でございます。


本間委員

カラスがナノマシンをですか?


清掃環境局課長

左様でございます。


本間委員

月並みな質問になってしまったら申し訳ないのですが、それは、洗脳されたカラスが歓楽街を襲っているとか、もしかしてそういうお話をされている?


清掃環境局課長

いえ、そういった夢のある話ではなく。全てがそうでないという話でもございませんが、おそらくは大半が意図せずカラスにナノマシンを与えてしまったものかと。


本間委員

それというのは?


清掃環境局課長

大変申し上げにくいのですが、吐瀉物です。


本間委員

なるほど。


清掃環境局課長

何分あの辺り一帯は日本でも有数の歓楽街でございますので、朝になりますと、駅前に、どうしてもですね。夜まで飲み歩いた泥酔者の吐瀉物が、散見されるわけでございまして。吐瀉物と言いますのは本人たちも吐きたくて吐いてるものではありませんから、ルールでもってここで嘔吐してはいけませんとも決められないと言いますか、決めたところで吐くときは吐くもので、どうにもならない。そうした吐瀉物からですね、人間の摂取した医療用ナノマシンや通信用マイクロデバイスなんか、これはもう人間の体の構造上極々少量になりますが、それを、カラスが啄むわけです。人間の摂取しているナノマシンはですね、唾液程度ですとごく少量で野生生物が摂取しても影響がない、空気に触れるとすぐに効力がなくなるものですが、吐瀉されたばかりの吐瀉物ですと、ある程度は生きたままカラスの体内に移ってしまう。出来立ての吐瀉物がある都市部でしか起こり得ない点に着目しますと、これはほぼ繁華街のみで発生する鳥害と言えまして。実際国内他地域の繁華街でも同様の問題が起きており、同様の対策をとっております。また、清掃局としましても、現在そうした他地域の同事業部署とのノウハウや人材交流の連携を模索している段階でございます。


本間委員

ありがとうございます。もう十二分です。増額補正が必要な理由は非常によく分かりました。非常に。つまるところこの清掃事業というのは主にですね、カラスに人間用のナノマシンが啄ばまれる前に吐瀉物を清掃すると、そう考えて良いわけですか。


清掃環境局課長

いえ。もちろん吐瀉物の清掃事業に係る人件費も増額補正の中に織り込んでおりますが、それは内920万円でございまして、増額補正の主要因ではありません。お話戻ってしまい大変恐縮ですが、増額の主要因はやはりゲーム関連でございます。


本間委員

どうもお話の本筋が見えてこないのですが、一部カラスが人間の吐瀉物からナノマシンを接種して暴走していることを鑑みるに、ナノマシンを通して拡張現実を視認したカラスの一部が、ゲームアプリの影響で暴走していると、つまりこういうお話ですか?


清掃環境局課長

端的に言えば、仰る通りです。これを暴走と呼びますがどうかは専門ではないため御回答致しかねますが、カラスがナノマシンを通してゲームアプリに影響されて件の行動をとっていることは、概ね仰る通りだと思われます。この被害、本当に能座通り繁華街一帯でしか発生していない極めて限定的なものでございまして。それも駅前通り、清川通り、明聖通り、A202号に囲まれた範囲。ごくごく狭い、と言いますか、行政として「能座通り繁華街一帯」と指定している場所でのみカラスがそのような行動を起こしているわけです。これはナノマシンによってカラスが無軌道に動いているというよりは、なにか規則的な動きを促されていると思われる。ナノマシンを通して配信しているアプリは多数ありますが、この地域のみを指定している位置情報ゲームも無いわけではなく。例えばですが、昨年市の商工会議所が企画してキャンペーンを展開した『ノーザストリート・シティウォーク』ですとか。


本間委員

ノーザストリート・シティウォーク? 


