懊悩

 オリバーと再会した日の夜。酒場からの帰り道、しこたま嘔吐し、ナギはふらつきながら帰宅した。


 ユメリアが目を丸くして出迎える。


「ナギさん、どうしたの? リウさんに飲まされたとか……?」

「遅くなってごめんなさい。ちょっと調子に乗って飲み過ぎて……」


 ユメリアが差し出した水を飲み、「気分が悪くて」とすぐに床に入ったものの、目が冴えた。


――これから俺たちはどうなる。俺が警察につかまったら、このひとはひとりになる。そうしたら……。


おそらく、オリバーは彼女を毒牙にかけるだろう。


――その前に、彼女をゲルバルドさんのもとへ……。いや、もし警察に足がついたら、オリバーが追跡したら、ゲルバルドさんに迷惑が……。それに、ロマノフスカヤの屋敷に近い。彼女がアレクに見つかったら……。このひとは、ひとりで逃げきれるだろうか。


オリバーの要求する大金は、ナギにはとても用意できそうにない。それと、オリバーは「まずは金貨五枚」と言った。


――これからも俺は、俺たちはあいつに脅されつづけるのか? 


「眠れないの? 気分、まだ、悪い?」


 ユメリアが寝台に腰かけ、背中をさすった。


「疲れてたかな……」


ごまかして、彼女に背を向ける。しばらくすると、ユメリアが、だまってナギの背中を抱いた。


「あのね、困ったことがあったら言ってね。ふたりでいっしょに考えよう」


ナギは唇を噛む。


「ナギさん、ときどき、お金のこと心配してくれてるでしょう。でも、わたしも仕事に慣れたら、もうすこしたくさん働けるようになるし、ゲルバルド様からいただいたお金や、松のお世話したお金だって取ってあるもの」


事情を知ったら、ユメリアはきっと、体を売ると言う。だからこそ、彼女には知られたくない。


「ひとりでがんばろうとしないで」

「あなたが心配するようなことは、何もないですよ」


 ナギはからだの向きを変え、ユメリアを抱きしめ返す。


――このひとだけは、ぜったいに守る。


 しかし、次の日、それが難しいことを思い知らされることになる。

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