第2話 驚愕の真実
なぜ、こうなった。
事態を理解はできない
道端で竜に襲われるとかあり得んし、こんな馬鹿でかい鳥が空を飛ぶとか聞いたことないし、その鳥を乗りこなしている人間が居るというのも受け入れがたいし、そもそも乗りこなしていたのが人間がどうかも怪しい。
「私はロリア・ マーレイと申します。お母さまにお会いできますか? 」
丁寧な日本語で話してくれてなりよりではあるが、髪が緑とかあり得んだろう。整った顔立ちにすらっとした体形、細いながらに筋肉と、そのしなやかさを感じさせる動きに見ほれたとしても、実在人物としては、あり得んだろう。
ユメの疑いの眼に動じる様子もなく、ロリアはズンズンと二世帯同居建売一戸建ての我が家へと入っていく。鳥もその後に続いて入っていくが、よく玄関通れたな、という馬鹿でかいサイズである。
猫みたいな柔軟性だなぁ、と、感心しながら眺めていると奥から母が出てきた。
「あら、お客様? 」
「ベルタ様っ、お久しぶりです」
「あら、ロリア。どうしたの? 」
「魔物が、魔物が現れました。このままでは国が滅ぼされてしまいます」
「まぁ、大変」
あのぉ…もしもし? なんだか盛り上がってますけど、娘は事態が全くつかめておりませんが。馬鹿でかい鳥には掴まれましたが。まったく事態はつかめておりません。
…つーか、母は鈴子だろっ、ベルタ様って誰さ?
みたいな娘の動揺は他所に、奥から祖父母も湧いてきた。
「おや、お客さんかね……あら、ロリアちゃんじゃないの」と、祖母が言えば、
「おおぉ久しぶりじゃの」と、祖父も言う。
「お久しぶりです、ニーナ様、サザンタ様」ロリアはそう言いながら、うやうやしくお辞儀をした。
あれ、じーちゃんばーちゃんお偉いさん?などと思っていると、ロリアは母に向かってユメが思っていなかったようなことを口にした。
「国にお戻りください、前女王陛下。ポンホフ家の皆さまのお力が必要なのです」
「えー、でもぉ、主人に聞いてみないとぉ~」
おかあさん、それパートを頼まれる時のノリ~、ってか、説明を、説明をしてください。お母さま~。
と、いう気分が顔に出ていたのか、
「まぁ、とりあえず落ち着いて話そうか」
と、祖父が促して一同は場所を狭い廊下から仏間に移した。
四畳半の畳敷きの部屋に、祖父母、母、娘、得たいの知れない人間、得たいの知れない鳥、がおさまった。ギューギューである。こたつを囲んでキューキューにおさまるなか、ロリアが厳かに訴える。
「ポンホフ家の皆さま、王国の危機です。お戻りください。得たいの知れない化け物たちが暴れまわっているのです」
と、得たいの知れない人が語っているのを聞かされる高二女子の気持ちが分かるか。分かっているのか君たち。と、言いたくなるほど、ユメ以外の家族は事態をすんなり受け入れていた。
「ちょっと待ったぁー」ガラッと大きな音を立てて襖が開け放たれた。
「一家の大黒柱に相談なく、話を進めるとは何事だー」と、言いながら
「あら、アナタ。おかえりなさーい」
「ただいまー」
そこでハート飛ばすの、いい加減やめんか父よ。ユメは見慣れた両親の仲良しぶりを冷めた目で見たが、今日ばかりは見過ごせない。何がどうなっているのか、説明して貰わなねば。
「あー、ユメには話してなかったっけ?お父さんとお母さんの馴れ初め」
父は世間話をする調子で話しながらコタツにもぐりこんだ。キューキューのキューであるが、今はそんなことにこだわっていられない。
「もー、やだ。恥ずかしい。キャー」と、照れまくる母の横で、父がした話を要約すると。
母と祖父母は、妖精の国を治める王族だった。ある日、何故か妖精の国に紛れ込み、更に魔物退治して勇者になった父と母は恋に落ちた。人間が妖精の国で暮らすことは叶わなかったため、母は父について人間界へと移住。ユメ誕生。祖父母も年を取り弱ってきたため人間界にて同居を始める。
と、いうことらしい。だがひとつ、聞き捨てならないことが含まれていた。
「はぁ?人間界に渡るときに、私の生理を生贄にしただと? 」
「ンー、正確には、人間の女性を生贄に、かな? 」
「はぁ? 」
「人間と妖精の混血だから、人間部分は生贄にしても妖精部分は残るからぁ。ま、いいかな、と、思って」
「なぜそんなこと」
「私達、できちゃった婚だから」
「は?」
話しが見えないんですけど……。
