劇場にて1
ジュディの家へ向かったリウは、予想どおりの反応に直面した。
「劇場、ですか……」
ユメリアは戸惑い、うつむいた。
「何も芸をしろってわけじゃねえ。身を隠すだけだ。あそこはうちの身内がやってる。踊り子には女が多いし、みんな濃い化粧してるからな」
「ちょっと」
横で聞いていたジュディが割り込んだ。
「劇場ってあれだろ。色街近くでやってるっていう。この子に変なことさせんじゃないだろうねッ」
「させねえよ。俺の女も働いてる」
「それがなんだってんだい⁉︎」
リウは肩をすくめて取り合わなかった。
「で、ユメリア。いまから行けるか」
「ナギさんは……」
「あいつは街の事務所で寝泊まりする。夜も誰かしらいる。心配いらない」
ユメリアはうつむいて、胸の前で手を握った。その肩に、ジュディがそっと手を添える。
「あたしも行くよ……」
「ジュディさん……?」
ユメリアが目を丸くした。
「いや、あんたは……」
「この子におかしなことされちゃ、かなわないからね!」
「させねえって」
ジュディはかまわず、家の奥に向かって大声で呼びかけた。
「ミッチ、あんた、ひと晩ぐらい子どもたちのめんどう見られるだろ!?」
「ええ……おまえ、それは……」
顔を見せたジュディの夫・ミッチは、あきらかに戸惑っている。
「無理だろ、赤ん坊いんだろうが」
たしなめたリウを、ジュディがキッとにらみつけた。
「赤ん坊は工場で働いている女たちの子どもを預かってんのさ。この年であんな赤ん坊がいるもんか」
「でも……ミッチさんにもご迷惑が」
「いいから行くよ! それで劇場ってやつは、どこなんだい」
ユメリアとジュディがリウに連れていかれた“劇場”は、ただしくは酒場だった。酒場がはけたあと、テーブルやいすをどかし、仮のステージを作る。そこで行われる出し物を、観客はフロアと中二階の通路から見るという趣向だ。
「流行りの一銅貨劇場ってやつさね。いかがわしい」
ジュディは顔をしかめた。入場料はその名の通り、銅貨一枚だけ。なんでも首都・スワンプフォートで流行っており、それがここリュートックにも持ち込まれたらしい。
中二階の端にある急峻なハシゴがあった。リウはそれを指さす。
「あの上に、ルビーって女がいる。俺はここで。明るいうちにナギを送る」
ハシゴの先は屋根裏があり、そこに布を垂らして仕切り、演者たちの控え室がわりにしているらしい。
ユメリアとジュディを出迎えたのは、ブルネットで厚い唇が印象的な女だった。ユメリアとジュディをまじまじと見て、くっきりとした眉を片方だけ上げる。
「あら、使いの子からは、女の子ひとりって聞いていたけど」
ジュディが口を開く前に、ユメリアがあわてて言った。
「わたしひとりでは心細くて。それでご近所の方に」
「ジュディだよ」
ぬっと差し出された手を、女が握る。
「わたしはルビー」
ユメリアもおずおずと右手を出し、挨拶をした。
「この子に変なことさせんじゃないよ」
ここでも釘を刺したジュディに、ルビーは妖艶に笑って言った。
「おかしなことなんてさせないけど。ここに来たからには、しっかりまぎれてもらわないとね」
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