清掃環境局課長

はい。三年前に商工会議所の方からリリースされたゲームですが。


本間委員

ああ、申し訳ないですが言い方が悪くよく聞き取れなかっただけです。もちろん知っています。ノーザストリート・シティウォークですね。たしか商工会議所の皆さんで飲食店の利用促進を目的として作られたゲームでしたよね? お店に足繁く通って、赤く、酔マークをつけるのが目的の。


清掃環境局課長

失礼ですが委員、あれは酔マークをつけるのが目的ではなく、あくまで位置情報を元にした陣地取りゲームでございまして。各店舗に足繁く通うことで自グループの色に染めますと、それが能座通り繁華街だけはほろ酔い目的の場合には赤色に変えられると、そうしたキャンペーンでした。訪れる客層によって各店舗の色が変わってきますので、そうした色の違いから街の特色を見る、といった形で楽しむゲームアプリでございます。そこにオセロ、ええと、オセロは商品名でございますので、碁の要素を加え、繁華街中心部だけでなく外側のお店も回ると、ぐるっと囲った中心部の飲食店の色にも影響を与えると言った仕組みになっております。もちろん、委員の立場からしますとあれは赤マークをつけるゲームなのかと思われますが、そこはすみません、私は担当者ではありませんが、1プレイヤーとして訂正申し上げたく思います。


本間委員

いや、失礼しました。こちらこそ不勉強な質問で申し訳なかった、とは思いますが。今の一連のご回答には少し引っ掛かるところがあったというか、どこか他人事のように聞こえたのですが、違いましたか。あれは商工会議所主導の企画とはいえ、市の地域振興課も監修に入っていましたよね? それがまるで人用のナノマシンがカラスにも機能している、それどころか市も公認しているゲームをカラスが遊び、それにより市民生活に被害が及んでいるとの答弁に聞こえたのですが、市としてはその認識で良かったのですか。もしもそうだとするなら責任問題にもなると思うのですが。ゲーム会社、ナノマシン製造会社、そして当然市にも一定の責任はあるでしょう。


清掃環境局課長

ノーザストリート・シティウォークの影響については、こちらも既に専門機関、専門機関と言いますのは国の鳥類保護タスクチームの調査結果ということになりますが、現時点での因果関係の証明は難しい、とのご回答でございました。


本間委員

証拠不十分だから責任がないというお考えですか。


清掃環境局課長

いえ、決してそのように申し上げているわけではなく。先の質問にも関わって参りますが、何分相手がカラスでございますから、具体的に人間用ナノマシンのどの機能がどの程度カラスに影響を与えているのか、どのアプリをどう解釈してどの行動を促しているのか、これはもうカラスになってみないと分からないと、そのような御回答でした。場合によってはチェスのアプリかもしれないし、場合によってはモノポリーかもしれない。ただカラスの行動を見ていく中で、おそらくですが、囲碁に近い行動原則で動いているのではないか、という程度です。ゲーム会社とも既に話をしておりまして、アップデートでカラスにはゲームを遊べなくなるよう対応出来ないかとも調整中なのですが、カラスの体内に入ったナノマシンはオンラインから外れておりますし、現状が現状なのでアップデートは不可能とのことでした。ナノマシン製造会社とも連携を取っておりますが、やはりこちらも野生動物への流入経路が非常に特殊で、基本的には泥酔して吐瀉物を撒き散らした者に責任ががあるとのスタンスでございます。ナノマシンの機能を停止させる薬品もあるにはあるとのことでしたが、動物保護の観点から都市部での理由は避けるべきであるとお声がけいただきまして。結論を申し上げますと、流出したナノマシンの制御は現実的ではないと考えております。


本間委員

私はナノマシンの回収の現実性ではなく各所の責任について伺っているのですが。


清掃環境局課長

大変失礼しました。先ほども申し上げました通り、現時点では何分不明確なもので、責任の大小を確定的に申し上げることはできません。ただし、僅かばかりでもこれが市民生活に影響している可能性があるのであればいけない、そのための先行的予防措置として出来ることをすべきであるという判断としてのこの度の増額補正であると、委員の皆様には何卒ご理解いただければと思います。一般的にナノマシンの起動期間は一年程度で、吐瀉物からの摂取という流入経路を鑑みても本年のみの臨時対応になると思われます。そうした経緯を考えますと、設備投資的な恒久的な対応よりかは、人で、人の力で応急処置的に対応する方が経済的であるとの考えによります。


