幻想

 彼女が、夢を見ていた。

 彼女自身も、覚えていない。それを見ることができるのは、自分だけ。

 彼女は、夢の中で世界を救う。何回も何回も、わけのわからん異世界的な何かから、彼女はこの世界を守り続ける。

 そして、世界が守られると彼女は目覚める。世界を救ったことなんて忘れて、普通の生活に戻っていく。

 夢の中で彼女の愛に、何度応えただろうか。ぼろぼろになった彼女を、夢の中で何度抱きしめただろうか。

 すべては夢で、そして、ここは現実。どれだけ彼女ががんばったところで、自分以外の誰も覚えていない。

 それでいい。自分が覚えていれば、それでいい。彼女が夢の中から帰ってこれるように、何度でも繰り返し、自分は彼女の夢に飛び込もう。


「おい」


 何度目かの、世界の危機を救った彼女が、また目覚める。


「次当たるぞ」


「ありがと。どこ?」


「問6のふたつめ」


「ありがと」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

葵色の幻想 春嵐 @aiot3110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る