(3)銀の玉 その2
夏の夕方、空が紫色になるのが好きだ。あそこに私に足りない何かがある気がする。
私は唐突に肉を焼きたくなったので、綱島のスーパーへ行こうとした。日吉は基本的に便利な街ではあるが、生活水準的には綱島か元住吉の方が良い。
歩けない距離でもないし何であれば食べることでストレス解消している人間なので健康のためには歩いたほうが良いのだが、どうも面倒が勝ってしまい、私は日吉駅に向かった。
普通部通りを歩き、階段を数段登り改札へ向かう途中、私は違和感を覚えた。
銀の玉の形が少し変わっているのである。といっても誰も気づかないくらいの微量な変化である。
これに気づいたのは差し詰め私が銀の玉愛好家を名乗れるほど観察もとい監視してきたからである。
「まあいいか」
私はそう思い、改札を通り抜けた。
買い物が終わり日吉に戻ってきたときにも銀の玉はほんの少しだけ歪な形をしていたが、誰も彼も銀の玉トーシロなのか、誰も気付いてない。私だけが気付いている。
翌日、好きな漫画の新刊を買いに日吉駅の本屋へ向かった。大きな本屋ではないが周辺ではまだ物揃えの良い本屋なので私は好きだ。既にこの本屋に私は数十万捧げていると思われるので、何らかの褒賞を貰っても良いのだが未だに何も連絡は来ない。
本屋へ行くには日吉駅の構外を通るのだが、つまりそれは嫌でも銀の玉を目に入れるということである。
が、銀の玉をよく見ると元の形に戻っていた。
昨日、「私だけが銀の玉の変化に気付いてる」と考えたが、これは訂正した方が良いのかもしれない。私が疲れているので玉を正確に測量できない、これが正解なのかもしれない。
私は自分の身体を心配して、その日は飯も食わずにすぐに寝た。
日出づる町と吉柳 麦野みやび @3yaya
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