心音

智恵理さん。この度の三代目GM襲名、誠におめでとうございます。


日頃の努力の成果が結実されましたこと、御社ゲームの一ファンとして、我が事のように嬉しく思います。時が経つのは早いもので、初代GMの瑞穂さん、二代目GMの奏さん、ちょっと前まであんなに小さかった智恵理さんが三代目GMだなんて。巷には「スフィア・パレードのゲームはGMの心臓に全てがかかっている」なんて口さがない人もいらっしゃいますが、こうして今日を迎えた智恵理さんの立ち振る舞い、肝の据わり方はやおばあ様似かしらと皆さん胸を撫でおろしていることでしょう。


何万人もいた応募者の中から、こうしてファン代表に選んでいただき、スピーチの場まで設けていただきましたこと。改めまして、本当に光栄です。私みたいなファンがお祝いのスピーチなんてさせてもらって良いのかしらって、今だって少し信じられないくらいで。だって、ねぇ。この人たちったら原稿のチェックすらしないものだから。私が突然「確率いじってんじゃないの?」とか言ったらどうするつもりなのかしらって。あら、もちろん冗談ですけど、あながち冗談でもないんですよ。


智恵理さん。スフィア・パレードのゲームが今日ファンから絶大な信頼を受けているのは、貴方のお母様とおばあ様、先代及び先々代が身を粉にして作り上げてきた実績によるものです。第一作目"天使な出会いの僕たちは"から最新作"学園地獄絵巻"まで、全てのファンに全ての手の内を明かしてきた運営姿勢こそが財産。ユーザーからの不当な搾取や不利益になる設定変更は行わないという約束が、貴方にも受け継がれているのだということをお忘れなきよう、くれぐれもお願いします。


「運命の巡りあわせ」なんて言葉もありますが、今日ほどそれを強く感じた日はありません。智恵理さん。貴方のおばあ様、初代GMでいらっしゃった瑞穂さんが、初めてご自身の心音をビデオ・ゲームに組み込んだキッカケを貴方はご存じかしら? ご存じないということは……、やっぱりこれは運命の巡り合わせなんでしょうね。実は60年前の丁度この日、一人のユーザーが瑞穂さんに「確率いじってんじゃないの?」とクレームを送ったことが全ての始まりだったんです。


ごめんなさいね。少しお祝いの場には相応しくない言葉になってしまうかも。瑞穂さん、その言葉に"カチン"とこられたみたいで。でも、当時はそういうきつい言葉をおばあ様に送る人は珍しくなかったの。欲しいアイテムが出ない、欲しいキャラクターが出ない、攻撃が当たらない、攻撃が避けられない。そんなとき人は、自身の運を疑うより先にゲームの設定を疑うものでしょう? だから、初代GMである瑞穂さんは、毎日のようにユーザーたちから不平不満をぶつけられていて。


おそらくは鬱憤もたまっておられたんでしょうね。瑞穂さん、売り言葉に買い言葉で「私共のゲームは公平に乱数を生成していますので、お客様の仰るような確率操作はございません」と公式メッセージをお出しになったんです。そしたら意地の悪いユーザーたちが、今度は「でもその乱数が弄られてないとは言い切れないでしょう」なんて言い出して。瑞穂さん、気の強い方だったから。「ああ、わかりました、なら絶対に私が操作出来ないところから乱数発生させましょう」って仰って。


そしたらもうびっくり。あくる日にはゲーム内の全ての確率処理が、瑞穂さんの心拍数からリアルタイムで乱数生成する仕組みに替わってしまったんですから。


===


最初は私も驚きました。だって、ねぇ。心拍数って、ものすごく大変な個人情報でしょう。仮にゲームを通してとは言え、そんなプライベートな情報を世界中に公開するなんて、この人は一体何を考えてらっしゃるのかしらって。おかしな人に悪用されるかも、おかしくない人にも悪用されるかも。だから、私、心配になってしまって。何人かのお友達と一緒になって、「分かったからもうやめてください、そんなの悪い冗談でしょう?」って瑞穂さんにクレームを送ったんです。


そしたら、またまたびっくり。瑞穂さん本人が返事をする前から、ゲームを遊んでいた人たちが血相を変えて飛んできて、「やめてくれ」って。「貴方達がGMに要望を送るたびに、さっきから攻撃が当たらなくなってる」って仰って。ええ、そうなの。私たちが瑞穂さんにクレームを送るたびに、瑞穂さんはそれにカチンときて、心拍数が上がるでしょう? そうすると、ゲームの中で乱数生成のスキームが変わって、攻撃が全然当たらなくなるって、皆さんそう仰ったの。


