第45話 ぎくしゃくと修復

「事実を言ったまでだよ、僕」

「そうじゃなくて、話の流れを考えてくれ。頼むから」

 秋山が頭を下げたのを機に、座が笑い声に包まれた。

 それなのに。

(……カナちゃん、心から笑ってない……)

 公子は要の様子が気になっていた。

 ちゃんと食欲は普段並みにあるようだし、会話も聞いていて話もするのだが、どことなく上の空。そんな風に、公子の目には映った。その印象は食事中、ずっと変わらなかった。


 食事のあと、お風呂を済ませ、子供六人におばさんも加わって、トランプをした。ちなみにおじさんは――高いびき。

 序盤は頼井、一成の両名がそこそこ勝ちを収め、最下位はおばさん。

「これは気合いが入らないわ。賭けよう」

 と、おばさんは一方的に宣言した。

「何をですか?」

 トランプを切りながら、秋山が尋ねる。

 おばさんはしばらく考えてから、提案した。

「明日、みんなでK里まで行くんだったね?」

「そうですけど」

「あそこのSっていうお店のヨーグルト、おいしいのよ。それを賞品にしたらどうかと思ったわけ」

「どういうことですか?」

 トップの余裕からか、頼井が興味深そうに聞いてきた。

「えっと七人だから、上位三名ぐらいかね。トランプを何回かやって、上位三名は下位四名におごってもらう」

「面白そうだ」

 高々ヨーグルトの一つや二つのこと。全員、異存なし。勝負はこれまでの分は含めず、新たに十五回勝負と決まった。

 ここから異常な強さを見せたのが、当のおばさんだった。

 さっきまではわざと負け続けて、みんなを賭けに引っ張り込んだのではないか。そう勘ぐりたくなるほどの強さである。

 結局、ぶっちぎりの強さで優勝。二位は悠香、三位は公子で、以下、秋山、要、一成、頼井と続く。最初調子のよかった二人は、勢いを吸い取られてしまったようだ。

「何か……疲れた」

 頼井は畳の上に倒れ込んだ。真似するように、一成も続く。

「子供が親におごるなんて、聞いたことないよ」

 ふてくされた一成が言うと、笑いが止まらないでいた伊達のおばさん、口調を改め、

「何を言ってるのよ」

 と始めた。

「さっきの、本気にした? 冗談よ」

「ええっ?」

 秋山と一成を除いた四人が、一斉に声を上げた。

「ああでもしないと、本気になれないからねえ、私は。その代わり、お代金を渡すから、まとめて買ってきてほしいの。お願いするわ」

「は、はあ」

 あっけに取られながら、公子達はうなずくしかなかった。

 おばさんの子の一成や、親類の秋山がさして驚かなかったのは、これまでの経験からある程度、こうなることを予測できていたのかもしれない。

「K里では、何をして、どんなところを見て回るつもりだい?」

「僕らの目当てはT町のフィールドアスレチックで、女の子が美術館とM村のオルゴール博物館です」

 叔母に秋山が答える。

「じゃ、別行動?」

「いえ、いっしょですが。朝から行くつもりだから、時間が足りないってこともないだろうし」

「そう。晴れればいいねえ」

 おばさんに言われて、天気のことを思い出した。

「今のところ、降ってないよ」

 カーテンをめくって、外を見る一成。

 秋山が、その後ろから、同じく空を眺めやる。

「曇ってるな。前に来たとき、降るほどの星が見えたのに……もったいない」

 つぶやくのを耳にして、公子はつい、聞いてみたくなった。

「鹿児島の星空とどっちがきれい?」

「それは」

 秋山が答えようとするところへ、要が言葉をかぶせてくる。

「鹿児島って修学旅行で行ったんでしょ? 星を見たって、いつ……」

 はっとして、口に手をやる公子。

(しまった。理由は分からないけど、カナちゃん、過敏になってる)

「もちろん、夜だよ」

 公子が言い淀んでいると、先に秋山が口を開いた。少しもあわてていない、いつも通りの穏やかな物腰。

「普通、夜は男子と女子、別々なんじゃないの?」

「それは眠る頃。僕らが外に出たのは、夕御飯が終わって、しばらく経ってたから……八時過ぎぐらいかな。ねえ、公子ちゃん?」

 秋山が作り話を口にするのを、半ば呆然として聞いていた公子は、反応が遅れてしまった。

「あ、うん、そう。そうだったわ。別に約束してたわけじゃないけれど、地学部のさがかしら。偶然、顔を合わせて」

「そういうわけだよ」

 秋山が微笑みかけると、要は安心した様子になり、一つ、うなずいた。

「何だ、そういうことあったのか。俺も誘ってくれりゃいいのに」

 頼井が軽い調子で言った。

(頼井君、雰囲気を元に戻そうとしてる……?)

「俺も地学部なんだから」

「あれー、その時間、部屋にいたっけか? とっくに外に繰り出していたんじゃないのか、大方」

 秋山が茶化すように言うと、それが当たっていたのかどうか、頼井は表情を強張らせた。

「返す言葉がない……」

「そう言えば、女子の部屋に現れてたって聞いたな。散々、騒いでて、いくら早い時間でも度が過ぎるって、先生が来たとか来なかったとか」

 悠香に追い打ちをかけられ、耳を手でふさぐ頼井。

「聞きたくねー!」

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