弌 還す者
国京はまっすぐ人間に向けて鎌を振り下ろす。
断末魔とも呼べる叫び声が校内にこだました。
「ウルセェ」
大村は手で両耳を押さえる。
魂を失った感情は小さく小さく分散する。
小さく分散した感情は全て回収しないければ大惨事になる。
感情が負であればあるほど、大きければ大きいほど他人の感情に干渉する。
そうすると言葉通りの、負の連鎖が起こる。
「こんな暴走見たことねぇ」
ポカン、と大村は口を開けて暴走を見つめる。
「見てる場合じゃないだろ」
国京は大村の頭を小突く。まぁ自分がやったんだけど、とでも言うように笑うと国京の持つ鎌がだんだんと影を纏う。
「全部まとめて【還す】」
濃い影を纏った鎌を掲げると、感情だったものが怯えるように一箇所に集まり始めた。
そして歯向かうように、魂を失い分散するはずの感情がまた一つになった。
「これで狩りやすくなった」
再度国京は大きな鎌を振り下ろした。
「いやいや、あり得ないだろ。感情だったものが別の感情を持つとか…」
なにぶつくさ言ってんだ、と大村を睨みつける。
「はっはっは、夕輝の鎌は変わるからな」
後処理をいやいやする国京と、ブツブツと何かをつぶやき続けている大村の元に主任が音もなく現れた。
「変わるってそんなことあるんですか?!」
普通はないよなぁ!と主任は高らかに笑う。
「でもこの世に絶対はないからな」
そう意味深な言葉を残して主任は消えた。
国京はチッと舌打ちをする。本当に癪に触る上司だな、とでも言うように。
「どう言うことだよ、国京!」
「どうもクソもねぇだろ。わたしの鎌は元々は憎しみの感情から生まれたもの。
その感情を意図的に変えたら変わるんだよ。それ以外は知らん」
天使たちの持つ鎌は元々は負の感情から生まれる。
感情から生まれた鎌は、負の度合いが大きければ大きいほど力を増す。
そして一度その鎌にあてられたものはその感情に耐性を持つ。故に天使たちが鎌を顕現させ【還す】際には一撃でないといけない。
それを意図的に変えられるなんて最強じゃねぇか、と大村は呟いた。
「生きているうちにいろんな感情が強くなりすぎただけだろ」
大村に聞こえないようにそう呟く国京の顔はどこか寂しげだった。
最後の天使は夕焼けに微笑む @yuyuyu06
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