第二十七話 朝から運動!(2)

音楽が流れてきた。

ラジオ体操が始まる。


公園には、十数人が集まっている。

前でラジオを操作していた爺さんが、歌い始めた。

♪新しい朝が来た…


ここに集まっている人々は、だいたいがお互い顔見知りのようだ。

年配の連中が大部分だし、年寄りは朝が早い。同じようなメンバーが集まるのだろう。


ましてやここは長山市だ。田舎の都会、といったところで、地元民が多い。下手するとじいさんばあさんは小学校の同級生だ。


まあ、そのころに小学校というものがあったのかはよく知らないんだが。尋常小学校ってやつかな?いや、さすがに違うかな?それって宮沢賢治とかの時代だったような気がする。


いずれにしても、この人たちは、もしかしたら究極の幼馴染なのかもしれないな…

小さいころから近所で遊んで、仲間内のだれかと結婚して、結局ずっとここにいる。


明るいグループ交際?その中でくっついてそれでもグループ交際?それともこの時代はお見合い結婚だったのかな…。


アリサのせいで、最近「幼馴染」について考えるようになった浩であった。


ラジオ体操の歌、っていうのは昔からあるらしい。これって、アレンジも昔風だし、もしかしたら戦前の録音をそのまま?まさかね。でも、今だったらシンセサイザーとか使ってもっとポップな音楽にするのかもなあ。いや、それより違う曲にするか…。


体操が始まった。小学校以来、ラジオ体操なんかしたことあったかな?中学校、高校の運動会でやったような気もするけど、全く覚えてないや。パイライトでやった覚えはないな。


動くのが億劫で、ただ立っていたら、アリサから注意された。「ヒロくん、これはストレッチも兼ねてるのよ。明日筋肉痛で動けなくなるのが嫌なら、ちゃんとやるのよ。」なるほど。体を伸ばしたほうが、少しでも筋肉痛が減るのか。


ちょっと身を入れてやり始めた浩であった。


体操が終わったところで、一人が浩とアリサのところに近づいてきた。

「アリサさん、おはようございます。」よく見ると、プラチナの生徒会長、国立真弓だった。

「あら、おはようございます。やっぱり来てたのね。」

どうやらアリサは、国立真弓がここに来ていることを知っていたようだ。

「ええ、祖父がこの体操のラジオ担当ですからね。何十年もやってるんですよ。私も何となく習慣でで、だいたい来ています。」


ということは毎日6時には起きているのか。すごいな、と浩は思う。浩は、下手すると8時まで寝ていることもあった。さすがにその時は遅刻しそうになって、無理やり父に車で送ってもらったのだが。


「佐藤さんも、おはようございます。ここまでジョギングされたんですか?」立川真弓は、浩のことを覚えていたようだ。


「ええ、何とか。昨夜はちょっとゲームで夜更かししたもので、眠いんですけどね。」浩はちょっと頭をかいた。


「まあ、それはいけませんね。深夜にゲームをやりすぎると、反復横跳びに踏まれますよ。」そういって国立真弓はくすっと笑った。


え?何でそんなことを言うんだろう。

自分の周りにはエスパーでもそろっているんだろうか。

浩は国立真弓を二度見した。

やはり美人だ。ショートカットでスポーティなのに加え、今朝はTシャツ姿だ。アリサと違い、出るところはしっかり出ている。どうしても、男としては目の行き場が決まってしまうのであ。


「ヒロくん、どこ見ているの。そろそろ行くよ。」アリサに注意される。やはり気づかれていたか。もしかしたら真弓も気づいているのだろうか。何も言わ寧けど。


「ではまた。ごきげんよう。アリサは国立真弓に挨拶して、浩の手を引いて走り始めた。

疲れた体に鞭打って、浩もむりやり走った。

家にたどり着いた時には完全にへばっている。アリサも一緒に到着した。ただ、アリサは平然としているのは、やはり鍛え方が違うんだろう。


「今日は朝食は作らないよ。これからシャワー浴びて髪の毛を乾かしてたら時間がないから、先に行ってて。」アリサが事もなげに言う。


なるほど。アリサの髪の毛をもし洗ったりしたら、乾かす時間だけでもかなりかかりそうだ。まだ7時過ぎではあるが、時間がかかるのだろう。

浩はすなおに従うことにした。


「わかったよ。ところで、昼はどうする?」

一応聞いておく。

「今日は、部室で食べましょう。私の分は自分で用意するから、ヒロくんは自分のぶんだけ持ってきてね。」

ということで、自分の分は母、浩子に頼もう。


「ヒロくん、最後のストレッチを忘れないでね。絶対役立つから。」


そう言い残すと、アリサは自分の家に戻っていった。家の前には、瀬場の車が止まっている。たぶん今日は車で行くのだろう。


浩も家に戻り、冷たいシャワーを浴びて朝食を食べる。髪の毛は乾ききらないが、まあいいだろう。

「朝からスポーツするヒロくんはかっこいいよ。この調子で頑張ってね。」浩子が言う。こんな美人に言われたら、世の中の多くの男はみな喜ぶだろう。浩にしても、自分の母親でなければ歓喜するところだ。


そういえば、ストレッチもしたほうがよかったな。

浩は部屋に戻り、制服をいったん脱いで、パンツとシャツだけでストレッチを端絵メタ。大したことをするわけでもないが、とりあえず手足を曲げ伸ばしとかしてみた。まあ、やらないよりはやったほうがいいだろう。


ふと視線を感じ、浩は窓の外を見た。アリサが浩の部屋を眺めていた。パンツ姿を見られたことになる。


まあ男だし、変なことをしていたわけではないので、浩としてはべつに見られてもいいんだが、アリサはそんなことをしていていいんだろうか?


時々、アリサの行動原理が理解できなくなる浩であった。







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