そんなわけないじゃないって思ったわ。だってそれってつまり、瑞穂さんの機嫌が悪くなったらゲームの難易度が高くなって、瑞穂さんの機嫌が良くなったらゲームの難易度が低くなるってことでしょう? 世間の目も厳しいこのご時世、そんな露骨な確率操作が許されるもんですか。どうせGMの冗談を真に受けた人たちが自分の腕の悪さを言い訳しているんだわって。私は思っていたのだけれど。続けざまにソースコードが開示されて、またまたまたまたびっくりしてしまって。


おばあ様、本当の本当にご自身の心拍数をリアルタイムでサーバーに送って、その数値をもとにゲーム内の乱数を生成されていたの。ドクン、ドクンって。心臓が一つ高鳴るたびに、ゲームの中で私たちの運命もコロコロ変わる。もちろんそれは単なる乱数生成で、機嫌が良いときはゲームを簡単にしてあげるとか、機嫌が悪いときはゲームを難しくしてやろうとか、そんな処理は全く存在しなかったけど。でもね、これは三代目となる智恵理さん、貴方にも覚えておいて欲しいことでもあるの。


1/100であたりが入っているクジは、当然確率は1/100のクジ。1番が当たりなんだとしても、2番が当たりなんだとしても、どれが当たりでも当然確率は1/100。でもね。仮にある特定の条件でくじを引くと絶対に1番のクジをひけることが分かっていれば、絶対に2番のクジをひける条件を分かっていれば、確率なんてまるで最初から存在しないかのようにゲーム内で振舞うことも出来る。そう考えればゲームの中の乱数は、私たちプレイヤーにとって、ある程度操作できてしまう数字でもある。


どんな数値をもとに生成された乱数も、入力される数値は必ず任意の数字。その規則性を分析しようとする人間は現れるし、乱数を操作しようと試みる人間は必ず現れます。例えば、それが心拍数であるなら? 貴方の脈拍は常時注目の的になり、それに大勢の人々が一喜一憂する。貴方の心拍数を特定の値にすることでゲームが有利になるのならば、みんなが貴方の心拍数を操作しようと思う。貴方の心臓の動き一つで全ユーザーの運命が左右されるということは、それほどのことなのです。


……なんて。ごめんなさいね。少し未来ある若者をおどしすぎちゃったかしら。


===


GMの心拍数を乱数生成のキーにするという瑞穂さんの決断は、良くも悪くもスフィア・パレードを一躍世界的ゲームスタジオへと成長させました。結局のところ、おばあ様の決断は正しかった。「アンチの活動を封じるものじゃないの」という不安や、「意図的な数値調整じゃないかしら」という疑念は、内部でどうやって当たり外れが決まっているかまで明け透けに見せてくれた透明性には勝てなかった。だって隠れて確率を弄っているどころか、心拍数まで堂々と公開されているんですもの。


ユーザーからすれば、それは嘘発見器をゲームに括り付けているようなものだったわ。「心拍数なんてどうせごまかしだろ」とか「心拍数なんか裏で数字いじれるじゃない」とか、そんな言葉がSNSに溢れてもゲーム内の確率はまったく変わらなかったのに。「メンテが予定通り終わりそうって嘘ですよね……?」とか「この時期にやるメンテが予定されていたものだって強がってません……?」とか、そういう言葉をかけられるとゲーム内の確率すべてが面白いくらいコロコロ変わるの。


悔しいけれど、私も瑞穂さんの戦略にまんまと乗せられてしまった人間の一人です。不思議なものね。人間って、それが単なる入力値でしかないことは分かっているはずなのに、どうせなら気分良く操作したいと思うようになるの。心拍数で言えばベストは多分60から61じゃなかったのかしら。おばあ様にゲームを楽しんだ旨をお伝えすると、おばあ様のお心も次第に朗らかなものになって、心なしか攻撃も当たりやすくなったんです。それでまた嬉しくなって、おばあさまに報告したりして。


そうそう。実は昨日、当時のゲームの攻略メモが出てきたのですけど、これがまた面白くって。私がおばあ様に伝えた感想と、その日ガチャで出やすかったアイテムの相関図なの。「この前のシナリオ面白かったです」だと水の精霊マーキア、「これからも頑張ってください」だと風のマナ、「私たちみたいな古参に優しいGMが好き、一生ついていきます」だと絶対にアレムハイヌの牙の限定衣装版が排出されたんですって。多分、長年のファンに褒められるのがあの人うれしかったんじゃないかしら。


でも、喜ばせすぎも禁物で。もしかしたら瑞穂さん、そのあたりもお考えになってこのシステムを始められたんじゃないかしら。あんまり煽てると、あんな人でものぼせちゃうから。気分が高揚して生成される乱数も高止まり、攻撃が外れるようになって「これはダメね」ってなっちゃう。以前なら皆さんそこで「確率いじってんじゃないの?」って失礼なことを言っていたけど、検証の結果として、もう少し穏やかなくらいが乱数調整としては最適だって攻略法が分かってるでしょう?