本間委員

では伺いますが、このゲーマー育成がどれほどその先行的予防措置として効果をあげているのか、具体例を挙げられますか。


清掃環境局課長

こちらは主に、ノーザストリート・シティウォークがカラスに与える影響調査及びその予防措置でございます。市のシルバー人材センターと連携しまして、この三ヶ月で30名の臨時清掃員を能座通り繁華街に配置し、毎日4時間、交代制で皆さんにノーザストリート・シティウォークをプレイしていただいております。


本間委員

市の予算でゲームを遊ばせとるんですか!?


清掃環境局課長

いえ、遊ばせているわけではありません。あくまで就業、労務としてのプレイです。こちらのマニュアルに定めた行為のみを行い、勤務規定に従っていただく。それがゲームの中でも適用される、という状態です。


本間委員

民間のゲームを市の予算で遊ばせているのもいかいがなものかと思いますがね。


清掃環境局課長

委員のご指摘ごもっともでございます。ただし、あくまで本件業務はコラボキャンペーンの範囲内、市の監修業務の一部でございまして。これは開発元から与えられた開発用アカウントでプレイをしておりますし、何分特殊な事情であることご理解いただければと思います。他の方法を検討したうえで、最もこれが穏当であった、と。


本間委員

まぁ、環境局のお考えは分かりましたが。具体的には何をさせているんですか。


清掃環境局課長

ありがとうございます。はい、これはゲームプレイの面からカラスを制圧してしまおう、というもので。ノーザストリート・シティウォークの操作画面上からですと、どうやらカラスはレッドムーンと呼ばれるチームを勝たせるために躍起になっているように見える。カラスは光り物が好きだと申しますが、実際レッドムーンはお店に訪れるとナノマシンを通して拡張現実上でギラギラと花火が上がる効果演出がございますので、そうした部分がカラスのユーザーに好評なのではないか……という分析によるものです。ですので、レッドムーンの領域が揺らいだのを確認しますと、市の待機所……これは観光案内所内に設けた部屋ですが、そこからスタッフを現場に向かわせまして、カラスより先にレッドムーンを勝たせる、というのが主な業務になります。今年度9月より対策を実施しておりまして、上半期で1205件の被害報告のところ、下半期では709件の被害報告となっております。予防措置のため具体的に効果を上げている状況を説明せよ、というのは何分困難ではあるのですが、清掃環境局としては数字の推移に予防措置の効果があらわれているものと考えており。


本間委員

意地の悪い質問になってしまっては申し訳ないんですがね。上半期で1205件の被害報告で、下半期で709件ですか。冬場になってカラスも活動が停滞しているとか、そういう外的要因によっていくらでも説明がついてしまう微々たる数字にしか思えないのですが、本当にその、予防措置とは言え、具体的にここで動いたからここがこうなった、というような説明は難しいのですか?


清掃環境局課長

はい。委員には大変ご迷惑をおかけしますが、少し、難しいのではないかと思われます。もちろん現場担当者からは日々のプレイ内容につき作業報告を受けておりまして、清掃環境局でも監督のため目を通してはおります。ただ、やはりゲームというものには流れがございまして、例えば囲碁の一手ですとか、遊ぶ者から見ると「あの一手のおかげで後の盤面がこうなった」といった理解は出来るのですが、具体的にそれがどうして後の盤面を左右したかについては、遊んでいない方には説明が難しいと言いますか、ピンとこないだろうと。どうしてもとおっしゃるのであれば、ゲームプレイの範疇の説明になってしまうのですが、どのように動いてどのようにしたとか、端的に報告書から事例を説明することは出来るのですが……。


