波紋1

「リウ! やっと見つけた」

 昼下がり、腹ごしらえをしてパブを出たリウを、少年が呼び止めた。

「チェ、どうした」

少年は、膝に手をついて息を整えた。

「リウ、男が、菓子……」

あわててしゃべろうとして、はげしくむせる。

「なんか食うか。昼飯おごるぞ」

「そんな暇ない」

袖口をつかんだチェの真剣な目を見て、リウは姿勢をあらためた。

「おかしな男がナギを探している」

なんでも身なりのいい栗毛の男が、「ナギの居場所を教えてほしい」と子どもたちに菓子を配りまわって聞いていたのだという。

「知らないヤツからもらった菓子なんて食うなって取り上げた」

さいわい、菓子には毒など仕込まれていなかったようで、子どもたちに害はなかったと、チェはつづけた。

「でも、あいつら、ナギの家、教えたって。だいたいの場所だって言ってたけど、よそもんに仲間売るようなマネ……」

「ナギを?」

ボリスや組織が抱えるトラブルに心当たりはない。第一ナギは下っぱで、しかも荒事にはあまりかかわりがない。本当に知り合いなのかもしれないと考えたリウの心に影をさしたのは、チェの言葉だった。

「昔の知り合いだって」


――あいつ、貴族殺して逃げてきてんだよな。


ナギを脅迫していた女衒ぜげんも、昔の知り合いだったはずだ。


「それとムイが変なこと言ってて」

その名を聞いて、リウがやや顔をしかめた。ムイは少年たちのなかでも手ぐせが悪い。その見境のなさには、リウも少々手を焼いていた。

「あいつ、その栗毛の男から財布をすったんだけど、中身、ぜんぶガラクタだったって。ふつうじゃないと思う」

「それで俺に。ありがとな」

リウはチェの頭をくしゃっとなでた。

「そんな顔すんなって。きっとだいじょうぶだ。あとは俺らでなんとかするから」

昼飯食っとけ、と駄賃をチェに渡す。足早にナギのもとに向かおうとしたリウの胸には、どうにも嫌な予感が充満していた。子どもたちのなかでも年上のチェの勘は、あなどれないものがある。


――ナギの家を、教えた。


チェの言葉を思い出したリウは、足を止めた。ナギはボリス宅で庭仕事をしている。いま、家いるとしたらナギの嫁、ユメリアだ。

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