だから、「でも、もう少し攻撃が当たるようになってくれると嬉しいですね」なーんて、ちょっと気を遣った一言付け加えて、瑞穂さんも「そうだな、天狗になっちゃいけないな」って冷静になってくださって。すぐに確率が元の値に戻って。やり方は少し極端だったかもしれないけれど、スフィア・パレードというブランドから無用な罵り合いやおかしな持ち上げが減っていったのは、思えば初代のあの荒治療があってこそだなと、私のような古株のファンは改めて思ってしまうんです。


どうでしょう。三代目。ゲームを通して見るアルゴリズムとしての瑞穂さんと、貴方の知っている優しいおばあ様は同一人物だったかしら。多分、雨の日は機嫌が良くて、晴れの日は機嫌が悪かったでしょう。何故なら雨の日にガチャを引くとレアが当たらなかったからなんだけど、違ったかしら。ええ、ええ、そう。面白いのね。この歳になってまた改めてGMを知るだなんて。雨の日はアクティブユーザーが多かったから機嫌が良かったなんて、瑞穂さんも可愛いところがあったのね。


機嫌の良い瑞穂さんに私たちが集まったのか、私たちが集まったから瑞穂さんの機嫌が良かったのか、どちらだとしても素敵な話だわ。そうでしょう、三代目?


===


私たちファンには、絶対に忘れられないイベントが二つあります。もちろん、それは私たちが「イベント」と呼んでいるだけで、実際には瑞穂さんの心拍数が劇的に変化した日ということなのだけれど。一度目は、三代目、貴方が産まれた日のことです。その当時はもうスフィア・パレードのGMは二代目である奏さんに移行していたのだけれど、貴方のお産はね、それはそれは大変だったみたいなの。数日前までは容体は安定していたのだけれど、突然急変して、病院に運ばれて。


もちろんそれはゲームの運営情報として公式発表されているような話ではないから、実際には私たちはお産に立ち会ってはいないのだけれど。その頃にはもう、ゲームを通じてGMの体調くらいは分かるようになっていました。今でも鮮明に覚えていますよ。12月27日の深夜2時頃になって、突然魔法も攻撃もまともに敵に当たらなくなり、皆さん進めていたクエストで全滅してしまったの。そしたらロビーにいろいろな方が集まってきて、これは奏さんの容体が急変したに違いないって。


奏さんはもうずいぶん前から産休に入られていて、その間くらいは心拍数の連携を止めるだろうって言われていたのに。突然そんなことになったから、みんながみんなそわそわしちゃって。奏さん? 二代目? えーと、今日という日に限ってはなんてお呼びしたらよいのかしら。いずれにせよ、笑い事じゃありませんよ。ファンなんて無力な存在なんだとつくづく思わされたんですから。だって奏さんが苦しんでいるのがありありと感じ取れるのに、私たちに出来たことと言えば無事を祈るだけ。


朝4時ごろになったら、今度は逆に雑魚敵を倒すと毎回毎回レアアイテムをドロップするようになって。これは奏さんの心拍数が劇的に低下している証拠だ、奏さんが危篤だって、皆が一様に気が付いて。それでも結局、私たちには夜通し祈ることしかできなくて。本当にあの時はみんな大変だったわ。でも後から聞いたらびっくり。奏さんは産休に入る前に心拍数の連携をちゃんと止めていて、あの時私たちがずーっと聞いていたのは、貴方のおばあ様、瑞穂さんの心音だったの。


奏さんは大事な大事な一人娘。その大事な大事な一人娘の大事な一人娘が、三代目、貴方でしょう。なんでも奏さんは安産で落ち着いていらしたのに、瑞穂さんはいてもたってもいられなくなって、一晩中ずっと目を白黒していらしたらしくて。三代目が産まれた時、瑞穂さん、どれほどお喜びになったんでしょうね。あるいは物凄くハラハラされたのかしら。長年ゲームを遊んできた私たちにも、あの日のGMの気持ちは見当もつかなかった。ごめんなさいね。まるでゲームにならないくらいだったものだから。


