他が為でなく君に詠むこの歌は確かに存在した。あの日君と出会えたから俺はこうして生きていられる。願わくば最期に君に会いまた愛を届けたい。

ガーネット兎

第1話


 ある港町 どこにでもいる少年ミナトは海辺で海を見ながらある歌の歌詞を口ずさむ。

「寂しそうなその横顔 私はそっと頬に手をあてる

 貴方の涙を伝うこのぬくもりが 私の胸を熱くさせる ラララ 幾世幾夜を越えようと 私達の愛は消えないのだから」


 この歌は知らぬ間にミナトの脳裏に張り付いて消えない。一体どこで聞いた歌だったのだろう。


 親に聞いても知らないと言われ、

街のレコードショップに行ってもそんな歌は知らないと言われた。


 ミナトはこの歌が大好きだ。何故か心に染みるメロディで何か大切なものを感じる歌だ。


 何か大事なものを忘れているのではないだろうか。

その答えのヒントが海にある気がした。

そんな何か不思議な感覚を覚えて、

いつも海辺で歌を口ずさむ。


 そんなある日ミナトは小さな小舟を借りて近くの島にやってきた。


 その島は人による手入れがされてない無人島だ。何故この島だけ誰も住んでないのか。


 その昔この島は流罪になった罪人の島だった。

しかし島で暴動が起きて討伐隊が組まれて島は全焼。

生きている罪人は全て殺されたいわくつきの島だ。


 幽霊が出ると噂が度々起こり誰も住まなくなった。

ミナトは小舟を降りてその島に降り立つ


 呼ばれている? 何故かそんな予感がして島の中に足を運ぶ


 気がつくとあの歌を口ずさんでいた。

目からは何故か涙が出てくる。


 俺が探しているものがこの先にあるというのか。


 そこにあったのは何もないただの岩だった。


 しかしミナトは涙を流してその岩を抱きしめる。


 何故か愛しさと寂しさが込み上げてきた。

岩にはメッセージが彫られていた。


 それは知らない言葉ではあるが、

何故だかわからないが読むことができた。


「親愛なるクリスティーヌよ我は君を護れず、逆に君に助けられて生き延びてしまった。君なしには生きられないというのに。この世界は残酷だ! たった一つ君だけがいればそれだけで良かったのに、

