大鷲は大空に叫ぶ
第四話 急襲
「ラークからマーベリックへ。異常なし」
『マーベリックからラークへ。こちらも異常なし』
美空が747の窓を見るが、美空の視力を持ってしてもさすがに
美空も、もう少女ではない。念願のイーグルドライバーになるまでには、泣きたくなるような厳しい訓練に耐えた。楽しそうに見えたフライトも、強烈なGを伴う飛行は体が悲鳴を上げるし、訓練中に亡くなったイーグルドライバーもいる。だが、操縦席に座り、大空を
そして、今日、
747の巡航速度、時速912kmで一時間ほどのフライトも、もうすぐ終わりだ。ここまで無事何事もなく、あとは中国空軍に引き継げばよい。だが、任務終了直前、航空自衛隊発足以来一度として起きたことのない緊急事態が尖閣諸島沖で発生した。
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『メーデー、メーデー、こちらボーイング747-8中国政府専用機。直ちに日本領内に引き返し、緊急着陸を要請します。繰り返します、メーデー、メーデー、こちらボーイング747-8中国政府専用機。直ちに日本領内に引き返し、緊急着陸を要請します』
突如、緊急の救助要請が入り、中国政府専用機が旋回運動を始めた。
『マーベリック、ラーク、緊急事態発生』
新田原基地で今回の任務の指揮をとる最上空将からも、緊急で無線が入った。
『中国でクーデターが発生した模様。詳細不明。マーベリック、ラークの両機は警戒せよ』
『了解』
「了解」
本能的に詳細な情報を要求したくなるが、訓練で鍛えた体は自動的に警戒態勢をとる。
『日本政府に緊急着陸の是非を確認中』
最上空将からの追加情報が入る。美空は操縦桿を握る手袋の中に緊張で汗が溜まるのを感じた。
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「どうなっている?」
「中国人民解放軍から日本政府に連絡が入っています。『反革命を企てた
「政府の対応は?」
「首相がアメリカ大統領にホットラインをかけています。今回の行動が
最上の顔が苦渋で歪んだ。
「いつ、戦闘になるかわからん。国見、鷲津機が、戦闘と退却、いずれもできるよう支援しろ。沖縄基地にスクランブル要請」
護衛対象が日本政府専用機であれば、当然のことながら戦闘以外の選択肢はない。だが、現在の任務は実質的な中国政府専用機の護衛だが、名目上は哨戒任務だ。日本政府の判断次第では見捨てる可能性もある。いや、見捨てる可能性が高い。非情だがそれが現実だ。だが、前線にいる者たちには割り切れない感情もある。間違っても感情的な行動はするなよ、最上の心に僅かながら不安がよぎった。
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「
「
「
「
「
だが、
――天よ、私は死んでも娘の命だけは助け給え
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ボーイング747と、二機のF15に密かに近づく機体があった。
FC31、その形状がアメリカ軍の最新ステルス戦闘機F35に似ていることから、密かにF35の設計データが流用されたとも噂される中国が開発した第5世代ステルス戦闘機だ。コードネームは
さらにFC31が接近し、搭載したレーダーホーミングミサイルの射程にターゲットを捕らえた。
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『ラーク、チャフを撒け』
「了解」
万が一の事態に備え、2機のF15がボーイング747の周辺にレーダー探知を妨害する
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「日本政府の対応が決まりました。日本の領海内にボーイング747が侵入後、敵機が攻撃の意思を示せば撃墜を許可、公海上空では撃墜禁止」
「マーベリック、ラーク、聞こえたか。命令を復唱せよ」
最上が、国見と鷲津に防衛方針を指示する。
『マーベリック、命令を復唱します。日本の領海内にボーイング747が侵入後、敵機が攻撃の意思を示せば撃墜を許可、公海上空では撃墜禁止』
『ラーク、命令を復唱します。日本の領海内にボーイング747が侵入後、敵機が攻撃の意思を示せば撃墜を許可、公海上空では撃墜禁止』
――自力で逃げ切れれば助けてやるか。日本政府らしい判断だ。だが、旅客機が戦闘機の攻撃から逃げることなど不可能だ。
それが空戦戦術家としての最上の冷静な結論だった。
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『ラーク、来るぞ!』
「了解」
コックピットのレーダーには何も映っていない。だが、美空には何かが近づいてくる予感がする。国見も同じことを感じているのだろう。日本領海まで10分。たった10分だが途方もない距離だ。
『俺は旅客機の機体後方に付く。お前は敵機の進路を妨害しろ』
「了解」
国見機が、ボーイング747の後方に就く。レーダーホーミング誘導ミサイルはチャフによって妨害されている。もし、敵機が赤外線ホーミング誘導ミサイルを発射したら、熱を発するデコイを発射し誤爆させる戦術だ。だが、防御に徹するだけで、はたしてどこまで守れるのか。敵に尻を向ける態勢は、墜としてくれと言わんばかりだ。
「敵機確認」
レーダーには未だ何も映っていない。しかし、大空を背にかすかに見えた黒い点がみるみるうちに大きくなり、戦闘機の形をとった。つまり、敵機はレーダーに映らないステルス機だ。美空は敵機に向けて、機体下方に搭載したミサイルを見せる。こちらは武装しているというメッセージだ。
『FC31か、やっかいだな』
国見が敵機を識別した。中国空軍が開発した最新のステルス機だが、中国国内での配備は確認できておらず、中国国外での運用を前提としている。そのため、正規軍としての出動なのか、軍の一部の暴発なのか判断ができない。
直進してきた敵機が、わずかに向きを変える。美空もそれに合わせて平行に飛び、敵機の進路がこれ以上中に向かわないよう牽制した。
『
中国軍機から無線が入る。
『C
単なる脅しか、それとも、事前警告か。
『Dur
国見もまた敵機を牽制する。
『
自衛隊機が未だ護衛飛行を続けているため、中国軍機が命じられた作戦行動に移行するかどうか迷っている。その迷いが長ければ、その分距離が稼げる。1秒迷えば300m、10秒迷えば3km、日本領内に近づける。
だが、中国軍機の迷いは一瞬だった。
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