辺境のゲルバルド編
少年は、見知らぬ屋敷で目を覚ます
少年は、目を覚ました。
白く、なめらかな天井が目に入る。
庭師の小屋とも、孤児院ともちがう。
――ここはどこだろう。
ずいぶん、長く眠っていたような気がする。
たくさんの夢を見ていたが、内容はよく思い出せなかった。
体を起こそうとするが、力が入らず、上手くいかない。
しかたなく寝返りを打ち、周囲のようすをうかがった。
向かって左に天井近くまで開けた窓があり、気持ちのよい風が吹き込んでいる。
よく磨かれたマントルピース。
その上に置かれた、銀に輝く燭台。
重厚なテーブルに、びろうど張りの背もたれがついた椅子。
繊細なレースに縁どられたテーブルクロス。
そして、白いシーツがかかった、広々とした寝台。
まるで貴族のもののよう……と考えて、ハッとした。
――俺は、あいつか、アレクに捕まったのか。だとすると、彼女は?
廊下から、誰かの足音が近づいてくる。
少年が身構える間もなく、扉が開いた。
入ってきたのは、少女だった。
簡素だが、質のよさそうな灰色のドレスに身を包んでいる。
「庭師さん!」
少年の姿を見るやいなや、少女は手にしていた盆をテーブルに置いた。
そして、寝台に走り寄り、少年に抱きついた。
「お嬢様……?」
庭師さん、庭師さんと繰り返し、彼女がやがて泣き始めた。
「どうしたんです……? 誰かに怖いことされているの?」
とまどいながらも、少女の背中をさする。
「違う、うれしいの」
彼女が体を離した。泣きながら笑っている。
「庭師さんが目が覚めて、うれしいの」
「目が覚めた……」
もうひとつ、足音が近づいた。
少年は少女の体を抱きよせる。
――この人を、守らなければ。
入ってきたのは、中年のメイドだった。
少年の緊張をよそに、少女がするりと腕を抜け、メイドのもとへ走り寄る。
「マデリンさん! すごい、すごいの……。庭師さんが目を覚ましたの!」
メイドは無表情に
「よかったですね」
とだけ答えた。
メイドは少女がテーブルに置いた盆を取り、
「目を覚まされたなら、お食事を作り直させましょう」
と、扉を開く。
部屋を出る前に、
「お嬢様は、事情を説明したほうがよろしいかと。その方、固まってます」
と言い置いた。
「何から……」
寝台に腰かけ、彼女は困った顔をした。
「まず、ここはどこ?」
少年が尋ねると、
「ゲルバルドさん、という人のお屋敷」
少女がこれまでのいきさつを語りはじめた。
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