その君を奪ったのだから。君のだけの為に作った歌を君に送るよ


『寂しそうなその横顔 私はそっと頬に手をあてる

 貴方の涙を伝うこのぬくもりが 私の胸を熱くさせる ラララ 幾世幾夜を越えようと 私達の愛は消えないのだから』


俺は君を奪った敵を敵国の兵を許さない。

これから君の元へ向かうよ。

敵を撃ちながら。

君が死んだら僕も生きる理由なんてないのだからね。


by貴方に仕えて愛してしまった騎士ギルバート」



 それはただの石ではなく石碑だった。

気がつくと辺りはオレンジ色に染まり、

海に沈む夕日が眩しかった。


 ふと振り向くと、とても綺麗ではあるが透けている女性が立っていた。


「もしかしてクリスティーヌさんですか? 」


「...」


 クリスティーヌさんは悲しそうな横顔を浮かべ、ミナトの頭に手を置こうとしたが、

出来ずに消えていった。


 ミナトは夢か幻を見た感覚を受けたが、

この石碑に刻まれている歌と自分の記憶している歌が同じである事で無関係とは思えなかった。


 次の日もこの島に小舟でやってきた。

今日は何故か石碑とは別の方へと導かれる感覚を覚えた


 そこは何の変哲もない場所ではあるが元々家があった

場所だろう。

何か走馬灯の様な記憶がミナトの頭の中に入ってくる。


「うっ?」


 それは昨日の幽霊のクリスティーヌさんが白いうさぎを大事に撫でていた。

それはそれは大事に育てられていた。

庭には柵つきではあるがうさぎの散歩スペースと小屋もある。

だがクリスティーヌさんは毎日白いうさぎを抱いて寝る。

余程怖い事があったのか毎日泣いていた。


 家には騎士が居てその騎士は忠誠心が高く

祖国を追われたクリスティーヌさんを護りながら、

この島まで逃げて来たようだ。

クリスティーヌさんの大事なペットの白うさぎを抱えて


 ある日騎士ギルバートはある手紙を白いうさぎの私の首輪に挟んだ。


 クリスティーヌは顔を赤らめてその手紙を読んで嬉しそうだった。


 走馬灯の様な記憶から現実に帰った時はまた、

オレンジ色の夕日が海に沈む時間だった。

そして幽霊のクリスティーヌさんが抱きしめる様に現れ消えていった。


 次の日もミナトはこの島に小舟でやってきた。

あと少しあと少しで何か思い出せそうだった


 今日も別の場所に導かれる。

そこは島の崖付近

またミナトの脳裏に走馬灯の様な記憶が浮かぶ。


 騎士ギルバートが頭を抱えながら手紙を書いている風景。そしてその後移り変わり騎士ギルバートが敵と交戦している風景へと。


 騎士ギルバートは傍にいる白いうさぎの首輪に手紙を巻きつける。

クリスティーヌさんに渡してくれと言って次々とやってくる敵を薙ぎ倒していた。

白いうさぎは怖くなり走ってクリスティーヌさんの家に戻る。


 クリスティーヌさんは白いうさぎを見つけると抱きしめてクローゼットに隠れる


 また走馬灯から我に帰った私を幽霊のクリスティーヌさんは優しげに微笑みながら消えていった。


 自分は一体クリスティーヌさんやギルバートさんと何か関係があるのか? わからない。


 次の日もこの島にミナトは小舟でやってきた。

この日も何かに導かれる様な感覚を覚えてある場所にやってきた。

それは最初に来た石碑のすぐ近くの石だった


 そこでまた走馬灯に再び襲われる。それは今までの比ではないくらいだった。


 白いうさぎ名はミュウ。ミュウは衰弱していた。

狼に狙われて逃げ延びたは良かったが、足を怪我して衰弱していた。

そこにクリスティーヌさんが通りかかってミュウを保護した。

手厚い治療のおかげで足は治りクリスティーヌさんという家族ができた。


 クリスティーヌさんはとても優しくいつもミュウの側にいた。ミュウもクリスティーヌさんの周りを回ったり撫でられて喜んでいた。


 一年の時がすぎてクリスティーヌさんの元に急報が告げられる。敵国がクリスティーヌさんの父を殺して領土を侵略していると。クリスティーヌさんは涙を流していた。


 しかし状況は悪い。一刻も早く逃げなければならない

状況下、騎士ギルバートはミュウとクリスティーヌさんを乗せて急いで屋敷を出た。それは長い旅だった。

不安だった。そんな中誰よりも不安で悲しいはずのクリスティーヌさんは不安気なミュウを気遣い、撫でていた。


 遂に船に乗りクリスティーヌさんの別荘であるこの島にやってきて一安心した。

ミュウも広いこの島でのびのびと走り回っていた。


 そんな折時たま騎士ギルバートがミュウの首輪に手紙を挟みクリスティーヌさんがそれを取るやり取りが続く。

こんな平和が続くといいなとミュウは思っていたが、

島に敵兵が押し寄せて来た。


 騎士ギルバートは敵を切りきざむ。

ミュウは最後の文をクリスティーヌさんに届ける。


 ミュウはクリスティーヌさんに抱かれてクローゼットに隠れる。


 騎士ギルバートが帰ってくるが敵もこの家を嗅ぎつけており敵は多い。


 騎士ギルバートは奮戦した。愛するクリスティーヌさんを護る為に 


 ミュウは怖くなりクリスティーヌさんの膝からジャンプして物陰に向かう


 クリスティーヌさんはミュウを追いかける。

丁度その時、敵は弱りきった騎士ギルバートにトドメを刺そうとしていた。


 クリスティーヌさんは騎士ギルバートを庇い死んでしまう。ミュウはとても怒り敵を引っ掻いた。


 敵はミュウをも殺した。


 騎士ギルバートは憤怒の表情で敵を殺してその場を逃げのびた。


 騎士ギルバートは泣きながらこの場所にクリスティーヌさんの石碑を作り、傍にミュウの墓も作った。死んだミュウの首輪に愛するクリスティーヌに詠んだ歌が書かれた手紙を括り付けて。


 騎士ギルバートはその後ひっそりと戦死した。


 ミナトはミュウの生まれ変わりであったのだった。


 ミナトは涙を流した。涙が枯れ果てた時には、

夕暮れの太陽が海に沈む時刻になっていた。


「クリスティーヌさん家族になってくれてありがとうございます。ギルバートさん貴方の想いは私が届けましたよ」


 ミナトはクリスティーヌさんとミュウの墓の手入れをしてこの島を出た。


 ミナトは亡くしていた大事な大事な記憶と愛のメロディを胸に、強く生きていくと亡き家族に誓った。

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他が為でなく君に詠むこの歌は確かに存在した。あの日君と出会えたから俺はこうして生きていられる。願わくば最期に君に会いまた愛を届けたい。 ガーネット兎 @aoyamagakuin

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