某教授のひとりごと

 科学とは、その事象を再現できる、もしくは法則的にそうなって確からしいといえる事象に対してのみ成り立つ分野である。


 しかし、今日こんにちにはびこる摩訶不思議な生態系、超自然的な能力を使いこなす種族、これらを枠組み立てて統率するには骨が折れるものであった。

 例えば、「火を生み出す」という能力ひとつとってみても難儀なものであった。この力はヒトの想像をきっかけに発生する。しかし、この「火を生み出す」という現象も、人によって指先からライターほどの火を灯す程度であったり、敵対組織の重要拠点に壊滅的被害をもたらすほどの爆発的な火炎を生み出すものであったりと振れ幅が大きい。同じ思考の力であるにもかかわらず、ここまで差が出るものであろうか。

 この問題に対し考えられる要因として、目的の差異、意志の強度の差異、発火現象に至るまでのイメージの精密さの差異などがある。しかしそれらはあくまで「火を生み出す」という行為が可能であることが前提の話だ。


 そもそも燃焼には「可燃性物質」「酸素」「熱」の3つが必要不可欠である。意志の力のみでこれらを生み出すことができるのか、もしくはそれに準ずる何かを生じているのかわからないが、いずれにせよ、意志によってエネルギーを操作していることは間違いないと思われる。ある学者は、これらの能力者たちが皆すべて同じく四次元空間とつなぐ力を有し、各々が別々のものを取り出しているという説を唱えていたが、具体的な証拠は未だ見つかっていない。

 過去の超心理学者たちは超科学の存在にもろ手を挙げて喜んだが、やはりどうやってそのエネルギーを生み出しているかは明言できていない。


 科学というものはもともと統計的に判断されるものであったゆえに、数値的に法則化されない事象に関しては科学の枠組みから外さざるを得ない。そのため、科学の限界の先を司る学問、超科学的な学問が必要となった。


 それが“特異学”だ。


 これまで科学の対象外と判断された事象たちは、非常に雑多な、そしてふんわりとして曖昧な枠組みのなかに「新科学」として確立されたのである(新・旧科学は世間一般的に、もしくは揶揄やゆする目的で使用される俗称である)。


 BS(Beyond Singularity)、科学的特異点の先、科学のその先を記す学問が掲げられると同時に新しい時代が幕を上げたのだ。


 では、旧時代の科学はもうお払い箱なのだろうか?


 新時代になってからも、旧科学者たちはどうにか証明をしようとEQ(いわゆる感情指数)というものを使ったこともあった。その能力を発揮したときの気温、湿度、前日の睡眠時間、対象との関係性、そして脳波、事情聴取に至るまであらゆる条件を加味したが、旧科学では未だ証明するに至っていない。その結果、科学者たちはこれまでの科学体系は終焉を迎え、これからは特異学の時代だと匙を投げたと世間一般的には思われている。


 私はその点に異を唱えたい。

 新時代を迎えてもなお、世界に広がるインフラ、様々な機器、医療もろもろは相も変わらず旧科学に支えられ生き続けている。そこまで生活に根差されたものが邪魔者扱いされているわけがない。

 旧科学も未だ健在なのだ。


 ここまで述べたことから、読者のみなさんは、私が旧科学の信奉者であり、新科学を毛嫌いする時代錯誤な人間だと思うかもしれない。

 しかし、ここでその認識を改めさせていただきたい。十何年も前のことだが、私が研究所でボヤ騒ぎを起こしてしまった時、研究員であり発火能力者パイロキネシストでもあるT氏の炎操術で助けてもらったことには今でも感謝の念を持っている。休日には鳥人族の友人ともよくハングライダーをしに行く。東京特異総合研究所を見学させていただいたときはあまりの興奮に失神しかけた(何を見たかはこの場では伏せておく)。


 私は、いや私もほかの科学者たちも、新しき科学という神秘的な存在に敬意を抱いているのだ。私たちがこれまで見ることもできなかった景色を見せてくれた彼らに感謝しているのだ。


 そのうえで、私は自分たちの学問にできることを探っている。

 それは、旧科学でも新科学の現象を説明できるということでもいいし、新科学でさえも達成できない限界の先の限界、そのさらに先を見つけるということでもいい。

 兎角、私はあり得るすべての可能性を信じて、旧科学とともに歩んでいきたいのである。



 ――某教授のブログより抜粋――

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BS520 四方山次郎 @yomoyamaziro

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