頭上の石

がっかり子息

頭上の石

アムはいつも頭上の石を見ていました。

隣に住むリリに、なぜいつも上を見ているのか聞かれても、見る事をやめませんでした。



アムはいつも頭上の石を見ていました。

毎日通る道のそばにある畑で仕事をしているモロおじさんに、危ないから前を見るようにと注意されても、石を見る事をやめませんでした。



アムはいつも頭上の石を見ていました。

ある日村を訪れた聖職者にもっと色々なものを見てみるようすすめられても、石を見る事をやめませんでした。



その石に手を伸ばしても絶対に届かないのに、いつか自分を押し潰してしまうのではないかと不安だったのです。



ある日アムは、足元の石に躓いて転んでしまいました。

思わず頭上の石から目をそらしてしまった彼は、あわてて上を見ようとしましたが、首が痛くて見上げることができません。



ずっと上を向いていた首は、彼の気がつかないうちにとっくに限界を超えていたようでした。



アムは仕方なく足元の石を見下ろしました。

小さな石のそばには、白い花が咲いていました。

それを見てアムは、ほんの少し歩く場所が違っていたら、この花を潰してしまっていたかもしれないという事に気がつきました。



ああ、とっても綺麗だなぁ。



じっと花を見つめていると、視界に影がさしました。



前を向くと、以前危ないからと注意してくれたモロおじさんが、心配そうな表情でこちらに歩いてきている様子が目に入りました。

その隣には、リリもいます。



ほら、いわんこっちゃない。大丈夫かい?



そういって、モロおじさんとリリは、アムの手をひきました。

されるがまま立ち上がったアムは、二人にお礼を言いました。



きれいなお花だね。



お礼に続いてアムがそういうと、モロおじさんとリリは不思議そうに首を傾げてからくすくすと笑いました。

どうしたのと聞くと、リリはモロおじさんを見上げながら言いました。



このお花、モロおじさんの畑に沢山咲いているよ。



アムはとてもとても驚きました。

そして、良くみると、真っ青な草たちが風に揺れる様がとても綺麗なことに気がつきました。



ずっと遠くに見える山の麓には鮮やかな赤が広がっており、てっぺんは白く塗り替えられています。



頭上の石の灰色ばかり見ていたアムにとって、それは沢山の色に彩られていて、どれも新鮮でした。









その日からアムは頭上の石を気にすることをやめました。

落ちてくるとしても、こないとしても。

ずっと上を見ていたとして、何か変わるわけではないことに気がついたからです。

それならば、この色鮮やかな世界でリリやモロおじさんと一緒にいたいと思いました。



首の痛みがなくなったころ、アムはふと頭上を見上げました。





そこには、真っ青な空だけが、広がっていました。







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頭上の石 がっかり子息 @gakkarisyu

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