第52話 再会のもたらしたモノ

 気になる言い方をする悠香に、公子は気持ち、身を乗り出し気味にした。

 しかし、となりの友達は間を置く。公子は続きを待てないというよりも、反応を見られているような気がして、「な、何を」とせっつくような調子で答を求めた。

 すると悠香が、短い間、指差してきた。

「もち、公子のことよ」

「私のこと……」

「より正確に表現するなら、秋山君に対する公子の反応を凄く気にしている。デートの話だって怖くてできないんじゃないかなあって、ちょっと前、ううん結構前から思っていたんだよねえ」

「怖いって? どうして」

「断っておくけど、全部、私の想像だよ。そのつもりで聞くように。――カナは秋山君とのデートしたときの様子をあなたに話して、あなたがほっとするのを見たくなかったのかも。まだ望みはあるって思われるのが怖い」

「え?」

 即座には意味が飲み込めない。分かるような分からないような。

「それだけ、秋山君とのデートは友達付き合いのほんのわずかな延長でしかないってことよ。正直に話したらまだまだ進展してないことが分かるからね。でも、嘘を言う――話を盛ってごまかすこともしたくないだろうし。となると、なるべく話題にしないのが、カナにとって一番の防衛策。どうかしら。私の見方って、ドライ過ぎる?」

「……分かんないけど……」

 要の気持ちを思い描く内に、公子は喉元にじわりとした痛みを覚えた。

「仮に想像が当たっていたとしたら、私、カナちゃんを苦しめていたんだ。ワイナリーのことだけじゃなく、私が近くにいるだけで」

 そうして感じたままを言った――つもりだったが声が小さく、かすれがちになっていたため、悠香の耳に届いたかどうか、定かではない。

 しかし悠香は首を左右にゆっくり振る。

「公子のせいじゃないよ。あんたは悪くない」

「でも、私が転校して戻って来たせいで」

 悠香の顔を見上げる形になった公子。と、そこへ背中に、ばしん!と少々きつい衝撃が走る。

「馬鹿を言わないの!」

 悠香が手のひらで公子の背中を叩いたのだった。

「あんたそれ、自分を卑下するにもほどがあるって。次にまた同じ事言ったら、本気で怒るからねっ」

「う、うん」

 今でも怒られている気がした公子は、思わず萎縮した。だが、次に聞こえた悠香の呟きに救われる。

「あんたと再会できて、どんなに嬉しかったか……」

 右の手首の少し上の辺りの掌で、目元をぐい、とこする仕種を見せた悠香。続いて、洟をすする音が少しした。

「あー、いけない。感情込めて言ったら、泣きそうになったじゃないの」

「ご、ごめん」

 思わぬ成り行きにぺこっと頭を下げた公子。だけど、悠香と目が合うと、「またあんたはそうやって、すぐ謝る」と呆れ声で指摘されてしまった。

「今のはあんたのせいじゃないでしょ。一毫たりとも違う。その前に言った、戻って来たせい云々もそうだよ。自分の責任で起きた出来事なのかどうか、もっと吟味して、ようく考えてから謝るかどうか決めてもいいんじゃないのかなって、私ゃ思うよ」

「はい……」

 場が揉めたら、あるいは揉めそうになったら、一刻も早く丸く収めたい。自分が折れることでそれがかなうのであれば、責任や原因の所在を深く考えずに頭を下げることが確かに多い。改めて気付かされ、反省する公子だった。

(八方美人なだけじゃあ、根本的な解決にはならない。分かっているつもりだったけれども、なかなか実行に移せないんだよね)

 小さく息をつくと、小さく肩が上下した。その肩を、悠香がぽんと叩く。

「手短に済ますつもりが、随分と長くなっちゃったわ。反省は今はそれくらいにして、動こう」

「う、うん、そうね。一成君のことも気になるし」

 もちろん、秋山と要が(頼井も含めて)どうなったのかも気になってたまらないが、今は口に出さずともいいだろう。

「一応聞くけど、公子は一成君の方を頼むってことでいいのね?」

 悠香が順路を前、後ろを順に水戸市ながら問うてきた。

「で、秋山君達のところには私が行って呼んでくるから、ここで合流する。もしも、そうね、十分経っても来なかったら、カナの調子がまだよくないってことになるから、そのときは一成君を連れて、自販機のところまで来て」

「そうだね。それがいいと思う」

 二人とも言葉にはしなかったが、要の気持ちを考えると採るべき選択は一つしかないようなものだった。

(私が行くよりは、ユカが行く方がいいに決まってる)

 とは言え、そのあとどんな顔をして要に接すればいいのかを思うと、悩んでしまう。ため息が重ねて出た。

「大丈夫?」

「うん? 平気平気」

 少し、強がった。

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