英雄になるか花嫁になるか それが問題だ!

天田れおぽん@初書籍発売中

第1話 それはある日突然に

布目浦ゆめうらユメは、花も恥じらう高二女子である。そのはずである。


「なぜこねぇ……」

物騒なつぶやきを低音ボイスでかましはするが、女子高生である。


「高二にもなって生理来ないとか、ありえんだろう……」

当然の疑問をつぶやいていると本人は思い込んでいるが、道を歩きながら口にするあたりが当然ではないと、当人は全く気付いていなかった。


黒ってこの色ですよね、というほど黒々として艶のある髪を持ち、肌色見本のピンクオークルのような肌をしている、ぶっちゃけ、かなり上等にカワイイ部類の女子であるユメではあったが、中身がいかんせんムムムっという感じの仕上がりになっていた。


なにより、そのことに対して何の疑問も持たずに生きている。それが布目浦ゆめうらユメなのであった。


だから、どこからともなく火の玉が飛んできた時には、避けるという選択肢が浮かぶだけで、たいした疑問は持たなかった。水の玉が飛んでくる日もあれば、土が空から降ってくる日もある。避けた突風で電柱が折れた日もあったが、世の中はそんなものだろう、と、思っている、それが布目浦ゆめうらユメなのである。


物騒なつぶやきに他人が振り返っても、揺れまくる大き過ぎる胸を腰の曲がった老婦人が呆然とした表情で見上げてきても、気にするほど大人ではない。ひざ下丈のスカートが歩き方の雑さで跳ねあがってパンツが見えそうになっても、短パン履いてるから大丈夫、と、対策をこうじておく程度には大人になった高二女子、それが布目浦ゆめうらユメなのである。


しかし、竜が大きな口を開けて火の玉を作っている光景を目にすれば、それが普通ではないと分かる程度の常識は持ち合わせていた。


「ナニコレー! 」叫んだところで目前の竜が逃げていくわけもなく。ユメは夢でも見ている気分だったが危険を感じで悲鳴を上げた。


感情に支配された体は思うように動いてはくれない。そもそも、どう逃げたらいいのか。ユメには分からなかった。


二階建ての建売住宅程度の大きなを持つ竜が、玄関くらいなら丸呑みに出来ますよ、という勢いで大きな口を開けている。その中心に出来ていく炎の玉のサイズは、身長160センチ程度のユメならば丸っと包んでいい感じにこんがり仕上げてくれそうだ。


「どっ、どうすれば……」動揺に固まるユメの背後からは、バッサバッサ大きな音を立てて近付く影があった。


「ブハァー! 」酔っ払いのオッサンが出しそうな音と共に火の玉がユメを襲おうかという瞬間、その体は近付いてきた影にさらわれて、水の玉によって消えていく火を見ながら天空高く舞い上がった。


「なっなっなっ……ナニコレー! 」動揺のまま叫ぶユメの足元には、航空写真で見た光景が広がっていた。しかも、それはどんどん遠く、小さくなっていく。


「驚かせちゃった?ごめんね。」静かで柔らかな、それでいて良く響く声が、ユメの耳に届いた。見上げたユメの視界には、大きな鳥のクチバシと羽毛に覆われた喉元が映った。「お宅まで送るから心配しないで」声の主の姿は見えない。


いずれにせよ、ユメに出来ることはない。


ユメは自分の住む町を上空から眺めながら、大人しく巨大な鳥の足に捕まれて成り行きに身を任せた。




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