終章
大鷲は大空を駆ける
第二十話 一瞬の攻防
――わたしは、なんで泣いている。
美空はバイザーを上げて涙を拭った。まばたきするほどの一瞬、Gでブラックアウトしたようだ。ブラックアウト中に何か悲しい夢でも見たのかとも思ったが、そこまで長く意識は失っていない。コックピット内の乾燥によるただの生理反応に違いない。
『ラーク、来るぞ!』
「了解」
国見の声で緩んでいた緊張を締め直す。
コックピットのレーダーには何も映っていない。だが、美空には何かが近づいてくる予感がする。中国でのクーデター発生を連絡する基地からの通信、航空自衛隊初の非常事態だ。万が一の場合には、実戦も覚悟しなければならない。
『俺は旅客機の機体後方に付く。お前は敵機の進路を妨害しろ』
「了解」
国見機が、
「敵機確認」
レーダーには未だ何も映っていない。しかし、大空を背にかすかに見えた黒い点がみるみるうちに大きくなり、戦闘機の形をとった。美空は敵機に向けて、機体下方に搭載したミサイルを見せる。こちらは武装しているというメッセージだ。
『FC31か、やっかいだな』
国見が敵機を識別した。直進してきた敵機が、わずかに向きを変える。美空もそれに合わせて平行に飛び、敵機の進路がこれ以上中に向かわないよう牽制した。
『
中国軍機から無線が入る。
『C
単なる脅しか、それとも、事前警告か。
『Dur
国見もまた敵機を牽制する。
『
自衛隊機が未だ護衛飛行を続けているため、中国軍機が命じられた作戦行動に移行するかどうか迷っている。
だが、中国軍機の迷いは一瞬だった。
FC31の動きが変わった。ボーイング747の側面に回り込もうとアフターバーナーを噴射し、一気に音速の壁を越え最高速度を出す。空気を切り裂く衝撃波が機体後方に
美空も直ちにアフターバーナーを噴射し、音速を超えた。激しい衝撃に機体が揺れる。ロックオン体制を取ろうと敵機を照準に捕えようとするが、敵機はそれを察知して進路を変えた。
F15はFC31を瞬間最高速度で上回る。美空はFC31の後方から一気に上昇し、いわゆるハイスピード・ヨーヨーと呼ばれる戦術で、FC31の後方にしっかりとついた。
敵機もすかさず機体をロールさせ、F15の照準から機体を外す。
そして、敵機がほんの僅かな隙を作った。未熟なパイロットなら見逃すほどの一瞬、だが、優秀なパイロットなら決してロックオンのチャンスを見逃さない一瞬。
その敵機が見せたわずか一瞬の隙で、美空は悟った。
――このままでは、
――しかし、命令に反して中国機を墜とし万が一戦争になれば、大勢の人間が死ぬ。そんな事態は絶対に引き起こしてはならない。
もし、美空が一瞬でも迷ったら、
「マーベリック、ラーク機をサイドワインダーでロックオンしろ」
『なんだと!』
美空の不可解な指示に、冷静な国見が怒鳴った。
「このままでは旅客機が墜とされる。他に方法がない」
『了解、ラーク機のロックオン体勢に入る』
無線の通信に遅れることなく、旅客機後方に位置どっていた国見が離れた。一瞬の攻防で勝敗が決まる空戦では、わずかな迷いが致命的となる。だから、パートナーの指示は絶対だ。それが、どんなに不可解な指示であっても。
機体のアラートが鳴り、国見のF15が美空の乗るF15にロックオンのレーダー波を照射したことを知らせる。
――よし、準備は整った。
美空の操縦する
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