第3話 天・転・点

 空が変。

 竜の群れに覆われた空なんて、変。


 馬鹿でかい鳥に乗り、緑の髪した少年の背中にしがみついている自分のことは無視して、ユメは赤・青・黄色などカラフルかつ大小様々な竜の群れに覆われた空の状況に突っ込んだ。


「ユメ様、行きますよー」と、ロリアに叫ばれても、さて、どうしようという感じである。


 えー、なんか出るモノ?


ユメは半信半疑で手と手を合わせて、普段やっているように集中した。


 熱い。


合わせた手のひらを少しずつ離していけば、そこに火球が現れた。


「えーーーっっっっ」声を上げたユメだが、驚いているのは彼女一人。「早く、それを相手に投げつけてください」ロリアの冷静な声に、ユメは慌てて近くの竜に投げつけてみた。ヘロヘロの火球は、竜に命中することなく空中に消えた。


「はっはっはっ、妖精王の末裔なんて大したことねーなぁ」野太い声が響いて、ユメの前に青い髪に青い目、青い服を着た少年の操る青い竜が現れた。


 カラーコーディネイト完璧か。


突っ込んでみたところでマッチョな青い髪の少年が消えてなくなるわけもなく、筋肉ムキムキで逞しい腕をユメに向けて「行けっ!こんなヤツ簡単に片付く」と叫ぶ野太い声を止める術も浮かばないユメであった。


「ユメ様、攻撃を」促す声に焦りつつ、ユメは日々習得にいそしんだ技の数々を思い浮かべた。そう言えば水とか火とか風とか、説明にくっついていた色々があったから、アレがソレか、などと思い巡らせているユメの目の前で、ロリアが火とか風とか水とかを手元から繰り出して敵にぶつけていた。


 ロリア一人で十分じゃん、私要らないじゃん。


そんな風に思いつつ、ユメは目を閉じて集中してみた。「危ないっ」ロリアの声で目を開けるとユメの目前に大きな火球が迫っていた。「水っ」叫んだユメの口から文字通り水が飛び出した。見る見るうちに火は消えて、更に火を吹いた真っ赤な竜を大量の水が嵐のように襲った。


「凄いじゃないですか、ユメ様」興奮気味のロリアに向かって、えーそれほどでも、と言おうとしたユメの口から更に大量の水が噴き出た。間一髪、水を避けたロリアだったが、目に不信感が浮かんでいる。これはコントロールするのに時間がかかりそうだ。怒っちゃやーよ、と、思いつつ、ユメは笑ってごまかした。


 コントロールに問題はあるものの、水やら火やら風やらを繰り出しつつ、ユメとロリアのコンビは、敵陣を蹴散らし始めた。敵将と思われる先ほどの青い髪の少年は、悔しそうな顔をしてコチラを見ていた。やーい、やーい、ざまーみろー、と、言ってやりたいがために、ユメは頑張った。高二女子の全力を使って、竜の群れに立ち向かった。


 ひらひらと落ちていく竜は、いつの間にか開いていたポータルを通って、元いた国に戻っているようだ。押し入れの奥にあったグルグルと渦巻くモノが、何倍にもなって空の上、ユメたちの足元に広がっていた。


 あぶねー、あそこに落ちたら私、知らない世界に行ってしまう上に男になっちゃう。そう思ったユメの考えを読み取ったような表情がロリアにちろっと浮かんだ。


 あ、やべ。そう思った時には遅かった。


「ああ、やられた~」ロリアのわざとらしい声と共に水が渦巻くスプラッシュ。


 ユメは馬鹿でかい鳥とロリアごと、空にグルグル渦巻くポータルに向かって落ちていった。




 






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