でも、分からないのは分からないなりに良かったの。だってガチャで出てくるアイテムがハズレのアイテムばかりに偏っちゃって、これは実質、今のうちに課金すれば生まれてきた貴方の出産祝いになるんじゃって思ったから。皆さん本当に良い人たちばかりで、何もできない私たちだけれど、せめて奏さんが大変な時はガチャを回しましょうって。瑞穂さんは無口な方で、お考えになっていることなんて、それこそ心音かガチャの排出アイテムを通してでしか分からなかったけれど。


奏さん? いや、この場ではもう先代と呼ぶべきかしら。あの時の私たちの考え、瑞穂さんはお気づきになられていました? ……ああ、やっぱり、そうなんですね。じゃあ、三代目にも内緒のままにしておいた方が良かったかしら。お母様、いえ二代目はね。貴方が産まれてから昔より穏やかになられたものだから。ガチャの排出率も甘くなって、初代の瑞穂さんと比べてちょっと緩いんじゃないかってお叱りをよく受けてたの。私たちが払った出産祝いより、多く返すことはないでしょうなんて小言を言われてね。


===


もう一つの「イベント」は……、今はもうここにはいらっしゃらない、初代GMである瑞穂さんがお亡くなりになった日のことです。今から思うと、初代は最初から最後ことを考えてこの心拍数連動をはじめられたのかもしれない。心拍数をゲームの乱数生成に使用しますと仰った初代に、「おやめください」と私が申しあげたあの日、初代は確かに「これは全て覚悟の上です」と私に仰った。ああ、それがあの人のお覚悟だったんだのだろうな、と、今でも時々そうして思い返すんです。


日々の体力の低下もあって、その頃には初代が心拍数を連携していらしたタイトルは"天使な出会いの僕たちは"一作だけだったんじゃないかしら。もう何十年もサービスをしているゲームでしたから、今更確率の変動でアイテムのドロップがどうの、攻撃の回避率がどうのというようなコトもなかったけれど。その分、長年遊んできた私たちには世界の異変がヒリヒリと感じられて。作中に出てくるキャラクターが、なんだか最近突然優しくなるって、ちょっと話題になったんです。


不整脈だと、すぐに分かりました。だって、たった数秒のことだけど、まるで別のゲームのようにプレイ感覚が変わったものだから。確率とは統計の末に現われるもので、たった数秒でそこまでの気付きは起こりえないって、今でも言われます。言われるけど、たとえオカルトと呼ばれても、私はそこに初代との繋がりのようなものを感じました。だから、大昔に一緒にクレームを入れた何人かのお友達と、もう一度一緒になって「病院に行きましょう」ってクレームを送ったんです。


初代GMは、瑞穂さんは。私たちに、「私ほどプレイヤーに恵まれたゲームマスターはいないでしょう」と、そう、声をかけてくださったけど。本当なら、本当に私たちがもっと真剣にゲームを遊んでいれば、もっと、早く気づいてあげられたんじゃないかと、今でも、思っています。初代の容態が悪化するにつれ、心拍数は乱降下して、ゲームの中の世界もそれと同時に確率が乱降下して、どんどんどんどんと、ゲームとしてのルールを為さなくなってしまった。


実のところを申し上げれば、最後の最後まで、疑う気持ちが無いわけではなかったんです。だって、やっぱり、そうでしょう。普通に考えて、ゲームの乱数生成と生身の人間の心拍数が紐づけられているなんて、人間の人生が丸ごと一つゲームの内部システムに組み込まれているなんて、どう考えてもおかしい。両親が亡くなった日はゲームも一緒に盛り下がって、子供が生まれた日はゲームも一緒に盛り上がって。こんなこと馬鹿げてる。やっぱり何か悪い冗談なんじゃないかって。


でも、おそらくは、初代はGMとして、自身の終わり方も最初からシステムに組み込んでいたのだろうと、今では思います。最初から分かり切っていたことだったんです。心拍数がゼロになったとき、いったいゲームでは何が起こるのか? まるでそう言い聞かされているかのようでした。乱数生成のための入力値が無くなった世界は、つまるところ確率が失われた世界でしょう。なにをやっても0%か100%にしかならない世界で、後は彼女が死後の世界をどう設定していたか、それだけだった。


ガチャを引いてもレアアイテムしか排出されなくなったゲームを遊んで、あれほど喪失感があったのは。おそらく、私たちが瑞穂さんの最後の気持ちを、どうしても素直に受け取れなかったからだと、今でも申し訳なく思っています。