本間委員

清掃環境局課長。こちらこそ言葉尻をつつくような形になってしまって申し訳ないですがね、今のはね、非常に失礼な発言ですよ。先ほども申し上げた通り、私もノーザストリート・シティウォーク、プレイしております。商工会議所の人からご紹介いただいてね、非常に楽しく遊ばせてもらっている。他の先生方がどうかは知りませんよ。知りませんがね。今の清掃環境局課長の言い方ですとね、さも私がゲームを遊んでいないような、まるでゲームを遊んでいない私には説明したところで分かりっこないだろうと、そういう言い方に聞こえる。もちろん私は遊んでいますよ。でも市民の皆様の中にはノーザストリート・シティウォークを遊んでいない人も大勢いるわけですよ。説明が難しいと仰るのはよく分かりました。でもね、だからと言って、今のような言い方で説明を放棄するのは市政のあり方ですか? 予算委員会を馬鹿にしていると取られても仕方がありませんよ、ゲームのことだからまだよかったようなものの、「あいつらには説明しても分からないから説明しなくてもいいだろう」という態度はね、分断の助長に他ならないわけです。違いますか? 私は遊んでいますよ?


清掃環境局課長

はい。まずはご不快な思いをさせてしまい大変申し訳ありませんでした。本間議員のご指摘、御尤もだと思います。でしたら作業報告書の中から事例を掻い摘んで説明いたしますので、少々お時間いただいてもよろしいでしょうか?


本間委員

はい、そうしてください。委員会が市民の目であることをお忘れなきよう。


清掃環境局課長

はい。まず作業者内で模範例として共有されている例をいくつかご紹介したいと思います。10/27 22:55で発生しました事案です。22:55、網浜交差点付近で酔っぱらいの集団がノーザストリート・シティウォークを起動し、シルバーセットの要素が3.7点上昇したとの報告が地域パトロール隊……これは警察署の方で管轄している組織ですが、そこから上がりました。それを受けて清掃環境局サポートチームでは、網浜交差点付近が多重層で非常に不安定になっていることから、複数の群れのカラス達が塗り替えを狙う包囲集中型になり一斉流入の恐れがあると推測しました。そこで当日待機していた2名及び東食の市職員を二手に分け、2名を3スペース先の中公園に向かわせました。中公園組がそこでシルバーセットの要素を12点上昇させ、その部分をホールとして周囲の群れのカラス達に攻撃させるためです。そこで流入ルートを分化されたカラス達は行動を開始し、中公園に流入したカラス達は市で用意している所定のカラス除けカカシへ誘導。網浜交差点には3羽ほどのカラスが飛来しましたが、ナノマシン摂取量から1プレイヤーによる塗り替えでも問題ないと予期していた通り塗り替えが間に合い、被害を未然に防ぐことが出来ました。以上となります。


本間委員

ありがとうございました。ただ、少し説明が事務的、と言いますか硬い表現が多く実際のプレイ、と言いますか情景を想像しづらかったのですが、ようは囮を使ってカラス達を撃退した、ということで良かったでしょうか?


清掃環境局課長

はい。簡潔に言えばそういう事になるかと思いますが。


本間委員

清掃環境局課長の説明は大変丁寧ではあるのですが、少し持って回ったような部分が多いので気を付けていただければと思いますね。中公園を囮にしたなら、最初からそう言っていただければ構わないものであって。


清掃環境局課長

いえ、中公園を囮にしたのではなく、本事例の要旨は網浜交差点の多重化の解消にありました。網浜交差点の不安定さは前々から懸念されていた問題で周辺他地域にカラスを分化させる危険性がありましたので、むしろ網浜交差点のシルバーセットの要素上昇を囮にすることで中公園への誘導を狙った、そしてそこで対象の分化が起きた、ということにより一帯のシルバーセットの要素平均が取れた結果としてレッドムーンの値がわずかながら全体平均を上回った。あくまで狙いどころとしてはシルバーセットの要素平均を網浜交差点を利用してなだらかにすることで。その後の盤面をなだらかにしたことが、カラスによるレッドムーン陣営への攻勢を平均化させ、各地への攻撃発生数も平均化したことで対処がしやすくなったと、着目する上ではそちらに機があるものとお考えになっていただければと思います。あくまで能座通り繁華街一帯でレッドムーンが最終的に勝利すること、それが本業務の目的ですので。皆さんの働きが無ければ後の鎮静化には至らなかったとそう確認しております。


