第7話 依存

「ハァ……ハァ……」


 森の中でのレベリングと魔法の制御について色々試し疲れた俺は、森を抜けて村の近くの草原で仰向けになりながら息を整える。

 どれぐらいの時間をかけたかはわからないが、昼前に出て日が暮れ始めているのを見るに相当熱中していたみたいだ。


 そのお蔭でステータスはこんな感じになった。



名前 シルヴァン  職業 翻訳通訳士


レベル 13     (未割り振りポイント1,090)

体力  298/298

魔力  27,369,855/ 69,042,643

攻撃力 309     

防御力 309    

敏捷性 338     

精神力 311    

運   200    


称号

 【超大物喰らいジャイアントキリング


▼スキル

 [風魔法Lv1][水魔法Lv1][身体強化Lv2][魔力操作Lv1]

 [翻訳Lv1][通訳Lv1][魔力消費]



 魔力を予想以上に消費したものの、結果として魔法の魔力による威力制御はかなり満足できる仕上がりだ。

 にしても……


「疲れたぁ」

「何してそんなに疲れたの?」

「色々」


 俺の顔を覗き込むようにしながら言ってきた言葉に俺はそう返す。

 俺の視界を覆うように覗き込んできた顔はこの二年近くの間に見慣れた顔。

 右目が金色で左目が薄い紫、髪は初めて出会った時よりも長く伸びた金髪の少女。


「教えてくれないんだ? 態々おばさんに遊んでるって嘘までついてあげたのに?」

「マジか! ごめんホント助かる」

「いいよ別に」


 金髪の少女……フェリシアはそう言いながら俺の隣に座る。

 この二年で俺とフェリシアは仲良くなったのだが、それはほぼ必然だったと言える。


 子供というのは残酷な生き物だ。

 左右で目の色が違うという理由だけで恐れられ、徐々にのけ者にされていったフェリシア。


 しかも最悪な事に彼女の人見知りが孤立するのを更に早めてしまった。

 俺は俺で翻訳通訳士という非力な職業を同い年の子供に馬鹿にされ、孤立していた。


 俺は精神的には子供じゃないから別に一人だろうと全く気にしていなかったが、フェリシアは違う。

 彼女は目の色の違いを言われると泣いていた。それも両親を心配させないために一人で泣いていた。


 それを見つけてしまった俺は彼女をそう設定してしまった罪悪感もあり、積極的に彼女と遊ぶようにしていたのだ。

 結果、俺は彼女の頼れる友人というポジションに収まってしまったという訳だ。


 今では最初に会った時の印象と全く違う少女に変貌してしまったが、それは引っ越してくる前に色々あり他者に対する警戒心が異常に高かったからだろう。

 つまり壁を立てず、本来の彼女の状態で接してくれるぐらいには心を許してくれているという事だろう。


「怪我したなら治してあげるよ?」

「いや、別に怪我なんて……」


 そこまで言って、俺はフェリシアの視線に気づく。

 彼女の視線の先は俺の右腕で、その俺の右腕には軽い切り傷のようなものがあった。


「ごめん、お願いできる?」

「任せなさい!!」


 フェリシアはそう言いながら自身の胸を軽く叩く。

 そして両手を俺の傷口に向けて伸ばし、目を瞑る。

 すると直後、俺の傷口が緑色の光に覆われる。 


 これは魔法が正常に発動した時のモーションだ。

 昔から彼女には例え軽い傷であろうと積極的に治してもらうようにしていた。

 理由は言うまでもなく魔力の増強だ。


 取れるなら[魔力消費]を取得した方が圧倒的に効率は良いが、魔物を狩ってでもレベルを上げていない限りは基本的に取得できるだけのポイントを獲得できない。

 しかしながら魔力を消費して増やす事が出来るのは15歳まで。


 なら例え効率が悪いにしても、多少なりとも魔法を使わせて魔力を増やさせる方が良いに決まっている。

 魔力が増えるのは彼女の今後にとってメリットしかないからな。


「……はい、終わり」

「ありがとう」

「どういたしまして。それでどうだったの? 魔物は狩れた?」

「……魔物? 何のこと?」

「シルヴァンって本当にわかりやすいよね」


 フェリシアは笑いながらそう言う。

 俺ってそんなに顔に出やすいか?

 ポーカーフェイスには多少自信があったのだが、どうやら思い込みかもしれない。


「そんなに心配しなくても大丈夫、多分私しかわからないから。それよりももしかして魔物狩れなかったの?」

「……狩れたよ」

「よかった……ね」


 なんだかうまい事話をそらされた気がするが、聞いても教えてくれないだろうな。

 俺はそう思い正直にそう答えるが、フェリシアの反応は予想とは違うモノだった。

 まるで俺が魔物を狩れたことが残念なような、そんな反応。


「狩れない方が良かったって思ってる?」

「そんな事は思ってないよ。シルヴァンが無事帰って来てくれて滅茶苦茶嬉しいよ。……でも、でもね。シルヴァンが魔物を一人で狩れたって事は、もう翻訳通訳士だからって馬鹿にされないって事でしょ? そうなったら私、また一人になるな、って思って」


 フェリシアは少し涙ぐみながら弱弱しくそうつぶやく。

 なるほどな。

 確かに俺を翻訳通訳士だからと馬鹿にしていた奴等は俺が一人で魔物を狩った事を証明すれば、馬鹿にすることはなくなるだろう。


 だがそれはとてつもなく難しい事だ。

 今まで下に見ていた事や、翻訳通訳士には不可能だと考えている思い込みが絶対に目を曇らせる。


 だから元々は一人で魔物を狩れたことを誰にも言うつもりはなかった。

 と言うか仮に信じて馬鹿にされないようになったとしても、仲良くなろうとは思えない。


「馬鹿にされなくなったら俺がフェリシアじゃなくて馬鹿にしてた奴等と仲良くするって思ったって事?」

「……」


 俺の言葉にフェリシアは無言で頷く。

 その反応に、俺は大きくため息をつく。

 

「大丈夫だって。もしフェリシアの言うように俺が馬鹿にされなくなったとしても、俺はフェリシアをのけ者にしたりなんか絶対にしない。と言うかそもそも一人で魔物を狩れたことは他の誰かに言うつもりないし、仮に馬鹿にされなくなったとしてもアイツ等と仲良くしたいとは思わないから、安心してくれ」

「……本当?」

「本当」


 俺はそう言いながら、フェリシアを安心させるために頭を優しくなでる。

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最弱職が世界最強になる為に必要な三つの条件 黄昏時 @asa

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