「向こうに居る間にユメちゃんが出来たのは分かってたのよね。でも、妖精界は人間の子供を産むには適さない世界なワケよ。人間界なら電気は電力会社が作ってるし、水は水道局が管理しているでしょ。妖精界は魔法の力をボンボン使うけど、その由来は不明なことが多いわけ。石とか草とかも使うけど、それがなくても出来ちゃうのよね。由来不明のエネルギーが消費出来ちゃうって事は、いつどうなるか分からないでしょ。人間界なんで電力を原発使うかどうかで揉めているのに、由来不明の魔法力使い放題って、不安でしょ。そこで人間界に渡らなくては、と、思ってね。でも人間界で暮らすにあたっては、世界渡しの婆と契約しなきゃいけなかったのよ。そこで生贄として、ユメちゃんの人間部分である女性の部分を指定したの。あ、でも大丈夫よ。再び妖精界に渡らなければ、契約の正式発効はないから。」
「え、という事は……私、そっちの世界に行くと男になるの? 」女性の部分を生贄にしたとしても男になるのは発想の飛躍が過ぎるかな、と思いつつも発したユメの言葉を、
「そういうことね。向こうの世界だとユメは妖精の王子になっちゃうかな」と、あっさり母は受け止めた。
母は強し。
ちょっと違うか……って、
「ちょっと、おかあさん。ソレ私にとっては一大事っ! 」と、慌ててユメは突っ込んだ。
「いいじゃないか。王子。カッコいいぞ」
「おとうさん。私にとっては、性別変わるって大層な一大事ですけどっ」
「王子になってもユメ様は素敵だと思いますが……」
「……」
頬を赤く染めながら言わないでくれますか、ロリア。アナタ、BL系の方ですか。それともどっちもイケル系ですか。
孫の動揺などあっさり無視するマイペースな祖母は、
「どれどれ、あっちの世界と繋いで様子を見てみるかねぇ」と、言いながら押し入れを開けた。祖母と祖父が手際よく押し入れ右側下段から布団を出すと、母はその前に立ち、何やら呪文を唱えて何かの模様を描くように手を動かした。
するとあら不思議。
押し入れの右下奥の板からグルグル渦を巻いた異空間へのトンネルが現れた。そのグルグルの中から、
「あらやだ、おひさしぶりー」と、いう甲高い声と共に赤毛の女性が現れた。
「おひさぁ~モーラちゃ~ん」軽やかな挨拶をする祖母を、ユメは呆然として眺めるしかなかった。
「みなさん、お久しぶり~、そちらのお嬢さんが例のお子さんかしら」
「そうです、ユメといいます。その節はお世話になりまして」
「いえいえ前女王陛下。どうってことはありませんわ」
「相変わらず若くて美人さんじゃの、モーラちゃんは」
「いやですわ、からかわないでくださいな」祖父の軽口を軽くいなすと、モーラはユメを見た。燃えるような赤い髪に赤い瞳。妖精界って色んなタイプの人が居るんだな、と、ユメは思った。
「妖精界と人間界は時間の流れが違うけれど、それにしても大きくなったわね。こちらの世界がざわつくわけだわ」
「それはどういう……」モーラにユメが説明を求めようとしたその時、外から人々が上げる悲鳴や物が壊れるような音が響いてきた。慌ててユメが窓から外を見ると、逃げ惑う人々の姿と、暴れまわる得たいの知れない生き物たちが目に入った。父がテレビをつけるとアナウンサーが慌てた様子で異常気象を告げていた。
「コレ、異常気象じゃない。襲撃だ」父が呆然と呟く。慌てふためく人間に対し、妖精界の住人は落ち着き払っていた。
「きたな」
「きたね」
祖父と祖母は目を合わせて頷きあうと、ユメに向き直った。
「ユメや、ワシやババが教えていたのは空手でも太極拳でもない。魔法を操る方法じゃ」
「えっ」
「そうそう。おかあさんが封印を解いてくれたら、すぐに戦えるから」
祖母の言葉に、ユメは母を見た。
「仕方ないわね。魔法は危険だと思うけど、あなた行く気満々の顔している。血は争えないわね。でも、気を付けてね」母は何やら呪文を唱えると、ユメの頬にキスをした。その瞬間、ユメは体の内側に力がみなぎっていくのを感じた。
「行きましょう」ロリアはそういうと、馬鹿でかい鳥と共に窓から外に飛び出た。
よく出られたな、この小さな窓からっ。
そう思いつつユメは差し出されたロリアの手を取ると、馬鹿でかい鳥の背に飛び乗った。
外は強風が方角問わずに吹きまくり、渦を巻いて電柱やら樹木やら建物やらを襲っていた。空を見上げると得たいの知れないものが群れをなして飛び交っていた。
「アレって竜? 」
「そうですね。種類は色々ですが」
翼の生えた様々な種類の獣が、街の上空を飛んでいる。慄くというよりも、爆笑したい気分になるのはユメだけだろうか。
「人間には自然災害に見えているはずです」
「そうなんだ。……とりあえず、追っ払わないと」このままでは、街はガレキの山と化してしまう。お気に入りのアイスクリーム屋さんが無くなってしまうのも、本を買いに隣町まで行かなければいけなくなるのも、ユメは嫌だった。
「では行きましょう」ロリアの声に反応した馬鹿でかい鳥は急上昇を始めて、ユメは振り落とされないようにロリアの背中にしがみついた。
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