第二十九話 研究発表のための必要悪

第二十九話


居心地のよい部室を出て、皆は午後の授業をまったり受ける。

とくに浩は、食べすぎたので眠い。腹の皮が張れば、目の皮が弛むのだ。


午後は古典の授業だ。古典落語でも、古典音楽でもない、国語の古典なのだが、これはさっぱりわからない。古文といっても親分子分とは違うわけで。


紫式部は紫の敷布をしいていたのか、とか 清少納言はヒマなときに枕の掃除をしていたんだろうか、とか、松ぼっくりがあったとさ、高いお山にあったとさ、とか続くのが「土佐日記」なんだろうか、とか、ろくなことを考えない。授業じたい、先生が何かを読んでいるようだが、まったくわからない。まるで外国語だ。


まあ、明治の文学が出てきても現代国語というくらいだから、この辺の分け方はたぶん適当なんだろう。


最後の授業は先生の都合で自習になった。帰るな、とは言われたが騒ぐな、とは言われていない。ただ、大声で騒ぐと苦情が来てろくなことにならないのを、皆知っている。


そんな中、アリサが声をかけた。

「はい、オナ研集合!」


「オサ研だってば。」と浩が突っ込むが、これもそろそろ定番になってきた。

お約束とても言えばいいのだろうか。


「これからの活動について、話しあうことにしましょう。というわけで、うちのぶって何をするか覚えてる?ヒロくん。」


やっぱり浩に話が振られた。

「幼馴染について研究する。」浩は投げやりに答えた。まあ、読んで字のごとしだ。


「そうなんだけど、だから何をするのか、って言ってみて。それがないといつまでも人間のクズよ。」

まだ言うか。


「じゃあ、いろいろ具体的にまとめる。幼馴染の定義は何か、理想の幼馴染はどんなものか。幼馴染がいることのメリット、デメリット。ウザい幼馴染との付き合い方。」


今までのことを思い出しながら浩は答える。


「まあまあね。ただ、最後の一つは何かしら?ヒロくん。」

アリサが突っ込む。 浩は無言のままだ。


「まあいいわ。こうやっていろいろ研究するわけねよ。で、研究したらそのあとどうするの? だれか思いつく?


高円寺が手を挙げて答える。「研究、ときたら次は発表だろうね。」

雪度マリもうなずく。


「もうわかったよね?というわけで、幼馴染研究会は、学園祭祭で研究発表をします。」

アリサが宣言した。


「おおお~~」浩、高円寺、雪度マリが拍手した。

横から生徒会長の大久保詩葉が口をだしてくる。


「サークル参加は夏休み前に締め切ったけど。」

アリサは平気だ。


「そんなもの、何とかできるでしょ? 展示だけなら、教室は余ってるはずよね。それに、必要なら、明日にでも大義名分作ってあげるから。要するに、認める理由があればいいんでしょ?」

「まあ、そうなんだけど…」


詩葉は口ごもる。

「私がごり押しして私利私欲のために生徒会を使ってるように見えるのはちょっと…。」浮かない顔をしている。せっかくの美人なんだから、笑顔でいればいいのに、と浩は思う。

