第三話 将来の夢
「すごい」
美空の部屋に通された
「男の子の部屋みたい」
自分の部屋と全然違う飾りつけに、
「でしょー。私、戦闘機が好きなの。ちなみに、これがバルキリー。ファイター、ガウォーク、バトロイドの3つに変形するの」
「へー」
ウケを狙って、それって戦闘機じゃないじゃんというツッコミを期待した美空だったが、
「ま、これは置いといて。本命はこっち。私はF15のパイロットになりたいの。イーグルドライバーよ」
美空が目をキラキラさせて、一台の戦闘機のプラモデルを手に取った。
「か、かっこいいね。トップガンで、トム・クルーズが乗ってたやつだ」
「違う違う。トム・クルーズが乗ってたのはこっち。F14、通称トムキャット。トムつながり」
美空が、別の戦闘機のプラモデルを
「おんなじに見えるけど」
「全然違うじゃん! F14は可変翼で二人乗りの複座でしょ。F15も複座はあるけど基本、一人乗りの単座だし、翼も固定翼。上から見るとシルエットが違うのでわかりやすいかな」
美空が両手に戦闘機を持って、
「そうね。言われてみると、そっちのF14の方がエレガントな気がする。F15はなんか野暮ったいような」
「そこがいいんじゃない! このいかにも戦闘機って感じがF15の魅力なのよ!」
美空の押してはいけないスイッチを押してしまったようだ。
「最近のステルス機は、こんな形になってるの。これがF35」
美空が黒っぽい機体を取り出す。
「翼胴一体設計っていって翼と胴体につなぎ目がないでしょ。レーダーの反射波を最小限にするために、全体的に凹凸を押さえて丸っこくなってるの。それと、F14やF15はミサイルが主翼の下に取り付けてあるけど、こっちのF35には付いてないでしょ」
美空が、F35の底面を
「本当だ。ミサイル搭載してないんだ」
「違う違う。外から見えないように胴体の中に入ってんの。ミサイルが外にあるとレーダー波を反射するから。ほら」
美空が、F35の底面の蓋を開けると中にミサイルが入っていた。
「へー、良くできてるね。そのプラモデル」
「まぁ、プラモデルというか、もとの機体が良くできてるんだけど」
美空が、ちょっと不満そうな顔をした。
「じゃあ、その新しいF35ってやつの方が、F14やF15よりも強いんだね」
「ちょっと待ったー! それは聞き捨てならない!」
また、変なスイッチを押してしまったようだ。
「そもそもレーダーに映らないステルス機ってのは、敵に察知される前にミサイルを遠距離から撃って撃墜するってのが前提なのよ。でも、実際には領海侵入した敵機には攻撃する前に警告して、それでも後退しない場合に戦闘になるんだから、ステルス機という思想そのものに矛盾があるの」
「なるほど」
「それに、必ずしもミサイルが当たるとは限らないし、レーダーで探知されることだってある。その時は格闘戦になる」
「えっ? これもロボットに変形するの?」
どうやって変形するんだろうと、
「違う違う。有視界で戦闘機どうしが撃ち合うの。いわゆるドッグファイトってやつ。まぁ、ドッグファイトってのは昔の水平面での旋回を基本にした戦闘が、犬が互いの尻尾を追いかけるようだと比喩した言葉で、現在の上下方向のダイナミックな動きを伴った三次元軌道での空戦はエアーバトルっていうんだけどね」
これがミリタリーオタクという奴かと、
「そうなったら、F15は強いわよ。機動性は最新のステルス機にも負けてない。なんてったって、実戦では無敗を誇る世界最強の戦闘機なんだから」
中三の美空が中二病のキーワードを嬉々として使う。
「私は、このF15のパイロットになりたいの!」
「でも、戦闘機のパイロットって、戦争になったらどうするの? 殺したり殺されたりするんじゃないの?」
「まぁ、その時はその時」
「そんな、気楽な」
日本と中国は友好国ではあるが同盟国ではないし、時々、ニュースで、自衛隊機が中国機が接近したので出動したとか報道している。美空の能天気な態度が、少し
「今度、F15見に行こうよ! 基地の公開はコロナで中止になっちゃったけど、毎日訓練で飛んでるから、基地の近くに行けば飛んでる姿を見ることができるの」
あまり興味のない
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「ここが絶好のスポット」
田舎の路線バスに揺られ、バス停からとことこと歩くこと30分。ふきっさらしの平地に出た。そして、辺鄙な場所にも関わらず、カメラを持った人たちが撮影のスタンバイをしている。年配の男性が多いが、数は少ないが大学生らしき若者や女性もいた。
「初心者は双眼鏡だと視野が狭くなるから、肉眼で見た方がいいよ」
美空は、完全にベテランの物言いだ。広場からは基地の滑走路や戦闘機がとまっているハンガーが一望できた。
「ほら、空から降りてくるのがT2。あれで練習してから、F15に乗るのよ」
空から小型のジェット機が降りてきた。ジェット機からは体の底から振動するような轟音が響く。戦闘機が醸し出す本能的な恐怖感と、それに伴う興奮が
「F15が発進するぞー」
おじさんの声で、その場にいる皆に緊張が走った。滑走路に美空の部屋にあったプラモデルと同じ形の飛行機が止まっている。そして、動き始めたと思った瞬間、瞬く間にスピードを上げ、一瞬で飛び立った。斜め上空へ一直線に上昇し、あっという間に小さくなる。
「すごい」
何度も中国と日本を行ったり来たりしている
「でしょう! もう、一目惚れだよ」
美空の目がキラキラしている。
「小学生の時に、お父さんに連れられて基地祭に行ったのよ。そこで、もう完全にまいっちゃった。私は絶対にイーグルドライバーになる」
「イーグル?」
「そう、F15はイーグルって呼ばれているの。大空を飛ぶ大鷲。そのイーグルを操縦するのが、イーグルドライバー」
「女の子でもなれるの?」
言ったとたん、しまったと
「もちろん」
だが、美空の返事は
「アメリカにも日本にも、女性のイーグルドライバーがいるよ。イーグルに乗るのに男も女も関係ない」
「そうなんだ。すごい」
女性でもあんな凄い戦闘機を操縦できるという事実が、
二人は暫し、基地から飛び立ち、また、空から基地へと降りていく戦闘機を眺めていた。
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「美空はすごいね。しっかりとした夢があって」
帰りのバスはガラガラで、二人だけの貸し切り状態だ。
「
「私は別に」
父親の仕事の関係で、来たくもない日本に連れてこられた自分には、特にやりたいこともなかった。
「なんか、好きなことは? こんなことできたらいいなとか思ったことないの?」
「わたしは、」
自分がやりたいこと、好きなことはいったい何だろうと
「わたしは、日本人と中国人が仲良くして欲しい。中華料理を食べて、三国志も知ってるし、漢字も使ってるんだから、もっと仲良くなれるはず。嫌な奴だっているけど、美空みたいな人もいる。ちゃんとお互いにいいところを見ればいいのに、嫌なとこばっかりみてる。そういうの止めて欲しい」
自分でも思ってもいなかった言葉が、
「ごめん、なんか文句ばっかで」
「すごい!」
「えっ?」
美空の反応に
「わたしは自分の好きなことしか考えてないのに、
美空の言った政治家という言葉に、
「
中国で一番偉いのは総書記だけど、余計なツッコミはやめておこう。
「
国が違うからそれはちょっと無理だけど、美空の気持ちが
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