===


三代目。これからのスフィア・パレードの全てのゲームは貴方と共にあり、貴方は今日をもってスフィア・パレードのゲームの全てとなります。初代、二代目が育てたゲームを守り、育むことが、これからの貴方の人生をかけた責務なのです。私たちファンは貴方と共にあり、貴方は私たちファンと共にあり……。フフッ。いやだ、ごめんなさい。昨日自分で書いたはずの言葉を読み返しているはずなんですけど、なんでこんな仰々しい口調になってるんだって、なんだか自分で恥ずかしくなっちゃって。


ごめんなさいね。新しいGMの就任式だっていうのに、なんだか気合が入りすぎちゃって、仰々しいことばっかりお話ししちゃった。ええと、どこまでお話ししたかしら? そうそう運命の巡り合わせ、運命の巡り合わせ。初代GMの瑞穂さん、二代目GMの奏さん。思えば私も長らくスフィア・パレードのゲームを遊んできましたが、それはあくまで一ファンとしてゲームを通してGMの御心を窺ってきただけの話、直接お二人を存じ上げているわけではありませんでした。


それがこうして三代目GM智恵理さんの代になり、ファン代表に選ばれ、直接祝辞を読み上げさせていただく立場になったというのは、これもひとえに「運命の巡り合わせ」の成せる業。三代目。今朝、とても緊張されていましたね。夜も眠れなくて、朝方までずっと胸の高鳴りが止まらなかった。そうでしょう。私も同じです。ゲームを遊び、そこから窺う三代目のお気持ちを想って……、正確には夜通し続くガチャの排出率の渋さを感じて、朝まで一睡もできませんでした。


ごめんなさい。本当に、自分でもどうかしていると思うのだけれど。直接お会いしたこともない瑞穂さんのお姿、あの凛々しい立ち振る舞いに。ごめんなさいね、そんなの私が見たことなんて一度もないはずなのに。今の智恵理さんのお姿、立ち振る舞い、おそらく似ていらっしゃるんだろうなって思ったら、ちょっと、どうしても、ごめんなさいね、気持ちが、こみあげてきてしまって。瑞穂さんは瑞穂さんで、智恵理さんは智恵理さんだと分かってはいるのだけれど、何故なんでしょうね。


智恵理さん、いえ、三代目。お話の最初、60年前の丁度この日、一人のユーザーが瑞穂さんに「確率いじってんじゃないの?」とクレームを送ったことが全ての始まりだったと、スフィアパレードはそうして始まった会社なのだと、そう話しましたよね。あれは、私なんです。実は、私が送りました。私が、あの日、送った言葉だったんです。ずっと言えなかった。言いたかった。ごめんなさいと、瑞穂さんに、たった一言だけでよいから。でも、言えないまま、今日、この日を迎えてしまった。


私は、本当なら、こんな場に立てるような人間ではないんです。でも、なんでしょう。確率って、本当に、不思議なもので。貴方がファン代表に選ばれましたと、抽選で、三代目の心音によって生み出された乱数による初めての抽選で、私が、何万人ものファンの中から選ばれましたと、メールを受け取った日から。まるで、貴方の心音の中に、瑞穂さんがいらっしゃるんじゃないかって。瑞穂さんもまた、貴方の心音を通して乱数を操作してらっしゃるんじゃないかって。そんな気がしてしまって。


智恵理さん。この度の三代目GM襲名、誠におめでとうございます。

そして瑞穂さん。もしもそこにいらっしゃるのなら、本当に本当に、ごめんなさい。


貴方達の日頃の努力の成果が結実されましたこと、御社ゲームの一ファンとして、我が事のように嬉しく思います。時が経つのは早いもので、当時はあれほど口が悪かった私たちも、今じゃもうすっかり落ち着いてしまいましたけど。巷で「スフィア・パレードのゲームはGMの心臓に全てがかかっている」なんて口さがなくゲームを遊び続けているように、こうして今日を迎えた智恵理さんの立ち振る舞い、肝の据わり方はやおばあ様似かしらと皆で胸を撫でおろしています。


これからのスフィア・パレードが、三代目の心音の下、益々のご活躍をされますようお祈り申し上げて、ファン代表のお祝いの言葉とさせていただきます。


===


ではちょっと失礼して、お祝いのガチャを回させていただきます。


……なるほど、今後のゲームにとっても参考になりました。三代目の心臓、人生で最も胸が高鳴る日には、「土の精霊ドインゴ」をお出しになるのね。


さっそく攻略メモにも書き足しておこうかしら。「三代目の冠婚葬祭の日はお祝い目的であってもガチャを回さないように、ハズレしか出ません」って。

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