まあ詩葉は浮かない顔をしていても美人なのだが。


「そんなの、気にしないでも大丈夫よ。だれが見ても文句ない理由があればいいんでしょ?」

アリサは自信満々だ。

「じゃあ、ちょっと準備するわね。」アリサはそういうとスマホを打ち始めた。また親の意向を使うのかよ… 浩はちょっと嫌な感じがした。


「そりゃ、持ってるものは親でも使えっていうし。」浩は独り言を言う。だが、なんだかおかしいことに彼自身は気づいていない。



そして15分も経たないうちに、部室のドアが大きくノックされた。

「何のためのインターホンだよ…」高円寺がつぶやく。


アリサはつかつかと歩いて行って、ドアを開ける。


「あなたの日野蓮司、只今参上いたしました。」

皆、一斉にその声の方向を見る。


今回も、すまなそうに立っている副校長と一緒にいるのは、プラチナ学園の制服を着たアリサの幼馴染、あるいは知り合いの日野蓮司だった。


「出たな、無駄なイケメン。」高円寺が叫ぶ。ショッカーの怪人かよ、と天の声が突っ込む。


身長180センチはあるだろう、すらりとしたその体躯の一番上に生えている髪の毛には。軽くウェーブがかかっている。鼻筋が通り、濃い眉毛に大きな目。

ちょっとだけアンバランスだが、いわゆるイケメンと言える。ただ、言動がちょっと残念なので、高円寺は彼を「無駄なイケメン」と呼んだわけだ。


今回は、どうやらアリサが呼んだらしい。

「で、できそうなの?」前置きをせず、アリサは日野蓮司に聞く。


「もちろんです。アリサさんのお願いですから。」日野蓮司はもったいぶったポーズで答える。


「先ほどの電話とメールをいただいてすぐ、プラチナにも『幼馴染研究会』を作りました。会長は僕です。学校の了承も取り、部室も確保してあります。

それで、今度の学園祭で、プラチナとパイライトの両方の幼馴染研究会が共同研究の発表をする、ということで、共同展示の申し入れ書がこれです。プラチナの校長からパイライトの校長あてに、共同研究させるので協力ヨロシク、という趣旨のレターです。校長の印鑑もちゃんと入っています。」


日野蓮司は得意げに言った。


「これ、もしかして移動時間を入れて15分でやったの…?すごい行動力。」雪度マリが舌を巻く。


「ほんと、無駄に行動力だけはあるのよね、あんたは。」アリサがちょっとつまらなそうに言った。


「無駄とおっしゃいますが、この行動力があればこそ、学園祭での展示がかなうのだからいいでしょう。」日野蓮司は答えた。


その通りだった。クラス転移。いやクラス転移にも参加していないこの状況で、学園祭にこれから参加する大義名分。それが、プラチナとの共同研究、というわけだ。


「この点だけは認めざるを得ないわね。蓮司、ありがとう。」アリサは蓮司に礼を言う。

「生徒会長。両方の学園が認めた共同研究。これ、参加を認めるわよね?」アリサは念を押す。


ここまでされたら是非もない。生徒会長の大久保詩葉も黙ってうなずいた。


「というわけで、これから共同研究のスタートです! まずは顔合わせですね。今日はさすがに部員への説明とかてばたついているので、あしたの放課後にしましょう。


メンバーを連れて、ここに参上します。」


アリサが黙ってうなずく。


「では、本日はこれにて失礼いたします。また明日お会いしましょう!」

蓮司はそういうと、副校長を引きつれて軽やかに帰っていった。


「なんだか、あっと言う間だったな~」高円寺がしみじみ言う。


「ああいうオサ穴馴染みがいると、便利なときもあるけど、結構面倒くさそうね。」雪度マリが付け加える。なんだか遠い目をしている。


「まあ、悪い奴じゃあないからね。時々はこうやって利用してあげると喜んで何でもするから。パン買って来させたり、鞄持たせたり。」

アリサが事も無げに言う。


「それ、パシリ…いや何でもない。」浩は言いかけた言葉を濁した。


「まあ、今回については、いわゆる必要悪って奴なんじゃないのか。」高円寺が頭の後ろにを両手で支えるような恰好で、椅子にもたれかかりながら言った。

浩もなんとなくそう思った。


というわけで、幼馴染研究会は、アリサのリーダーシップの下で、学園祭でのプラチナ・・パイライト共同研究発表に向けて動き出すことになった。



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久々の更新です。

新作にかかっていました。そちらもよろしくお願いします。


Sランクパーティを突然追放されたんだが、いつの間にか大人気のVチューバ―になりました。今さらパーティに戻ってほしいと言われても無理です。


https://kakuyomu.jp/works/16816452219968273364









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今日から幼馴染! 初対面のお嬢様がなぜかぼっちの俺の幼馴染だと言ってきた件 愛田 猛 @takaida1

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