確信

夕方、降りつづく雨のなか、少年は少女の部屋へ行った。

窓を叩いても、返事がない。

車寄せで彼女を見かけたのは、昼下がりだったのに。

夜にかけて何度も見に行ったけれど、ランプが灯ることはなかった。

敷地内で、アレクは見かけたのに。


――彼女はひとりで、どこかへ置いていかれた?


首のあざ。

苦し気な顔でどこかへ連れていかれた彼女。

彼女はあのとき、何を言いかけた?

いま、あの人はどこで何をしている?

しかも、少年が知る限り、彼女の不在は二回目だ。

いや……果たして二回だけなのだろうか?

毎日、花を届けているわけじゃない。

近ごろは、彼女を忘れようと、接触はひかえていた。


――あの人に、何が……。


少年は雨に打たれながら、窓を見上げ続けた。



――なんとか、あの人に会わなければ。


あくる日、少年ははやる心を抑えて仕事を急いだ。

そんな日に限って、裏庭にほかの使用人がいたり、

根が腐ったプラタナスを見つけたりで、なかなか彼女の部屋に近づけない。

日が落ち切る前に、やっと部屋の窓を叩く。

窓の向こうに現れた少女の顔に、生気がない。

彼女は部屋を出ることなく、窓を開けて言った。

「ごめんなさい……。お花はもういいです」

「お花じゃなくて。あなたに、何が……」

そのまま窓が閉じられ、彼女は部屋へ戻ってしまう。

「お嬢様……っ」

誰かが来る気配がある。

少年は食い下がることもできず、その場を走り去った。


――あの人に、何が、何が、何が。


不吉な予感が、確信へと変わっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る