本間委員

もう結構です。ありがとうございます。再三のお話にはなりますが、いくらゲーム内の話とは言え、もう少し簡潔に説明していただきたかった。清掃環境局課長。今後は分かりやすく、市民の皆様の視点で、説明を心がけるようお願いいたします。


清掃環境局課長

本間委員。ご忠告、ありがとうございます。職員一同今後も更なる業務透明化を目指して市民目線での資料作りに励んでまいります。


本間委員

お話については一部冗長な言い回しもありましたが、その業務遂行の目的については一定数理解出来るところもありました。ただ、そうした前提を踏まえた上でも、やはり清掃環境局の業務達成度については厳しい目で見ざるを得ませんね。市民の目がそこにあるのかと。厳しいことを言いますよ。清掃環境局課長。数字として測れない仕事をですね、市民の皆様に成果として出せるかと、そういう問題にもなってくるんですこれは。先ほどの囮の話にしてもね。相手はカラスですよ。カラス相手に囮を使って、なおも勝てていない。言ってみればこれは、市行政がゲームに勝つための予算を増額してくれとそう言っているわけではないですか。市民の皆様もね、ノーザストリート・シティウォーク、大変好評でした。私のところにもね、遊びましたよと、そういう話は沢山ありました。それがね、市行政が、カラスに勝てないから予算をつけてと言っている現状、本当に真面目に取り組んでいますかと市民から言われても仕方がない。私も一プレイヤーとしてね、現在の業務内容、たいへん不甲斐なく思います。大変。その点、どうお考えですか。清掃環境局課長。


清掃環境局課長

はい。熱い激励いただき、大変身に染みる想いですが。あの、本間委員。大変申し訳ないのですが、一つ、誤解をしていらっしゃるのではないでしょうか。


本間委員

誤解?


清掃環境局課長

まずもって、清掃環境局としてカラスに勝とうというつもりはございません。これは、カラスに勝つための補正予算ではなく、負けるための補正予算ですので。


本間委員

それは、聞き捨てなりませんね。対応のギブアップ宣言ですか?


清掃環境局課長

ギブアップと申しますか、羽が生えて24時間町中を飛び回っているカラスに、徒歩の人間が位置情報ゲーム類で勝つことはあまり現実的ではないかと。


本間委員

ではなんですか、先ほどまでのお話は全部、負けるつもりで撤退戦をやるので予算を増額しなさいと、そう言っていたわけですか?


清掃環境局課長

はい。左様です。


本間委員

議長。私、市政に関わって16年ですが、こんな発言を聞く日が来るとは夢にも思いませんでした。これは事実上の市政の放棄ですよ。それを市の行政の一部局のトップが、議会で公言している。こんな馬鹿げた話がありますか? 日本の憲政史上、地方自治の理念をここまで愚弄した話は存在しませんよ。吐瀉物の掃除は間に合わない。バリケードを作るのも間に合わない。あまつさえ人がカラスにゲームで勝てるわけがないから、負けることは仕方が無いから予算を増やせと要求している。こんなね、このような市民を愚弄する話が、この世にあっていいのかと。市民の目がね、それをどう見ているのかと、貴方達は恥ずかしくないのかと、私はそう言いたい。みんな分かってます、この話を聞いた人間、みんな分かってる。泣き言だと。それでいいんですか、課長。ご発言、撤回するなら今しかないんですよ。


清掃環境局課長

大変申し訳ないのですが、本間議員、やはり何か根本的に誤解をされていらっしゃるのではないかと……。


本間委員

この期に及んで私が何を誤解したと言うんですか。醜いですよ、責任転嫁は。


清掃環境局課長

あの、大変失礼ですが、本間委員。ノーザストリート・シティウォーク、遊ばれたことが本当におありですか?


