第12話



     6


 金曜日。授業も終わり、留美と優は学校近くのカフェに来ていた。いつもならば週末直前という開放感溢れる気分になれるはずなのに、二人はぼんやりと目の前のアイスを気だるそうにつついていた。燦々とした日差しが差し込む店内にはほとんど客がいない。暑い空気にさらされてアイスは既に半分くらい溶けてしまっているが、二人はほとんど気にしていなかった。

「私、どうしたらいいのかな」

 あまり思い出したくないことを考えながら、ぼそっと優は呟いた。ん?と目を上げて留美は考え込む。

「うーん。悟さんがその店長を好きと決まった訳ではないけれど、その様子はどうなんだろう……」

 目を閉じると、彼の動揺した顔をありありと思い出すことができる。気付いてしまった以上、彼が店長を見つめていることを気にせずに仕事に集中することなど今の自分には到底できそうな気がしない。

 でも、あの店にいて経営のこと、礼子さんの店長としての考え方をもっと学びたい、という気持ちは前と全く変わっていなかった。

「――やっぱり、今のまま辞めることはできない。バイトは続ける。 悟さんは自分で自分のことを鈍感って言っていたわ。いつか私のことを見てくれる日がくるかもしれないもの。――私、負けない」

興奮して心臓がドキドキしているのが止まらない。でも、最後まで言い切った優に留美は優しく微笑んだ。

「うん。そうね。君は十分頑張った。だから、私からご褒美をしんぜよう」

 おもむろに店員さんを手招きし、ジンジャーエールを二つ注文する。

「ちょっと留美。今、それは飲む気にならないんだけれど……」

 店員さんはすぐに橙に近い黄色の液体と、氷がたっぷり入ったグラスを持って来てくれた。ミントが上にちょこんと乗ったそれは、下からシュワシュワと泡が立ち上り、日の光に透けてとても綺麗だった。

「いいから、いいから。まぁ一口」

 にこにこしながら留美が促す。仕方なしに優はそっとストローに口をつけた。

舌先を、ピリピリとシュワシュワとジンジャーエールが踊っている。

(優、頑張れ。優、負けるな)

 そう言ってくれているような気がした。

  

 炭酸が、心にわだかまった重い気持ちを溶かし、生姜の辛みが自分を熱く元気づけてくれる。ふいに溢れた涙を拭おうともせず、優はもう一口飲んだ。塩辛さが混じっても、ジンジャーエールの味が消えてしまうことはなかった。

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初恋ジンジャーエール カフェから始まる物語1 ゆうき @fuyuyuki_0412

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