夜明け前1

「ユメリアが……」

 薄暗い事務所の廊下でそれを聞き、ナギはその場に座り込んだ。目の前には、リウとジュディ。

「危ないから来るなっていったんだけどよ、どうしてもって」

リウが苦々しげにジュディを見た。

「すまない……ルビーがついていながら」

「ごめんよ……あたしがもっと警戒しておけば……」

リウとジュディの声が重なった。


「だ、誰に、どんなヤツに」

 呆然とつぶやくナギに、ジュディが説明した。酒場に赤ん坊を抱いた女がきたこと。女はジュディの家の近くを通りかかり、赤ん坊を預けられて困りきったミッチから、「劇場にいるジュディに届けてくれ」と赤ん坊を託されたらしいこと。ユメリアが顔を出すと、その女がジュディらの制止を振り切ってユメリアを連れ去ったこと。

「どんな女だった」

問いかけるリウの声が、ナギにはひどく遠く聞こえる。

「フードをかぶって顔はわからなかったけど……えらくきれいな金髪だったね」

「俺らを襲った女だ」

ナギがつぶやいた。

「俺たちの家のまわりを、まだウロついていたんだ……」

「あの女、『ユメリア』って驚いた顔をしてた」

「顔見知りってことか?」

「わからない……」

「とりあえず、俺も探す。手が空いているヤツには声をかける。ナギはここにいろ」

「……ユメリア……」

ナギが這うように出口へ行こうとする。

「お前まで襲われたらどうする」

リウがナギの襟首をつかみ、寝床がわりの物置へ引きずる。ジュディがつぶやくように言った。

「あの子……ユメリア……あたしをかばったんだよ。おっかない剣で斬られるってのに」

ナギは唇をかむ。目に見えるようだった。あのひとは、そういうひとだ。

「迷わず、あたしにかぶさって」

ジュディの声が揺れている。

「あの子を……ユメリアを……助けてやっておくれ」


 そのとき、入り口に誰かが来た気配があった。見張りともめているらしい。「だから急ぎなんだよ! リウ、リウを呼んでよ」と、いらだった少年の声。

「チェ、どうした」

「ジュディってひとの家にこんなのが届いてたって」

 少年の手には、小さなカードが握られていた。

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