第二十八話 部室天国


浩は、ひさびさに一人で登校した。意外に新鮮な体験だったりする。

アリサもほどなくやってきた。髪の毛もいつも通り綺麗に輝くツインテールだ。

あの手入れだけでもすごく時間がかかりそうなものだが。


午前の授業が終わり、昼休みになる。

アリサは皆に声を賭ける。



「オナ研メンバーは部室に集合ね。」

「オサ研だってば。」と浩が突っ込む。


これもそろそろ定番のやりとりになりつつある。


アリサ、浩、高円寺、雪度マリ、の順番で歩きだす。

今日は大久保詩葉は生徒会の用事があるようで、生徒会室で昼食をとるようだ。



四人は、弁当をもって部室のある棟に向かった。

アリサは手ぶらだ。


あれ、弁当は?と浩は思うが、きっと何とかしてあるのだろう。だいたい、部室で弁当を食べよう、といったのはアリサなのだから。


部室の前には、副校長と瀬場が待ち構えていた。

アリサが声をかける。


「ご苦労様。準備はできてるわよね?」

「もちろんでございます。」副校長が笑顔で答えた。


部室の中から、良い香りが漂ってくる。

「リクエスト通り、ビーフシチュー0でございます。」副校長が言う。


よく見ると、真ん中のテーブルの上に、大きな鍋が置いてある。

その周りには、大きな皿と小さな器、それからバスケットの中にパンがたくさんン並んでいる。


「みんなの分もあるからね。」アリサが笑顔で伝えてくれる。

「お弁当をあたためたければ、電子レンジがあるからね。」

さっそく高円寺は弁当を温めに行く。浩もそれに続く。


雪度マリはそのままだ。

「あたためないのか?」高円寺が聞く。


「私のお弁当はサラダ中心だから、温める必要はないのよ。それより、シチューをよそいましょうか? アリサさん、よろしいですか?」

と、ちょっと気取った感じで雪度マリが言う。


「そうね。お願いするわ。私のはこの大きなお皿にしてね。」

他の連中は自分の弁当もあるし、小さい器でいいだろう。


ひととおりいきわたると、アリサが改まっていう。

「えー、部室ランチの初日なので、ちょっとサービスしました。いつもこうじゃないからね。」皆、無言でうなずく。


「では、いただきます。」

「「「いただきま~す」」」


アリサが一口食べて、「うん、おいしい。ありがとう。」と副校長と瀬場に向かって言う。


「では、ごゆっくり。鍋や食器はそのままで結構ですから。」副校長はそういい、部室を出ていく。瀬場もそのあとを続く。


「じゃあ、ヒロくん、ビーフシチュー食べてね。」そういうと、アリサは自分の皿から大きな牛肉の塊を取って、浩の前に差し出す。


「はい、あーん。」

まただ。アリサが自分のスプーンで浩に食べさせようとしている。


まわりの目が気になる。といっても高円寺と雪度マリの二人だけだ。

浩は観念した。


スプーンをぱくりと口にくわえる。

うん、美味しい。


「おいしいよ、ありがとう。」浩が言う。


「じゃあお返しをお願いね。」アリサが当然のように言う。


「わかったよ。」浩もそういうと、自分のシチューからニンジンを取ってアリサに突き出す。

「はい、あーん。」

「ちょっと待ってヒロくん。どうしてニンジンなのよ。もしかしてニンジン嫌いなの?」


図星を突かれた。


「好き嫌いなく食べないと背が伸びないわよ。ニンジンは自分で食べてね。」


なぜか、雪度マリが下を向く。どうやら彼女も背が低いことをよしとしていないのだろう。


今度は肉を差し出し、アリサは満足そうに言う。

「うん、おいしい。ヒロくんも少しずつだけど幼馴染の扱いかたがわかってきたのかもね。」


どう考えても、これって普通の幼馴染の関係じゃないよね。むしろ恋人だよね。でもそんなに甘いムードないんだよなあ。アリサは優しい、だけどどこか事務的だ。浩が好きだからやっている、というより、何かをしなければならない、というシナリオをなぞっていづだけのようにも感じる。


ビーフシチューは確かにおいしかった。きっと高い牛肉を使っているんだろう。鶏肉も入っているかな、と浩は思ったが、これは正統派のビーフシチューなので、ビーフ以外の肉類はさすがに入っていない。



自分の弁当以外にパンとビーフシチューを食べたので、さすがに浩も満腹になった。高円寺も同様だ。


雪度マリもシチューを食べている。

「あー、こんなことじゃダイエットにならないわ~」そういいながらも笑顔だ。パンに手を出していないのは、せめてもの矜持なのだろう。


「ダイエットなんかすると背が伸びないぞ。」浩もつい言ってしまう。さっきアリサに言われたことを、なぜか雪度マリにぶつけてしまった。


雪度マリの顔が一瞬で不機嫌になる。

「あんたに言われたくはないわよ。本当に人のことを考えない自分勝手なのは変わらないよね。、だから…」

雪度マリはそこで口をつぐんだ。


だから何だろう。

変わらない、とか言われても変わらう前の僕のこと、そんなに知っているとも思えないんだが。まあ事情通だから知っているのかな?


そう思いつつ、何かがひっかかる浩だった。




ーーーーーーーーー

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


★やハートが増えたら…(笑)。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る