本間委員

無関係な質問です、まずは質問にお答えください。


清掃環境局課長

では、お答えします。まず大前提として、清掃環境局は最初からカラスにゲームで勝つことを目的に業務を行っておりません。繰り返しになりますが、あくまでこちらそれ実際に行われる清掃作業の一環ですので、広報費等からは外し清掃事業運営費に計上させていただきました。そもそも、カラスとゲームをしているわけではないのです。清掃です。もちろんカラスをゲーム内で完全に駆逐すればそれは一つの成果なのかもしれませんが、結局空を飛んで四六時中挑んでくるプレイヤー相手に同じ土俵で争うのは、根本的な解決にはなりません。こちらが勝とうとすればするほど、カラスに頑張る理由を与えるだけ。ですので、市行政として鳥害の根本的な解決を目指すため、ゲームにおいてはわざと負ける、あるいはカラスと同じチームになってレッドムーンを圧倒的に勝たせると、そういう施策に取り組んでまいりました。


こちらにスコアがあるから相手も躍起になって取りに来るだけで、こちらが自らスコアを放棄すればそもそもゲームそのものが成り立たなくなる。これにより現在能座通り繁華街一帯はレッドムーンの占有率が78.7%になっており、そもそもゲーム自体が成立しない状況になっております。拡張現実側アプリケーションでご覧になっていただくと、こう、町一帯が真っ赤になっていると。カラスの目からも同じく町が真っ赤に見えている。今後もゲーム的なランダムイベントは発生するでしょうが、同様の施策で徐々にゲーム発生率は低減していくものと思われます。無論鳥害は複合的な原因があるものですのでそれが全てとは申し上げませんが、現実問題として、カラスに一定の行動を促すことには成功している。とは言え、ナノマシンの効能が消えるまでの短い期間、この遊びがカラスにとって習慣化するとなると新しい問題にも繋がりかねませんので、現状が踏ん張りどころであると認識しております。以上です。


本間委員

ええと、まず申し上げたいのはですね。私の記憶の限り、記憶の限りではですよ。清掃環境局課長の口から「私たちはゲームに負けることによって鳥害を食い止めている」と、そこの因果関係をですね、説明していただいた覚えはないのですが。


清掃環境局課長

あの。繰り返しにはなってしまうのですが、やはりゲームというものには流れがございまして、遊ぶ者から見ると「あの一手のおかげで後の盤面がこうなった」といった理解は出来るのですが、遊んでいない方には説明が難しいと言いますか、ピンとこないだろうと。ただ、おそらくノーザストリート・シティウォークを遊ばれたことのある方であれば、そもそも先ほどの説明を聞いて勝とうとしているとは思わない、と言いますか、そもそも本当に遊んでいたらあのゲームシステムでカラスに勝てなきゃ恥ずかしいという発想に至らないのではないかと思うのですが。


本間委員

清掃環境局課長こそなにか誤解があるように思いますね。私が、どうこうではないんです。私という人間を通した市民の目で、市民の皆さん全員の目で分かることが答弁に要求された前提だと思った、その為に私たちの議員の職務があり、その必要があったので追及している。ここの基本原則をお忘れになっているんじゃないのかな。これね、皆さん分かってなかったと思いますよ。あの質問でね、そんな複雑なゲームの流れがね、分かるわけがない。私の背後にいらっしゃる市民の皆さん。私ではなくてね、何も知らないそういう市民の皆さんを相手に話していると思わなきゃね、それはもうまた別の意味での怠慢だと思われて仕方がないと思いますよ。最近始めた人もね、既に辞めた人だってたくさんいるでしょう。誰もが私のようにノーザストリート・シティウォークを現役で遊び続けているとね、思わんでください。


豊田議長

本間委員。


本間委員

はい。


豊田議長

ノーザストリート・シティウォーク、既に公式サービス終了してオフラインモードでしか動きませんよ。


本間委員

一度駅前の吐瀉物に話を戻します。

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